第六十三話 虚無の支配者と、バルトール公爵の末路
帝都の貴族街で、ラウル(アルフレッド)、カイン、ルナの三人は、真の敵がこの世界の根源に潜む「虚無の支配者」であることを突き止めた。彼らは、その虚無の支配者がバルトール公爵を操り、帝国全体を再び闇に染めようとしていることを確信した。
「バルトール公爵は、ただの操り人形だ。しかし、彼を討つことが、虚無の支配者に繋がる唯一の手がかりになるはずだ」
ラウルは、そう言い、カインとルナに、バルトール公爵の屋敷への潜入作戦を提案した。
「バルトール公爵は、闇の眷属に与えられた魔道具や、新たな魔法兵器を、今も所有しているはずです。彼を討ち、その全てを破壊しなければ、帝国の武力は、再び我々を脅かすことになる」
カインが、自身の経験から、冷静に分析した。
ルナは、現実創造魔法でバルトール公爵の屋敷の構造図を再現し、三人に見せた。
「この屋敷の地下に、虚無の支配者と繋がる、強力な結界があります。公爵は、そこで魔力供給を受けているようです。この結界を破壊すれば、公爵を操る虚無の支配者への魔力供給を断ち切れるはずです」
ルナの言葉に、ラウルは頷いた。彼らは、闇の眷属の残党が潜む貴族たちを警戒しながら、バルトール公爵の屋敷へと向かった。
夜が更け、帝都全体が静寂に包まれた頃、ラウルたちは、屋敷の裏口から潜入した。ルナの幻影魔術で、見張りの兵士たちの目を欺き、彼らは地下へと続く階段を見つけた。
地下は、闇の眷属が使っていたものと似た、禍々しい魔力に満ちていた。奥へ進むと、巨大な祭壇が設置された空間に出た。その祭壇の中央には、バルトール公爵が、目を閉じ、闇の魔力を吸収していた。彼の体からは、どす黒いオーラが噴き出し、空間全体を歪ませていた。
「やはり、バルトール公爵は、操られていたか……!」
カインが、怒りに満ちた声で呟いた。
「ラウル、どうしますか?このままでは、公爵は、完全に闇に染まってしまいます」
ルナが、ラウルに問いかけた。
ラウルは、決意を固めた。
「公爵を討つ。しかし、その前に、彼を操る虚無の支配者との繋がりを断ち切る!」
ラウルは、自身の「神のごとき魔法」を使い、祭壇の結界に光の魔法を放った。光と闇が激しくぶつかり合い、空間全体を揺るがす。
「ふん……。オルド王国の生き残りが、一体何のつもりだ?」
その時、祭壇の奥から、ガリウスを操っていた時と同じ、無機質で、しかし威圧的な声が響いてきた。それは、虚無の支配者の声だった。
「貴様は……!世界の理を歪ませ、人を操る、真の闇の支配者!」
ラウルが、叫んだ。
「私は、この世界の創造以前から存在する……。世界の全てを無に帰す、虚無の意志。お前たちは、私にとって、ちっぽけな塵芥に過ぎん」
虚無の支配者の声が、ラウルたちの心をえぐった。
ラウルは、虚無の支配者の声に惑わされることなく、祭壇の結界を破壊しようと、さらに魔力を注ぎ込んだ。カインとルナも、ラウルを援護し、魔力攻撃を放った。
三人の協力によって、ついに祭壇の結界は砕け散った。
「ぐああああああっ!」
バルトール公爵は、断末魔の叫びを上げ、その体から、虚無の支配者との繋がりが断ち切られた。彼の体から、どす黒いオーラが消え、正気を取り戻した。
「ここは……。私は、一体……」
バルトール公爵は、混乱した様子で、ラウルたちを見つめた。
しかし、虚無の支配者は、それだけでは終わらなかった。虚無との繋がりを断ち切られたバルトール公爵の体は、急速に朽ち果て、塵となって消えていった。
「バルトール公爵!」
カインが叫んだ。
虚無の支配者は、不要となった器を、容赦なく捨て去ったのだ。
「愚かな……。我々との繋がりを断ち切ったところで、どうなる?この世界の全ては、虚無へと帰すのだ」
虚無の支配者の声が、再び響き渡った。
「いいや、違う!僕たちは、この世界を、虚無になど帰させない!僕たちの手で、この世界に、新たな希望を築いてみせる!」
ラウルは、そう言い、虚無の支配者に宣戦布告した。
こうして、ラウルたちは、帝国の真の首謀者を突き止め、彼らの戦いは、この世界の根源に潜む、究極の敵との最終決戦へと、その舞台を移した。彼らの前に立ちはだかるのは、帝国という現実の脅威ではなく、世界の全てを無に帰す、虚無という、絶対的な存在だった。




