64、発明家の男
俊行はむかしある時、世界人類が幸せであるようにと思ったのだった。そして、それについて自分が何をするべきか考えて、とりあえず、できるかぎり勉強をすることにしたのだった。俊行は「真面目かよ」といってまわりに嫌がられ、からかわれた。「はあ、意識たけえなあ」とかいわれていた。でも、全然、みんなは仲良くしてくれなかった。
「おれはおまえみたいに大学でランダウの『力学』とか読んでいる男は嫌いなんだ。あっちいてちょうだい」
「ああ」
男に小突かれて、俊行は本を持ったまま遠ざかった。
「おまえ、人生で一度も嘘をついたことないのか。人生で一度も犯罪を犯したことないのか。自動車に乗る時、本当は眼鏡をかけないといけないんだろ。でもかけてないんだろ。おまえのいうことなんて聞かねえ」
「ああ」
俊行は生返事を返した。
おばさんが火蓮の隣に歩いてきた。そして、どすの利いた声で話しかける。
「火蓮という女の子だね。あの男の子のことをどう思う。俊行って子」
「いつもいじめられているよ。かわいそうだねえ」
「そうか」
おばさんはため息をつく。
「わたしは歴史を変えるために来た。チャンスは一度しかない。その一度をおまえに使う。わたしは未来から来た。あの男の子は、毎日がんばって働く。ただそれだけを伝える。どう頑張るかは教えてあげない。おまえに伝えたいことは、あの男の子は年老いて死ぬ時まで、女の人の肌に触ったことすらなかった。これを聞いたおまえは歴史を変えられる」
「ええ、それって、あたしに命令しているんですか」
「時間切れだ。わたしは未来へ帰る。歴史が変わるかはおまえ次第だ。おまえがそうしなくても誰も恨みやしないよ」
そして、おばさんは消えた。
火蓮は、俊行に話しかけた。
「あの、あたしと付き合ってくれませんか」




