プロローグとモブ
モブとはー
モブキャラクターの略で、主に漫画やアニメにおいて場面に賑わいを出したりする言わば[その他大勢]のことである。
決して話の中心になることはない彼らは、ある意味でその世界観において最も常識的であるとも言い換えられるであろう。
四月ー
まだ肌寒い春の深夜。高校二年生に進級を控えた前夜に一人寝息をたてるこの少年の名前は茂野武流。
近所の高校に通うごくごく一般的な高校生だ。
なんとなく生活してなんとなく学校に通い、なんとなくただ近所だという理由でなんの特徴もない普通科の高校に進学。流石に高校生ともなれば[自分には特別な力がある]なんて妄想も影を潜めて無難に生きていこうと考えても不思議じゃない。むしろそんな人間がいるからこそ社会が回るんだと自分を納得させて日々をやり過ごしている人も少なくはないはずだ。
だが彼の場合は特に顕著で、まだ夢や希望に溢れていた少年時代からどんなに頑張っても頑張らなくても大成功も挫折も味わうことなく常に中の中に位置付けられる、宿命とも思える普通体質だった。
「……」
人が三人以上集まれば自分じゃない所に話題の中心が移り、スポーツも勉強も中の中、特殊な趣味もなければ特別ダメなエピソードもない。ホントにつまらない男だ。
「……おい……」
家族も所謂普通で、サラリーマンの父と専業主婦の母。二個下の妹が一人のよくある家族構成。
人に話す面白エピソードと言えば他人の出来事しか出てこないしトークが立つわけでもない。きっとこの先もなんの波乱もなく普通に生活して普通に恋愛してこの先もつまらない人生を過ごして行くであろう。まさしくモブ。モブとして生きることをなにかに強要されたとしか思えない普通オブ普通。
「……うるせぇよ! 」
……モブのくせに変わった寝言だ。
「寝言じゃねえよ!お前に言ってんだよ! 」
え?なに?聞こえてるの?
「さっきから夜中にベラベラ一人で喋りやがって……寝られないだろ!てゆーか誰だよ! 」
声だけ聞こえることの疑問はないのか?私は……まぁ……ナレーションだけど……
「……は? ……なに言ってんだ? ……夢? 」
夢……に近いか? 物語だし…
「え? 物語? ナレーション? 」
混乱しているようだ。確かに寝起きにこんな話を聞かされて理解出来る人間もいないだろう。それがモブ人生をひた走るこのつまらない男なら尚更だ。
「うるせぇよ! こんな不思議体験理解出来るかよ! 」
突然、部屋の扉が乱暴に開き、武流のこめかみに分厚い漫画雑誌の角が突き刺さる。うわぁ……
「お兄ちゃんうるさい! こんな夜中になに騒いでんの! 」
しかし武流はそんな妹の非難の声を最後まで聞くこともなく深い眠りに……気絶? 眠りについた。合掌。
ご指摘のあった部分を修正しました。大元は変わってはいないので違和感はないかと……