エピローグ
魔大陸の奥地に存在するダンジョン『図書迷宮』には、世界に存在したあらゆる書物の複製が置かれている。最奥に済む偏屈な賢者が、その叡智と千里眼を持って、世界にある書物を複製しているからだ。
彼がいつからこの迷宮にいて、どうしてそんなことをしているのか、知る者はいない。ただ彼はずっと昔からそこにいて、書物の複製を生み出し続けている。
この迷宮には、ありとあらゆる書物がある。その書物は迷宮の外には持ち出せないが、中には、既に失われたミリス教団の原典や、伝説の剣術の秘伝書もあると聞くがそんな稀少本を見つけるのは、砂漠に落とした真珠を見つけるに等しい。誰かの日記帳や、一ページしか使っていないメモ帳のようなものが本の大半を占めているのだ。
その手記は、図書迷宮を探索した冒険者が持ち帰ったものだった。
彼の話によると、それは図書迷宮の本棚から抜き取ってきたものではなく、迷宮の片隅で朽ちて骨になった誰かの死体の荷物の中にあったのだという。
名前もタイトルも書いていないその手記には、今はもう昔話となってしまった王竜王討伐の詳細が克明に記されていたのだ。
発見されたそれを、妄想小説だと、人々は言った。
ユリアン=ハリスコの四十八剣に、四十九本目が存在するはずない。
北神二世と、死神騎士シャイナや盗賊チキータが出会ったのはもっと後の話だ。
『草世葉木』の総帥であったフラウ=クローディアが王竜王討伐に参加していたなど、聞いた事もない。
あの清廉潔癖な元聖騎士団長バルコルが、場末のチンピラのような男であるはずがない。
第一、王竜王国は、今もまだ大国として存在しているではないか。
その、誰ともわからぬ死体が考えた妄想だよ、それは。と、誰もが言った。
意外な所から、この手記に書かれたことが本当に起きた出来事なのだと知れた。
「あ、これは父さんの字ですよ。うわぁ、懐かしいなぁ、何百年ぶりだろう。子供の頃、いつもこの話をしてもらったんですよ……」
手記を読んで嬉しそうに笑ったのは、北神カールマン三世。
始祖の名を継いだ、三代目の北神であった。
こうして、北神英雄譚に新たな一説が加えられることとなった。
その一説は『北神英雄譚 序章~王竜退治~』と名づけられ、小説家によって本になって、爆発的なヒットを生むこととなるのだが、それはまた別の話だ。
ただ一つ、言える事がある。
少年アレックス=ライバックの目的は、確かに叶ったのだ。
END




