第五十五話 炎に包まれた王都と、王子の苦悩
新生オルド王国の外周を、帝国の軍勢が取り囲んでいた。その中央には、黄金の鎧を身につけた男、カインが、氷のような瞳で新生の王都を睥Cていた。彼の隣には、帝国軍の幹部たちが、冷笑を浮かべながら控えている。
「殿下、ネズミどもは森の奥深くに隠れております。このまま焼き払ってしまいましょう」
帝国軍の将校が、カインにそう進言した。
しかし、カインは、何も言わずに森を見つめていた。彼の瞳には、この森のどこかに、弟であるアルフレッドが生きているという確信があった。そして、その胸中には、かつての優しい兄の面影は、微塵も残っていなかった。
その時、カインの脳裏に、オルド王国が炎に包まれた、あの日の記憶が蘇った。
王都が帝国の軍勢に包囲された、あの日。
父である国王陛下は、最後まで王都を守り抜くことを決意し、母である王妃様は、民を鼓舞するため、最後まで城に残り続けた。
第一王子レオナルドは、父と母の決断を尊重し、王都の防衛を指揮した。彼は、剣を手に、兵士たちの先頭に立って戦い、その勇姿は、多くの兵士たちを奮い立たせた。
しかし、帝国軍の勢いは、圧倒的だった。レオナルドは、帝国の魔術師団の攻撃を受け、満身創痍になりながらも、最後まで戦い抜いた。彼の命の炎が消える寸前、彼は弟のカインに、最後の言葉を託した。
「カイン……。お前だけでも、生きてくれ。そして、いつか、この国の再興を……」
レオナルドは、そう言い残し、帝国の兵士の刃に倒れた。
レオナルドの死を目の当たりにしたカインは、絶望に打ちひしがれた。彼は、父や母、兄が戦い、倒れていく中で、自身の無力さを痛感した。自分には、彼らを救うだけの力がない。このまま戦っても、自分も同じように、死んでいくだけだ。
その時、彼の前に、一人の闇の眷属が姿を現した。彼は、カインに、甘い言葉を囁いた。
「このまま死ぬのか?それとも、新たな力を手に入れ、この世界を変えてみるか?」
カインは、その誘いに乗った。彼は、闇の眷属の力を受け入れ、彼らの手先となり、帝国に身を投じることを決意した。彼は、弱かった自分を捨て、力を手に入れるため、そして、いつかこの世界を、自分の手で変えるため、闇の眷属の支配を受け入れたのだ。
カインは、回想から現実へと意識を戻した。彼の瞳には、もはや兄であるレオナルドの面影はなく、闇の眷属に操られた、冷たい光だけが宿っていた。
「全軍、突撃!森のネズミどもを、一人残らず始末しろ!」
カインの号令で、帝国の軍勢が、新生オルド王国へと向かって一斉に進軍を開始した。
新生オルド王国の外周では、セバス率いる防衛隊が、帝国軍を迎え撃つべく、弓を構え、剣を抜き、戦いの準備を整えていた。彼らの顔には、緊張と、そしてラウルから託された使命感に燃える、強い決意が宿っていた。
「坊ちゃん……。やはり、カイン王子でしたか……」
セバスは、遠くに見えるカインの姿を見て、悲痛な面持ちで呟いた。
「セバス様、どういうことだ!?第二王子は、死んだはずじゃ……!」
グレンが、驚きと混乱の表情で言った。
セバスは、悲しみをこらえ、真実を語った。
「いいや、第二王子は生きていらっしゃった。しかし、彼は、闇の眷属に心を支配され、帝国の手先となった……」
セバスの言葉に、仲間たちは驚愕した。
「全軍、戦闘開始!この国を、そして、ラウル様が守ろうとした世界を、私たちが守り抜いてみせる!」
セバスの号令で、新生オルド王国と帝国軍の、壮絶な戦いが、今、幕を開けた。




