第六話 新たな仲間と、旅の再開
ラウル(アルフレッド)が滞在を始めてから、数週間が経った。村はラウルの「神のごとき魔法」の力によって、目覚ましい復興を遂げていた。荒れた畑は豊かになり、壊れた家屋は元通りに、そして病に伏していた村人たちも、ラウルの癒しの魔法によって次々と元気を取り戻していった。村人たちは、ラウルを心から慕い、彼のために何ができるかと常に考えていた。
ラウル自身もまた、この村での生活を通して、精神的に大きく成長していた。かつての王子の頃とは違い、自分の手で人々の生活を支える喜びを知った。それは、復讐の念に駆られるだけではない、新たな充足感をもたらした。セバスもまた、そんなラウルを温かい目で見守っていた。
「坊ちゃん、そろそろ旅立つ頃合いかと存じます」
ある日の夕暮れ、ラウルが村の子供たちと遊んでいるのを見ながら、セバスが静かに言った。ラウルは振り返り、セバスの真剣な表情を見た。
「この村での日々は、坊ちゃんにとって貴重な経験となりましたでしょう。しかし、目的は未開の森、そして……」
セバスは、言い淀んだ。その先に「王国再建」という言葉があることは、ラウルにも分かっていた。この村に長く留まれば、やがて帝国の追っ手がここにも及ぶだろう。それでは、村人たちに迷惑をかけてしまう。
「はい、分かっています、セバス」
ラウルは、子供たちに別れを告げ、村長に旅立ちの意を伝えた。村長は名残惜しそうだったが、ラウルの決意を尊重してくれた。
「あなた様のおかげで、この村は救われました。もし、この先、何か困ったことがあれば、いつでもお戻りください。この村は、あなた様の故郷です」
村長の言葉に、ラウルは胸が熱くなった。見知らぬ土地で、新たな故郷を得た。それは、失われた故郷への、せめてもの慰めとなった。
「ありがとうございます、村長。必ず、この平和が続く世界を作ってみせます」
ラウルはそう誓い、村を後にした。セバスと共に、二人は再び、未開の森を目指して旅を再開した。
新たな旅路は、これまで以上に過酷だった。人里を離れ、道なき道を歩む。時に魔物と遭遇し、ラウルは「神のごとき魔法」の力でそれを退けた。彼の魔法は、日を追うごとに洗練され、その威力も増していた。
ある日、二人が深い森を進んでいると、争いの声が聞こえてきた。ラウルはセバスに目配せし、慎重に音のする方へと近づいた。そこには、三人の男たちが、巨大な熊の魔物と戦っている姿があった。
男たちは、それぞれが剣や斧、弓を構え、連携を取りながら戦っていた。彼らは、一流の冒険者のようだったが、熊の魔物は想像以上に強く、三人は徐々に追い詰められていた。
「セバス、助けましょう」
ラウルが言うと、セバスは頷いた。
「お任せいたします、坊ちゃん」
ラウルは、ためらうことなく前に出た。そして、詠唱なしに、強大な風の魔法を発動させた。突如巻き起こった竜巻が、熊の魔物を吹き飛ばし、巨大な木に叩きつけた。魔物は呻き声を上げ、地に伏した。
男たちは、突然の出来事に目を見開いた。彼らが戦っていた魔物を、一瞬で退けた少年。その異常な力に、警戒の色を浮かべた。
「貴様、何者だ!?」
剣を構えた男の一人が、ラウルに問いかけた。その男は、筋骨隆々で、顔に大きな傷跡があった。
ラウルは、警戒を解くように両手を挙げた。
「通りすがりの者です。あなた方が危ない状況に見えたので、助けたまでです」
男たちは、互いに顔を見合わせた。そして、警戒を解かないまま、ゆっくりとラウルに近づいてきた。
「俺はグレン。こっちは斧使いのバルドと、弓使いのリゼルだ。助けてもらったのは感謝するが……お前のような子供が、あんな強力な魔法を使えるとは信じられん」
グレンと名乗る男は、警戒心を剥き出しにしながらも、正直な感情を口にした。
ラウルは、自分の力をどう説明すべきか迷った。だが、嘘をつくのは得策ではない。彼は、ある程度、自分の力を明かすことにした。
「私には、少し特殊な力があります。詳しくは話せませんが、この力で、困っている人々を助けたいと願っています」
ラウルはそう言うと、セバスを呼び寄せた。
「この方は、私の執事のセバスです」
セバスは、頭を下げて挨拶した。グレンたちは、二人の身なりが平民にしては整っていることに気づき、さらに警戒心を強めた。しかし、ラウルが放った魔法の威力は、彼らが経験したことのないレベルだった。彼らは、ラウルに敵意がないことを感じ取っていた。
「……信じがたい話だが、確かに助けられたのは事実だ。恩義は感じる。で、あんたたちはどこへ向かうんだ?」
グレンが尋ねると、ラウルは未開の森の奥を指差した。
「この森の奥へ。まだ見ぬ土地を、探索したいと思っています」
ラウルの言葉に、グレンたちの目が一瞬だけ輝いた。
「奇遇だな。俺たちも、この森の奥にあるという秘境を目指していたんだ。ここらじゃ、俺たち以上の腕を持つ冒険者もそうはいない。だが、この森は噂以上の危険地帯だ。もしよければ、道中、協力しないか?」
グレンは、そう提案した。彼らは、ラウルの圧倒的な力を見抜き、その力を利用したいという思惑があったのだろう。だが、ラウルにとっては、それは渡りに船だった。この広大な森を、セバスと二人だけで進むのは困難だ。経験豊富な冒険者の助けは、まさに必要不可欠だった。
「こちらこそ、ぜひお願いします。危険な旅になるでしょうが、あなた方の力を貸していただければ、心強いです」
ラウルは、微笑んで頷いた。そして、グレン、バルド、リゼル。この三人の冒険者が、ラウルの初めての「仲間」となった。
こうして、ラウルの建国の旅は、新たな局面を迎えることになった。帝国への復讐と王国再建という大きな目標のため、彼は孤独な流浪の旅を続けながらも、少しずつ信頼できる仲間たちと出会い、その絆を深めていく。未開の森の奥には、一体何が待っているのか。彼の「神のごとき魔法」の力は、この新たな仲間たちと共に、どのような未来を切り開くのか。物語は、新たなステージへと進む。