第八十話 虚無の残滓と、世界の再創造
港町の虚無の残滓を浄化することに成功したラウル(アルフレッド)は、しかし、その残滓が完全に消滅したわけではないことを悟り、新たな危機感を抱いた。虚無の残滓は、聖剣という一つの器から解放されたことで、この世界のどこかに分散し、人々の心の闇に潜り込むという、より厄介な形で存在し続けていたのだ。
「虚無の残滓は、この世界のあらゆる場所に潜んでいる。そして、人々の心の闇を栄養に、再び力をつけようとしている」
ゼノスは、港町から戻った後、虚無の残滓の性質について、ラウルに報告した。彼は、かつて「死の魔法」を開発しようとした経験から、虚無の力が、いかに危険で、そして、巧妙な形で人の心に寄生するかを知っていた。
「虚無の残滓が、人々の心の闇に潜む限り、僕たちは、いつまでも戦い続けなければならないのか…?」
ラウルは、苦悩の表情を浮かべた。武力で倒すことも、言葉で説得することもできない、見えない敵。これまで経験したことのない、困難な戦いが、彼らの前に立ちはだかっていた。
その時、ユリアが、一つの可能性を口にした。
「ラウル様、虚無の残滓が人々の心の闇を栄養とするならば、その闇を、光に変えてしまえばいいのです。人々の心に、希望の光を灯し、虚無の残滓が潜む場所をなくしてしまえばいいのです」
ユリアの言葉に、ラウルは、ハッと顔を上げた。そうだ、虚無の残滓を直接浄化するのではなく、その存在を許さない、希望に満ちた世界を創造すればいいのだ。
「ラウル様、私たちの『生命の魔法』を使えば、この世界の全てに、命の力を与えることができます。命の力は、希望の力。生命力に満ちた世界には、闇が入り込む隙間はありません」
フィーリアも、ユリアの言葉に続いた。
そして、ルナが、決意に満ちた表情で言った。
「ラウル様、私の『真実の加護』を使えば、人々が持つ、心の闇の根源を見抜くことができます。そして、ゼノスが開発した『再生の魔法』を使えば、その心の闇を、希望の光へと変えることができます」
ラウルは、仲間たちの言葉に、再び希望を見出した。彼らは、虚無の残滓という、形のない敵と戦うのではなく、この世界を、より良い場所にするという、新たな戦いへと挑むことを決意した。
「皆、ありがとう!僕たちは、虚無の残滓と戦うのではない。この世界を、希望に満ちた、素晴らしい場所に作り変えるんだ!」
ラウルは、そう言って、ユリア、ルナ、フィーリア、そしてゼノスと手を取り合った。
彼らは、新魔法の根源である「生命の魔法」を使い、新生オルド帝国の中心地である王都から、その力を広げていった。ラウルが「神のごとき魔法」で、この世界の理を読み解き、ユリアの「創造の加護」で、新たな魔法理論を構築し、ルナの「真実の加護」で、人々の心の闇を見抜き、フィーリアの「生命の加護」で、この世界の全てに、命の力を与えていく。
そして、ゼノスが開発した「再生の魔法」が、人々の心の闇を、希望の光へと変えていった。
「これは…!なんて温かい光なんだ…!」
「私の心の中にあった、憎しみや悲しみが、消えていく…!」
新魔法の恩恵を受けた人々は、心の闇から解放され、希望に満ちた笑顔を取り戻していった。
新生オルド帝国の新魔法は、物理的な豊かさだけでなく、人々の心そのものを豊かにする魔法として、世界中に広まっていった。かつて、憎しみや絶望に満ちていた世界は、次第に、希望と、そして、愛に満ちた世界へと変わっていく。
しかし、虚無の残滓は、まだ完全に消滅したわけではなかった。虚無の残滓は、人々の心から逃れ、この世界の理の歪みに潜り込んでいく。それは、ラウルが「神のごとき魔法」で、この世界の理を再構築しようとしていることに、気づいたかのように。
「愚かな人間め…!世界の理を、お前たちの勝手な都合で、変えられると思うな…!」
虚無の残滓の声が、世界のどこかで、静かに響き渡った。
ラウルたちの物語は、世界の平和を築く戦いから、世界の全てを再創造する、そして、その創造の過程で、世界の理そのものに潜む、最後の闇と向き合う、壮大な最終章へと突入していく。
彼らの旅は、まだ終わっていなかった。




