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76、風太郎とまり子

 今日こそいい出会いがありますようにと、黒スーツで格好つけた風太郎が街を歩いていた。そこに、今日はいいことあるんじゃないかと特別におめかししたまり子が通りがかった。いってはなんだが、二人ともそれなりの美男美女である。ただ、これまで恋愛の経験がなかっただけなのだ。

 二人は、いい相手はいないかと気合を入れて歩いていると、目の前に現れた素敵な相手に目が釘付けになってしまい、呼吸するのも忘れててくてくと歩きつづけたものだから、お互いにやがてぶつかってしまった。

「あ、ごめん」

「いえ、いいですよ」

 これが二人の出会いだった。今までの二人だったら、何事もなく通りすぎる性格なのだが、この時だけはちょっとちがった。二人はのぼせていたのだ。

「百年後になったら、またあなたに会いに来ますよ」

 風太郎はそんなことをいった。

「まあ、すると、生まれ変わって、わたしたち、一緒になるのかな」

「うん。そうだよ、きっとそうしよう」

 そして、二人は別れた。お互いに来世で出会うことを願って。二人の恋愛はそれで精一杯だった。

 それを見かねた世の中の摩訶不思議な怪物たちが二人に呪いをかけにやってきた。

「風太郎よ。お主はこれから、巨大な雨蛙になって生きるのだ。女の子と一緒に、黒雲城の巨人を倒すまでは、もとの姿に戻ることはできない」

 また、まり子も怪物に責められていた。

「まり子よ。お主はあまりにも奥手な罰として、五歳の女の子に戻って、黒雲城の巨人を倒しに行かなければならない。巨人を倒すまで、もう歳をとることがない。五歳のまま死んでしまう」

 そして、雨蛙の風太郎と五歳児のまり子は出会ったのだった。

「まあ、何、この汚い雨蛙は。嫌ね、こんな雨蛙と旅するなんて」

「それはこちらのことばだ。こんな小汚い小娘と旅するなんて、厄介な面倒ごとが増えたものだ」

「ふん。なんとでもおっしゃい。わたしの本当の彼は、すらっと背が高くて、それは本当に素敵な彼なんだから。あなたのような雨蛙じゃなくて、彼と一緒に旅ができればよかったのに」

「ふん。それもこちらのことばだ。おれの本当の好きな人は、すらっと背が高くて、さらっと髪が長くて、もっと魅力的ないい女なのだ。おれだって、彼女と旅をしたかった」

 それから、二人は鬼の群れから傷つきながら逃げ、襲いかかる魑魅魍魎に見つからないように黒雲城を目指した。雨蛙は女の子を守ったし、女の子はよく雨蛙を慰めた。しかし、お互い、話が長引くとすぐに理想の彼氏彼女の話になるのだった。二人とも、来世を約束した相手がいるのだ。

 いくたの困難の後、ついにたどりついた黒雲城で、巨人を見た二人はたまげてしまった。高さ三十メートルはある巨人に睨みつけられて、怖くて動けない。こんな相手をどうやって倒せというのだろう。

「に、逃げろ。まり子」

「い、いわれなくても逃げるわ、風太郎。わたし、五歳児のまま死ぬわ。いいのよ、死ねば来世で彼と会えるんだから」

「そんなこといってないで早く逃げろ、まり子。ぐえ」

 雨蛙が女の子をかばって、巨人の木槌につぶされた。

「雨蛙。ダメ、わたし、雨蛙と一緒に死ぬ」

「ダメだ。逃げるんだ、まり子」

 女の子が巨人の木槌で横殴りに吹っ飛ばされた。

 勇気を振り絞った二人は、力を合わせて、城の上まで上がっていき、天井から岩を巨人の目に落とした。ぐおーっと痛がる巨人。もう一撃だ。飾ってあった大槍をもって巨人の胸に飛び降りた二人。突き刺さる大槍。

 やった。巨人を倒したのだ。

「やったあ。思えば、長かったね、わたしたちの旅。これで雨蛙とお別れなんて寂しいわ」

「おれもだよ。いろんなことがあったね、まり子」

 すると、二人を光が包み輝きだした。

「これから、わたし、本当の姿に戻るんだわ」

「おれも本当の姿に戻るんだ」

 そして、雨蛙は風太郎に、女の子はまり子になった。おめかししたあの日のように。

「なんだ。ずっとずっと一緒だったんだ」

「よかった。よかったなあ」

 それから二人は抱きついてぐるぐるまわり、涙があふれてしかたがなかった。


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