第八十三話 平和の礎と、次世代への継承
世界樹の誕生から数年の月日が流れ、新生オルド帝国は、名実ともに世界の中心となっていた。ラウル(アルフレッド)は、初代皇帝として、世界樹の祝福を受けた新都の統治に尽力していた。かつてのオルド王国と帝国の対立は歴史の一頁となり、人々は互いを尊重し、助け合いながら、平和な日々を送っていた。
カインは、帝国の宰相としてラウルを支え、その統治手腕は、多くの人々に尊敬されていた。彼は、ラウルの平和への理念を忠実に実現し、新帝国に暮らす全ての民が、等しく幸福を享受できるよう、公正な社会制度を築き上げた。
ユリアは、魔法学の権威として、世界樹の力と新魔法の研究を続け、人々の生活を豊かにするための様々な発明を成し遂げていた。彼女が開発した魔法の道具は、人々の暮らしに深く浸透し、新帝国の科学技術の発展に大きく貢献した。
ルナは、心の浄化を専門とする魔導師団長として、人々の心の闇を癒す旅を続けていた。彼女の真実の加護は、人々が抱える心の傷を見抜き、世界樹の光で、その傷を優しく包み込んでいった。
フィーリアは、世界樹の守護者として、新都に広がる森と、そこに暮らす全ての生命を見守っていた。彼女の生命の加護は、世界樹の力と共鳴し、新都の自然は、常に豊かで、美しい姿を保っていた。
ゼノスは、再生の魔法を広めるために世界を旅し、過去の自分と同じように、心の闇に苦しむ人々を救い続けていた。彼は、贖罪の旅を続ける中で、多くの人々から感謝され、その存在は、新帝国の平和を象徴するものとなっていた。
そして、レッドは、新都の守護者として、その強靭な体で、新帝国の平和を守り続けていた。彼は、竜人族として、ラウルに忠誠を誓い、その揺るぎない存在感は、人々に安心感を与えていた。
平和な日々の中、ラウルは、新たな悩みを抱えていた。それは、自分たちが築き上げたこの平和を、次の世代へと、どのように継承していくか、ということだった。
「カイン兄さん、僕たちが築き上げたこの平和は、僕たちの力で成り立っている。しかし、僕たちが、この世を去った後も、この平和が続いていくだろうか?」
ラウルは、そう言って、カインに問いかけた。
「アルフレッド…それは、私も考えていたことだ。私たちは、世界樹という、世界の理そのものを再創造した。しかし、人々の心は、いつか、また闇に満ちてしまうかもしれない」
カインの言葉に、ラウルは、静かに頷いた。
その時、一人の少年が、二人の元へとやってきた。その少年は、ラウルとルナの間に生まれた、未来の皇帝となるべき子供、アルスだった。アルスは、父であるラウルと同じく、金色の髪と、希望に満ちた青い瞳を持っていた。
「父上、どうして、そんなに難しい顔をしているのですか?」
アルスは、そう言って、ラウルに尋ねた。
「アルス、僕は、僕たちが築き上げたこの平和を、君たちの時代へと、どのように伝えていくべきか、考えていたんだ」
ラウルは、そう言って、息子に微笑んだ。
「大丈夫だよ、父上。僕たちには、世界樹の光がある。そして、父上が教えてくれた、人を信じる心がある。僕たちが、この世界を、平和で、幸せな場所にし続けるよ」
アルスの言葉に、ラウルは、目を見開いた。
「アルス…」
「そうだ、アルフレッド。私たちは、確かに、世界樹と、私たちの力で、この平和を築き上げた。しかし、この平和を守り続けていくのは、次世代の者たちだ。彼らに、この平和を、そして、希望を伝えていくことこそ、私たちの、最後の使命なのかもしれない」
カインの言葉に、ラウルは、深く頷いた。
ラウルは、アルスの言葉と、カインの言葉から、次世代へと、この平和を継承していくための、一つの答えを見出した。
彼は、世界樹の根元に、新たな学園を創設した。その学園は、「希望の学園」と名付けられ、世界中の国々から、様々な種族の子供たちが集まった。そこでは、新魔法の技術だけでなく、人々の心と心を通わせる大切さ、そして、争いを避けるための知恵が教えられていった。
ラウルは、皇帝としての政務をこなしながら、この学園の特別講師として、子供たちに、自らが経験した、世界の真実と、希望の尊さを語り続けた。彼の言葉は、子供たちの心に深く刻み込まれ、彼らが、この世界の未来を担う、希望の光となっていった。
こうして、ラウルが築き上げた平和は、次世代へと、着実に継承されていく。彼の物語は、世界の救世主の物語から、世界の礎を築き、その礎を次世代へと託す、偉大な王の物語へと、その名を刻んでいく。
彼の建国の物語は、ここに、一つの大きな結末を迎えようとしていた。それは、物語の終わりではなく、彼が築き上げた、永遠の平和の始まりを告げるものだった。




