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 恭次は病室に隔離されていた。

「何もここまで厳重にする必要はないんですがね」

 向かい合って座る、斑鳩が苦笑した。

「どうです? 右目の具合は?」

「ええ。うっすらと、見えるようになってきました」

「残留していた重金属が、徐々に排出されているようですね」

「こうしてみると、確かに汚染が原因だったんでしょうね」

「いえ、そうともいえません」

 恭次は怪訝そうな顔をした。

 斑鳩は得意げに、

「葛城さんはムシガミ憑きの発作を目の当たりにしましたね?」

「ええ、まあ」

「ではもし自分が、両目とも失明した場合、あんなふうになると思いますか?」

「いやあ、取り乱すかもしれませんが、人を殺そうとはしません」

「つまり、そういうことですよ。葛城さんは外から来た。発症まで個人差はありますが、農薬を扱う仕事と身近だった所為か、葛城さんは三年で発症した。思い出して欲しいのは、ヨルガクルという言葉です。これは失明していく過程を意味しているのかもしれません。ヤミガキタは完全に失明した状態」

「失明し始めた時点で、発作を起こすと?」

「まあ推測ですが。葛城さんは、右目を失明しても、いたって平静でしたね」

「内心はかなり怯えてましたよ。このままどうにかなっちゃうんじゃないかって」

「月前町の人たちは、ムシガミ憑きの伝承を、何らかのかたちで聞かされているわけです。その伝承と同じような状況に置かれ、それをムシガミ憑きと勘違いする」

「集団催眠みたいなものですか?」

「そうですね。自己暗示みたいなものでしょう。来栖直人は完全に失明した状態で保護されました。自衛隊が住民を避難させる際、十数名のムシガミ憑きと交戦しています。失明や、黒斑の症状が出ている人も、二百人近くが保護されました」

 そこで、霧也のことを思い出す。

「そういえば霧也くんは?」

「保護されましたが、施設を脱けだしたそうです」

「そうですか」

 無事であることに安心したが、複雑な心境だった。はたして霧也は、本当に人を殺したことがあるのか。そして恭次のように、体の中の毒は排出されるのか。

「霧也くんも、中毒症状だったのでしょうか?」

「そこが私も疑問です。彼は失明から立ち直ったのに、発作を繰り返していた。彼の証言は、ムシガミ憑き唯一の証言です」

「やはり自己暗示なのでしょうか?」

「それで片付けることもできますが、もしそうなら、毒がぬけても殺人を続けるかもしれない」

 それを聞いて恭次はぞっとした。来栖一族が塀の中にいる間、狙われるのは、自分なのかもしれない。あの夜の、霧也の顔を思い出した。

「少なくともムシガミ憑きは、月前町の人間の、精神的要因にあるのでしょう。殺人衝動にしても、近親婚を繰り返したことによる、何らかの変異かもしれません」

「ウェンディゴ、みたいなものですか」

「だとしたら、悪霊の仕業になりますよ」

 斑鳩はそう笑った。


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