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Report,09 「モノオトシ」


 恭次は先に聞いた、斑鳩の宿泊している民宿に駆けつけた。入れ違いに、口髭を生やした男と入れ替わる。何となくその黒服を振り返ったが、急いで斑鳩のもとへ向かう。

 斑鳩は部屋中に書類を散らかし、壁には地図や相関図を貼り付けてあった。ちょっとした捜査本部のようだった。

 斑鳩は部屋でもサングラスをかけており、突然来た恭次に慌てる様子もなく、

「どうしました?」

 冷静な口ぶりに、恭次は平静を取り戻す。数回、深呼吸をする。

「高野瑞希を殺したのは、霧也くんでした。そしてムシツキも」

 恭次は霧也の話した、ムシガミ憑きの症状を大まかに説明した。徐々に視力を失い、ついには失明する。その後、強い殺人衝動に駆られ、視力を取り戻す。人を殺すことで安定するらしい。

 それを聞いても斑鳩は、取り立てて驚きもしなかった。

「そうするとこの町には、すでにムシガミ憑きが、三人以上は存在することになります」

「霧也くんだけじゃなく!?」

「ここ十年間の殺人と、霧也くんは無関係です。そして失踪の件数から、二つのタイプのムシガミ憑きが考えられる。死体を残すタイプと、死体を隠すタイプ。それに彼がムシガミ憑きなら、普段は普通の人と変わらない証明になる。個体差があるにしても、発作は抑制されているわけだ」

「他の連中も、普通の顔をして暮らしている、というわけですか?」

「まず失明の段階を通るわけだ。霧也くんがお姉さんを亡くしたショックで失明したのなら、高野瑞希を殺害するまでに一年以上の期間がある。高校受験もあり、早い段階に回復したのだろう。その間に、他の誰かを殺しているかもしれないが、周囲に発作を気づかれていないことから、ムシガミ憑きの殺人衝動は、長い期間抑えられるとも考えられる」

「死体を残すタイプが、年間二人だとしたら、失踪者の数から、複数のムシツキが?」

「おそらく、平戸や一家心中の件は、むしろ特別なのだろう。戦前の史料に目を通しても、ムシガミ憑きによると思われる殺人は見られない。今が異常な事態なのか、潜在的に存在し続けてきたのか。ムシガミ憑きは、ここ十年で現れた精神疾患ともいえる」

「治療法はないんですか?」

 恭次は切実だった。たとえ殺人鬼でも、それが奇病によるものなら、弟だと思っているから、救いたかった。もし病気なら、何かしらの治療法があるはずだ。

 ただその治療法として今まで提示されたのは「処刑」であり、平戸の末路だった。

「霧也くんが失明した際、医者には?」

「行きました。なんの異常も見つからず、精神的なものと診断されたそうです」

 斑鳩は口元に手を当て、

「そうすると、やはり奥月村の人間特有のものなのか? もし独自の宗教観に根ざすものなら、そこに治療の糸口が……」

「なにかあるんですか!」

「もしもムシガミ憑きが、過去から存在したのなら、その祭祀の中に治療の糸口があるかもしれません。今までムシガミ憑きが現れなかったのは、それを抑える手段が存在していたからかもしれない」

 現代の医療でも発見できない病気。その治療法を、祭の中に求めるのだから、正気の沙汰ではない。だが正気じゃないものを、さんざん見聞きしてきた。

「それはいったい?」

「探すしかありません。ただ、心当たりはあります」

 恭次は斑鳩を、これほどまでに力強く思ったことはなかった。


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