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記録  作者: 朱尾
1/7

REC_01

その映像は、何も起きていない昼間を、正確に記録していた。


その映像は、何も起きていない昼間を、正確に記録していた。


リビングに陽が差し込み、床に四角い光が落ちている。

カメラは棚の上に置かれていて、わずかに傾いていた。


画面の中で、子供が笑っている。

理由のない、ただ楽しいというだけの笑い声だ。


「そっち行くよ」


俺の声が入る。

少し遅れて足音。

フレームの端に、俺の腕が映る。


妻の声が重なる。


「気をつけて。そこ、危ないから」


子供はリビングの中央を走り抜ける。

何もない場所だ。


何もないのに、俺は一瞬だけ立ち止まり、遠回りするように歩く。

その動きは自然で、誰も気づかない。


ただの、家族の映像だった。


俺は再生を止め、スマートフォンを伏せる。


「ちゃんと映ってる?」

妻が聞く。


「ああ。問題ない」


それが、このカメラを設置した理由だった。

防犯のため。

何かあった時のため。

何も起きていない今を、残しておくため。


その夜、俺は眠れなかった。


理由は分からない。

胸の奥が、ざわついている。


机の引き出しから、小さなシートを取り出す。

白い錠剤。


医師は、必要な時だけと言っていた。


水で流し込み、布団に横になる。

天井を見つめながら、昼間の映像を思い出す。


光。

笑い声。

何もない場所。


カメラは、正確にそれを記録していた。

だから俺は、その映像を信じた。


それが、この家で最初に間違えたことだった。

本作は、監視カメラという「客観的な記録」と、人間の主観的な認識のズレから生まれる恐怖を描いた作品です。

映像は事実を正確に残しますが、そこに意味を与えるのは常に人間です。その解釈が歪んだとき、日常はどこまで暴力的になり得るのか。

心霊や怪異に見せかけながら、誰にでも起こり得る精神の崩壊と、家庭という最も身近な空間の危うさを描きました。

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