42、ぼくは性格が悪い、あるいはジョーカーのファイブカード
歴史が好きで文系を選択した。世の中のためになるだろうと思って経済学部を選択した。だが、経済学の講義はゴミで、特に遊ぶ女もいなかったぼくは図書館に通いSF作家を目指した。最も賢い人種はSF作家だと思い、在学中に一五〇冊ほどの海外SF小説を読んだ。SFの天才になりたかった。だが、SF新人賞の公募に落ちて、ぼくは就職した。就職先の営業では大学の勉強なんてまったく使わなかった。仕事の責任が誰にあるのかを見極める知識が最も重要だった。SF作家になりたいことを黙っていたぼくは職場で会話もできず、まわりを白けさせてしまう疫病神だった。SF作家を目指しているぼくが女にモテるわけもなく、本屋のバイトの姉ちゃんにはぼくが選んだ本を見て、「きゃあ、変わって」とレジ打ちの時にいわれるくらいなのだが、そんな女性は都市に数人しかおらず、ほとんどの女にダサい暗いつまらないやつだと思われていた。社会人に要求される性格の良さとは、先輩の悪口をいう時にいかに低姿勢で笑いをとるかだ。素直に悪口をいってももちろん先輩に嫌われるのだが、そこで性格の悪い会話をできないと盛り上がらない。ぼくが社会のためを思ってがんばればがんばるほど、それは仕事とも日常生活とも関係ないSF作家を目指すという秘密の作業に打ち込むことになるのであり、ぼくがどんなに上手にSF小説を書いてもまわりのみんなはぜんぜん喜ばないし、ぼくをダサいやつだと思うだけだ。女の気を引くゲームからぼくを脱落させてまわりの男は喜んでいる。バイトに来た女の子は、仕事をサボることを要求するだけでまったく可愛げがなく、ぼくが無理やり決められたとおりの仕事をさせたら、先輩に「真面目だね」といわれた。ぼくが世の中のためを思い提言するいくつかのことも、まわりは自覚のない荒らしだといって攻撃してくる。みんなはぼくが嫌いだ。優しいはみんなに人気はでない。笑えるやつがみんなに人気が出る。だが、笑えるやつというのも、笑えればいいのではなく、イケてるやつでなければ評価されない。冴えないやつが笑いをとると、男は「自分のキャラを考えろよ」とかいってくるムカつくやつらだ。笑いをとることは評価につながらない。強いという印象、モテるという印象を嘘でもはったりでもいいから作り出して、虚構の自分たちがイケてる感を出すことがまわりに求められる対話技術だ。イカさまをしてジョーカーのファイヴカードを作ったら、みんなが「すげえええええ」と目の色を変えて、女が憧れの眼差しで見てきた。ぼくはすぐに「イカさまだよ」と種をバラしたのだが、そしたら、「それだからおまえはダメなんだ。ジョーカーのファイヴカードだぞ」とか頭の悪い発言をしてきた。ぼくはみんなが嫌いだ。だから、ぼくは性格が悪い。




