表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

Report,07 「殺人件数」


 月波見神社と光鐘寺の儀式で決定的に違うのは、来栖家がムシガミを祀るのに対し、清賢和尚は退治した。どちらもムシガミ憑きを殺すに変わりはないが、光鐘寺はそれを魔物とし、多くの人々に受け入れられたのだろうか。また江戸幕府の、寺請制度の追い風を受けて、寺の勢力が神社側に勝ったのだろう。奥月村は月前村の下に位置づけられた。

 斑鳩は来栖家で聞いた話を恭次にした。恭次もその間、

「五人ほど、奥月村の元住人から、高野さんと同じ話を聞きました。やはり奥月村の人間には、特有の精神病があるんでしょう。これで解決ですね」

「うーん」

 斑鳩はうなった。

「釈然としないんですか?」

 それに斑鳩は一人言のようにいう。

「年間の、殺人の認知件数は、1300人前後を推移している。殺人を数字で考えるのは危険だが、月前町の人口は2万人。殺人事件に巻き込まれる確率を、十万分の一とすると、五年に一度、起きるかどうかだ。行方不明者の数も含めればまた変わってくるのだろうが、それでも、数に偏りがあるにしても、ここ十年、必ず二人以上の被害者が出ている。行方不明者の数も、増減はあるが、十人を前後している。何よりも十年前を境に、その数字が上がり、安定していることだ」

「けっこう異常な数じゃないですか? どうして問題にならないんです?」

「行方不明者に関しては、ほとんど一般家出人として扱われている。これは捜査本部が設置されない。殺人事件に関しても、中には不審死で処理されているものもある。殺人事件が多発しても、警察の捜査能力が追いついていないのが実状だ」

 斑鳩は沈思する。恭次は素朴な疑問をぶつけた。

「その十年間の殺人事件で、逮捕者は出ているんですか?」

「出ていることは出ているが、それは二人の固定数を上回った時。そうすると一連の、連続殺人犯がいると考えるべき。しかし検視も行われていないものもあり、その結果も公表されていない。メディアも、農村の一角に興味を示さない。何よりも町民が無自覚だ」

 恭次は斑鳩が、何を問題にしているのか分かった。

「もし一連の殺人事件を起こした犯人がいるのなら、それは“ムシツキ”、その精神病にかかっていると?」

 斑鳩は指を鳴らす。

「そうです! もしその犯人を特定できたら、“ムシツキ”の病を証明でき、解明することができる!」

 そこまで盛り上がって、急に沈む。

「ただ犯人につながるものは何もない。そうすると、証明する手立てがない。手詰まりです」

「行方不明者の中に、その被害者がいる可能性は?」

「大いにあります」

「だとしたら、高野瑞希が失踪した時、一緒にいた人物が、何か知っているか、あるいは“ムシツキ”なんじゃないでしょうか?」

「それだ!」

 斑鳩は今にも立ち上がらんばかりの勢いだった。そこでまた沈みかけ、

「しかし聞き込みとなると、たとえ目撃証言を手に入れても、特定するのは困難。正確な情報が手に入るかも心もとない」

「それなんですが、心当たりがあるんですよ」

「本当ですか!?」

 サングラスの奥で、斑鳩の目が光った。

「確か高野瑞希は、霧也くんの同級生で、同じ高校に進学したはずでした。瑞希ちゃんは友人と遊びに行くと言って行方不明になりました。そうすると親しい間柄。交友関係を聞いて、絞り込むことができるかもしれません」

 あるいは高野瑞希が発症した可能性もある。高野老夫婦のためにも、瑞希を見つけたかった。

 霧也の性格からして、そこまで親しかったかは分からないが、可能性を信じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ