第五十一話 最後の門と、闇の王
ラウル、フィーリア、ルナの三人は、幻影と現実が入り混じった「闇の聖域」の迷宮を、互いの絆を頼りに進んでいた。ラウルが放つ光の魔法が道を照らし、フィーリアの森の魔力が幻影の攻撃を弱め、ルナの現実創造魔法が、行く手を阻む幻の壁を打ち破っていく。
幾多の試練を乗り越え、彼らはついに、聖域の最深部に続く最後の門にたどり着いた。門は、これまでのどの結界よりも強力な闇の魔力を放ち、彼らの行く手を阻んでいた。
「この門の向こうに、魔力の源と、闇の眷属のリーダーがいます……!」
ルナが、緊張した面持ちで言った。
ラウルは、門に手をかざし、その魔力の流れを探った。その瞬間、彼の脳裏に、闇の眷属のリーダーの、傲慢な声が響いてきた。
「無駄な足掻きを……。貴様らの力など、この門を破るには至らない。そして、この門が破られた時、魔神の復活は、最終段階を迎える!」
「くそっ……!挑発に乗るな!」
ラウルは、怒りを抑え、フィーリアとルナに視線を向けた。
「フィーリア、ルナ、最後の力を合わせて、この門を破るぞ!」
三人は、再び互いの魔力を合わせた。ラウルの光、フィーリアの森、ルナの幻影。三つの異なる力が、一つに融合し、巨大な光の渦となって門にぶつかっていった。
轟音と共に、門は激しく震え、ひび割れ始めた。しかし、門は、なかなか砕けない。
「まだだ!まだ足りない!」
ラウルは、歯を食いしばり、最後の力を振り絞る。彼の全身から、これまでにないほどの強い光が放たれ、フィーリアとルナの魔力と共鳴する。
そして、ついに門は、音を立てて砕け散った。
彼らが足を踏み入れたのは、まるで宇宙のブラックホールのような、虚無の空間だった。その空間の中央には、巨大な祭壇が浮かんでおり、その祭壇の上には、闇の眷属のリーダーが、静かに佇んでいた。
「よくぞ、ここまでたどり着いた。古の血脈を継ぐ者よ……」
リーダーは、そう言うと、仮面を自ら外した。その下から現れたのは、醜悪に歪んだ顔ではなく、どこか気品のある、しかし虚ろな表情をした、壮年の男だった。
「貴方は……!?」
ルナが、その男の顔を見て、驚きの声を上げた。
「なぜ、驚く必要がある?私は、この世界の闇そのもの……。そして、貴様たちの故郷を滅ぼした者だ」
男の言葉に、ラウルの心臓が凍り付いた。彼は、この男の顔に、見覚えがあった。
「まさか……貴方は、オルド王国の宰相、ガリウス……!?」
ラウルが、震える声で叫んだ。
「その通りだ。アルフレッド王子。いや……ラウル。貴様が、まさか生きていようとはな」
宰相ガリウスは、ラウルに冷たい視線を向けた。
「なぜだ!?なぜ、オルド王国を……!」
ラウルは、怒りに満ちた声で尋ねた。
ガリウスは、冷笑を浮かべた。
「なぜ?この世界は、あまりにも愚かだ。争いと、欲望に満ちている。私は、そんな世界を浄化するため、真の秩序を築くため、魔神の力を手に入れようとしたのだ」
ガリウスは、自らの魔力を解放した。その魔力は、闇の眷属のリーダーとして彼が放っていたものとは比べ物にならないほど、強大で、そして純粋な闇そのものだった。
「私は、闇の王ガリウス……。この世界の全てを、私の手で変えてみせる!」
ガリウスは、そう宣言し、ラウルたちに襲いかかった。彼の魔法は、空間そのものを歪ませ、ラウルたちを絶望の淵へと突き落とそうとした。
ラウル、フィーリア、ルナの三人は、ガリウスの圧倒的な力に、絶体絶命の危機に陥る。しかし、彼らの心には、新生の王都の仲間たち、そして、彼らが守ろうとする世界の人々の笑顔が浮かんでいた。
「僕たちは、負けない!絶対に、この世界を守り抜いてみせる!」
ラウルは、最後の力を振り絞り、ガリウスに立ち向かう。
世界の運命を賭けた、ラウルと闇の王ガリウスの最終決戦が、今、この虚無の空間で、幕を開けた。




