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線香花火

作者: オ氏茸挟

 真っ暗な無音の世界に、鈴虫や蛙や流々する水の()が彩りを添え、夏独特の静かな夜をつくりあげる。



 私は夏も終わりに近づき明日から新学期だというのにどこかに気合いを置き忘れてきてしまったらしく、ぐったりとうなだれていた。



 ただダラダラと無駄に過ごした長期的休暇は特に何もしなかった。

予定ややりたいことも沢山沢山あったが、思い返せば結局のところ何一つしてない。

そのなごりなのか、一夜漬けで片づけた夏休みの宿題の出来の悪さからか、どうにも気分がのらない。



 勉強の為に部屋を閉めきっていたから若干温度の上がった空間。

ガラリと窓を開き、夜風を入れるなりカーテンがふわりと揺れ、風鈴が風流な音色をさせた。

私は気分を紛らわせるために網戸も全開に、虫が入ってくるのも気にせず夜の街を眺めながら一人つぶやく。




 ああ、時間が止まればいいのに。

このままイヤなことやりたくないことを一切考えることもなく、ずっと生きてゆければと心底願った。




 そこへ、あれは小学生ぐらいだろうか、遠くで花火をしている集団が見えた。

暗がりに七色に発光するそれをクルクルと丸く回したり。鉄砲のように連続で打ち上げたり、ドラゴンだろうか金色の炎がパチパチと燃え上がった。

彩り鮮やかなそれらと、キャッキャッと遊ぶ子ども達を眺めていると私も不思議と花火をしたくなっていた。

そういえば今年は一度も花火をしていない。

思い立ったら吉日、直ぐ様二階からドタバタ降りると、方向も定まらぬまま大声で叫んだ。



「母さーん、こないだん子供会の花火まだあるとー?」



 直ぐ様、奥から女性の声がかえってくる。



「もうなかー。……あ、ある。いや……あるよー……んー忘れたー」




 丁度入浴中だったようだ、母さんと呼ばれた女性の返事はシャワーの音で途切れ途切れだった。とりあえずダメもとでありそうなところを探しはじめた。

ガチャガチャ、

ドタバタ、

ガチャガチャ、

意外と早く見つかった。が、中身は沢山の線香花火だけだった。

小さな子供達が沢山集まる地域の子供会では、ちょいと地味な線香花火は(とん)と人気がないらしい。沢山残ってそれだけだった。

私も内心線香花火はお呼びではなかった。



「……しょんなか(しょうがない)、やめとこ」



 早速残念な結果に肩を落とす。

もっと派手なドラゴンやロケット花火や爆竹がよかったなと思う。

悪態つくように舌打ちを鳴らすと、私は線香花火が入った袋を未練たらたらゆっくりと閉じた。



 それを見ていたのか、妹がやってくる。小学校低学年の妹は袋に指を指すとどうやら興味を示したらしい。



「アキ姉ちゃん、それなぁん? 」



 ああ、何から話すか、話が長くなりそうで気が遠くなる。

だが変に嘘をつくのは気が引ける、面倒くさくなりそうではあるがほんとのことをとりあえず言ってみた。



「花火ばしたくなったけん探しよったらこれば見つけたとよ」




 袋の中身を広げて見せる。

中身は誰もが知ってる線香花火、それを見た妹は興味が失せてどっかに行くと私は思ったが、妹は疑問符を頭に途端に目を丸くした。




「なぁにこれ? ほんとに花火? 」



 訂正。誰もは知らなかったらしい。

線香花火をお菓子の包み紙のカスと勘違いした妹は、ゴミ箱周辺にこれを移動していたらしい。

花火であることを再度伝えると、返事は早かった。



「やる! する! 」




 始める前に、母さんの案で蚊取り線香と浴衣を取りだす。

火を灯したぶたの蚊取り線香からは蚊取り線香独特の匂いと、久しぶりに取り出したすこし小さな浴衣を羽織ると、遅れ馳せながらもう既に夏だったんだなと実感した。

水の入ったバケツに蝋燭(ろうそく)、チャッカマンと線香花火、我が家の花火大会の準備は早々に整った。


 第一投。妹は線香花火に慎重に火を灯す。

どうも火がうまくつかない、

どうやら逆さまだったらしい。

線香花火の焦げたほうを持ち手にすると再度火を灯す。




……パチパチ……




 ほんの数十秒程の短い時間、線香花火は誰が驚くわけでもなく静かに灯る。

パチパチと、そこだけまるで時が止まったように灯る。

終盤、プスプスと明かりがダマになると、そのまま膨らんだダマは重力に従うようにストンと地面に落ちた。

ダマが白煙を立ち上らせ、辺りはほんのり花火らしい火薬の匂いに包まれた。




 妹と私はお互いがお互い顔を見合わせた。そして、自然と笑みがこぼれた。

線香花火は火を灯せばだいたいがそんなものだが、なぜか二人は笑い出していた。

私は、久々の無邪気な妹の姿を見ながら、思い返していた。

なぜ夏休み憂鬱だったのか。



「ごめんな、急な出張の入ったとさ、ほんとにごめんな」



 夏休みは父さんと母さんと妹と私で海外へ旅行に行くはずだった。

が、父さんはその日仕事でどうしても出張が入ってしまい旅行の話はお流れになった。

もちろん楽しみにしていた妹はだだをこねる。

もちろん当然のようにしょうがないじゃないかとキツく言う私。

喧嘩の結果、妹は泣き出してしまいそれからこの夏休み、私は妹と仲直りするきっかけを完全に失っていた。

とくに宿題や夏休みを無駄に過ごしたことでブルー入っていたわけではなく、妹とのなかなかなおらない溝が私の憂鬱の原因だったのだと今更になって再確認した。





久方の笑みが集まる我が家。

まあ、線香花火もなかなかわるくない。


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