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私の妹は、傾国の美女である

作者: 原田 和
掲載日:2026/03/29




私の名は、東雲カナタ。突然だが、私の妹の話をしたい。

妹の名は、東雲トキナ。この妹が、またどえらい美形なのである。傾国の美女だ。

そんな妹だから、姉である私もさぞかし、と思ったそこのアナタ。残念だったな、私は何処にでもいる至って平凡な女だ。

因みに両親も平凡。家族の中で、妹だけが輝いているのである。

ええ、疑われましたよ。母の不貞か取り違えか或いは誘拐かと。どれも違った。孫の顔見に来た祖父母曰く、隔世遺伝。

何度かあったらしい。父方の家系なのだが、ごく、本当に、稀に、突然光り輝かんばかりの美形が出てくると。

何をどうしたらそうなった?と実の親でさえ首を傾げたと記録に残っている。そしてもれなく、全員国を傾けかけた。アカーン!!と、一族総出で修正するまでがお約束だそうだ。流石父方の血筋、根っからの善人が多数を占める。


 「この子はちょいと、苦労するかもしれんのー」


という、祖父の不吉な言葉。その通りになった。

ちょいとどころではない。妹は何度も何度も誘拐されかけた。捕まえた変態共の言い分は、『可愛かったから』。

はったおすぞ。確かに幼少期の妹は、天使か?と思う程だったが。

今は全て未遂で終わっているが、次も無事とは到底言えない。このままではいけないと、両親と私は立ち上がった。

妹と、家族の平穏は必ず守ると。







 「…お巡りさん、こいつです」


 『ぶっふぉぉうっっい、いやいやそれじゃ分かんないから。お巡りさん見えないから、そこ居ないから』


 「離せやクソアマぁぁぁ!!俺のトキナを返せぇぇぇぇ!!!」


 『あー大体分かった。東雲のお姉さんねー、秒で行くから。そこ何処』


 「〇✕町の……、はい、はい。お願いします」


私はスマホを切り、暴漢を道路にぶん投げた。妹を襲撃したのだ、情けは無用。トキナは仲間に保護され安全な場所に居る。

性懲りもなく立ち上がろうとした暴漢、止めを刺すかと構え直したその時。お巡りさんを乗せた自転車が暴漢を轢いた。秒と言ったら、本当に秒で来るお巡りさんなのだ。よく爆笑しているが、頼もしい。


 「はいはい、正義の味方のお巡りさん来たよー。変質者どこ?」


 「……輪止め代わりに使ってるのがそうです」


 「何ぃ、なんでそんなトコで寝てんの。まぁいいや、はい逮捕ー。いつも大変だね東雲さん。妹さんは無事?」


妹の件ですっかり顔馴染みになったお巡りさんは、事情を承知してくれている。何せ、小学生からの知り合いだ。幼い私は妹を守る為、腹から声出してお巡りさんと叫んでいたからな。

叫び過ぎたせいで、もうウィスパーボイスしか出せなくなったけどな。今はスマホという名の文明の利器があるというのに。ようやく気付いたよ、便利さに。


 「お姉ちゃあぁぁぁん!!!」


 「……無事です」


 「よかったー、東雲妹さん。駄目だよぉ、こんな時間まで外出てたら。君が一歩出たら変態七人出没すると思っといた方がいいってー。七人居たらどんどん増えて、もうそこら中に居るって思っといた方がいいってー」


 「それ何ハザード?!やばいって分かってたよっ!でも練習サボれないし、私の勝手な都合で迷惑かけらんないしっっ!うぅぅお姉ちゃんごめぇぇぇん!!」


 「……大丈夫。七人くらいなら、増殖する前に仕留めるわ。例え増殖しても、完膚無きまでに叩き潰しましょう」


 「それ何無双??!でもお姉ちゃん男前かっこよい!!」


 「うんうん、いつも通りねー。じゃあお巡りさんコイツ連れて行くから」


 「……ありがとうございます、お願いします」


意識の無い変態を荷台に括り付け、お巡りさんは笑顔で去って行く。本当に頼もしい。その間、トキナは私に張り付いたままだった。よくある日常風景になってしまったとはいえ、怖いのは怖いだろう。

私はよしよししてやりながら、お友達とそのマネージャーさんに頭を下げる。


 「……毎度騒がせて、すみません。ですがトキナも、好きでホイホイしているのではないので…」


 「わ、分かってます、大丈夫ですよっ!こっちも助かりました!…あれ、質の悪いファンでして、この子ら全員に付きまとったりして……」


 「…そうだったんですか。止め、刺しておくべきでしたね……トキナの友達にも手を出すとは…」


マネージャーさんの周りに居る、トキナと同年代の美少女二人。彼女達はデビューしたてのアイドルだ。

そう……我が妹、東雲トキナ。ある日突然アイドル目指すと宣言したのだ。

こいつ、別の方向から傾けにいくつもりだ……!と、両親と私は戦々恐々したものだ。売れない?そんな心配はしていない。何故ならトキナだから。傾国の美女だから、ウチの妹。

それだけではない。蝶よ花よと甘やかし過ぎたら、顔だけの残念娘に成り下がってしまう。両親はそれはいかんと、私共々厳しく育ててくれた。その甲斐あって、トキナは礼儀礼節しっかりした子になってくれた。よかったね父さん母さん。

こんないい子で努力家な妹達が、売れないなんてそっちのがおかしいだろ。私は応援するぞ。


 「カナタさん、ホント強いね。すごいよ…!」


 「そうだよね?!姿勢もいいし、憧れるなぁ」


 「でしょ!お姉ちゃんは武道全般網羅してるの!どんな相手でも負け無し!!」


 「何でトキナが自慢してんの」


 「私のお姉ちゃんだから!!」


いや、流石にその道のプロには負けるよ。姉ちゃんそこまで最強じゃないのよ。習った動機も、変態撲滅の為だし。

仲良く盛り上がっている妹達にほっこりしていると、マネージャーさんが期待に満ちた目を向けてくる。


 「あの、カナタさんに折り入って頼みたい事が。社長にも絶対捕まえろと言われておりますので、単刀直入に言います」


 「?……なんでしょう」


必死な形相のマネージャーさんに、がっしと手を掴まれた。


 「この子達の、ボディーガードになってくれませんか!?勿論給料は出ます我が社で雇います!!この子達のファン、男女問わず熱烈過激なのが多くて多くて私では捌ききれなくて、今回のように襲われたのは数え切れなくて、当然私もこの子ら大事ですから守ってはいるんですけど、もう怖くて全員ゴリラに見えるんですぅぅぅ!!!」


しとどに泣いている……。余程怖かったんだな、分かるよマネさん。私も最初はホント怖かったから。

トキナが車に連れ込まれたあの場面は未だ、トラウマだからな。思い出しただけでも、心臓きゅってなる。全員ゴリラはきついよね。妹達も心配そうにしているよ。

大人がこれだけ怖がっているんだ、あの子達はもっと怖い筈。ファンであろうと、節度は守っていただかなくては。ゴリラは怖い。

デビューしたてなのにこれ程か。流石我が妹、傾国の美女。

これからこの国はこの子達色に染まるんだろう。という事はアンチも出てくる。危険度も上がる。


 「……分かりました。私如きでいいのなら、雇っていただけますか?」


 「とんでもねぇですっ!喜んでえぇぇぇ!!!」


 「えっ!お姉ちゃんと一緒に居れるの?!」


 「…そうみたい。安心なさい、あなた達もマネさんも私が守るわ」


 「やった!!私頑張るから、見ててねお姉ちゃん!」


無邪気。美少女三人が跳ねて喜んでる。

でも助かった。このウィスパーボイスで、何言ってんのか分からんと就職もままならなかったから。体力には自信があるが、この声がどうしてもなぁ。

情けない気もするが、有難くお受けしよう。そしてあの子達の輝かしい未来を守り抜くのだ。

私は決意を新たに、マネさんと熱い握手を交わした。









……私は東雲トキナ。自分で言うのもなんだけど、美少女だ。

子供の時から、かわいいかわいいと言われ続けてたら、自覚もするよね。でもそれと同じくらい、家族の誰とも似てないねと言われた。

お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも。なんだそんな事かと笑い飛ばしてくれるから、私も普通に返せたけど。本当は、物凄く腹が立ってた。

お姉ちゃんは私にとってヒーローだ。どんな時でも駆け付けて、助けてくれる。外が怖くて、家族以外誰も信じられなくて泣いてばかりな私に、ずっと寄り添っていてくれた。

こうして外に出られるようになったのは、両親とお姉ちゃんの御蔭。私は、口にはしなくても、大事だよって優しく包んでくれる家族が大事だし、尊敬もしてる。

だから、私を褒めて家族を貶す奴は大嫌い。お姉ちゃんの声を馬鹿にするのも許せない。

どうやったら周りを黙らせられるか。

私が、絶対的な存在になればいい。私が正しいと言ったら、必ず全員従うような、そんな存在に。


 「私、アイドル目指します!!」


 「どうしてそうなった?!??!」


みんな驚いて、連日連夜遅くまで家族会議してたけど、結局は応援してくれている。

アイドルは通過点に過ぎない。私の最終目標は、芸能界トップ。誰もが一目置く、圧倒的絶対的存在に、いつか必ず私はなる。

私は私のやり方で、家族を守る。

とりあえず今の目標は、売れに売れて稼ぎに稼いで、セキュリティ万全な家に引っ越す事だ。


 「……お姉ちゃん、最近よくそれ見てるね。ハマったの?時代劇」


 「……借りたの。じいちゃん秘蔵の必殺シリーズ…。最近…タチ悪くなってきたから、使える技がないかと思って……」


 「……そんなに…」


お姉ちゃんが暗殺術を極める前に!引っ越す!!

私頑張るからね、お姉ちゃん!!







カナタのメモ↓


三味線の糸、簪、無ければ代用物を探す。握力鍛える。

絶対銃刀法違反にならない物。


東雲家は古い家で、セキュリティ未だガバガバです。



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