第四十七話 儀式の中央と、ルナの記憶
ラウル(アルフレッド)は、意識を失ったルナを抱きかかえ、闇の眷属が潜む洞窟の奥へと急いだ。ルナの体からは、依然として微かに不吉な魔力が漏れ出しているが、ラウルは自身の「神のごとき魔法」で、その魔力の暴走を抑え込んでいた。
(闇の眷属め……!ルナを操って、僕を止めようとしたのか……!)
ラウルは、怒りを露わにした。しかし、同時に、ルナが闇の眷属の正体を探るために潜入していたという事実に、彼女が何を見て、何を経験してきたのか、その全てを知る必要性を感じていた。
洞窟の最奥部、巨大な空間が広がっていた。その中央には、おびただしい数の人間が縛り付けられた、禍々しい祭壇が設置されている。そして、その祭壇の上空では、どす黒い魔力が渦を巻き、世界の理を歪ませようとしていた。魔神の召喚儀式が、まさに最終段階に入ろうとしているのだ。
「来たか、古の血脈を継ぐ者よ……。貴様の命と力を、この儀式の生贄に捧げてもらおう!」
闇の眷属のリーダーが、高笑いを上げながら、ラウルの前に立ちはだかった。彼の顔は、以前森で遭遇した時と同じく仮面に覆われているが、その全身から放たれる魔力は、以前よりも遥かに強力だった。
「貴様らなど、相手にはならん。ルナを操り、人々を犠牲にするような、外道な真似は、僕がこの手で止めてみせる!」
ラウルは、ルナを背中に背負い、両手から光を放ち、リーダーに襲いかかった。ラウルの放つ光の魔法は、リーダーの放つ闇の魔術と激しくぶつかり合い、洞窟全体を揺るがす。
激しい攻防の中、ラウルは、ルナの意識に語りかけた。
(ルナ!聞こえるか!?君の記憶を、僕に貸してくれ!)
ラウルは、ルナと心を通わせるため、自身の「神のごとき魔法」と、天の理で得た「空の理」の力を組み合わせた。それは、人の記憶や感情を読み解く力だ。
ラウルは、ルナの記憶の中に入り込んでいった。ルナは、ラウル(アルフレッド)と別れた後、故郷の「月の国」へと帰国したが、そこで、闇の眷属が、月の国の王族にまで影響を及ぼし、国を支配しようとしていることを知った。彼女は、王族の使命として、その正体を探るべく、一人、国を出て旅を続けていたのだ。
旅の途中で、ルナは、闇の眷属が世界各地で暗躍し、古の血脈を持つ者たちを狙っているという情報を掴んだ。彼女は、ラウルがその標的になっていることを知り、彼を救うため、自ら闇の眷属に潜入したのだった。
しかし、闇の眷属のリーダーは、ルナの潜入に気づいていた。彼は、ルナの幻影魔術の才能を認め、彼女の心を闇の魔力で支配し、ラウルを誘き出すための罠として利用していたのだ。
(そうだったのか、ルナ……!一人で、こんな重荷を背負っていたなんて……!)
ラウルは、ルナの記憶の全てを理解し、彼女がどれほどの苦難を乗り越えてきたのかを知った。そして、彼女が、今も自分のために戦い続けてくれていることを感じ取った。
ラウルは、ルナの記憶から得た情報をもとに、リーダーの魔法の弱点を見抜いた。リーダーが放つ闇の魔法は、彼の仮面、そしてその奥にある、彼の魂そのものに魔力の源がある。彼の仮面を破壊すれば、魔力の供給が止まるはずだ。
「ルナ、ありがとう!君の想い、必ず受け止める!」
ラウルは、ルナの記憶から、再び現実へと意識を戻した。彼の目には、ルナの意志が宿っていた。
ラウルは、リーダーの攻撃をかわしながら、彼に接近した。そして、ルナの記憶から得た、闇の魔法の弱点である「魂」を直接狙う魔法を放った。それは、光と幻影を組み合わせた、ラウルにしか使えない、特別な魔法だった。
魔法は、リーダーの仮面に直撃した。仮面は、音を立てて砕け散り、その下から、醜悪に歪んだ、人間の顔が露わになった。
「ば、馬鹿な……!なぜ、私の弱点を……!」
リーダーは、驚愕と苦悶の表情を浮かべた。仮面が破壊されたことで、彼の魔力は急激に弱まり、祭壇の上空で渦巻いていた闇の魔力も、勢いを失い始めた。
「これ以上、貴様の好きにはさせん!」
ラウルは、最後の力を振り絞り、祭壇に縛り付けられた人々を解放するため、光の魔法を放った。光は、鎖を次々と破壊し、人々は、次々と解放されていく。
儀式は、失敗に終わった。
しかし、リーダーは、まだ息があった。彼は、最後の力を振り絞り、自らの命を犠牲にして、魔神の魂の一部だけでもこの世界に召喚しようとした。
「ラウル様!いけません!魔神の魂が、この世界に……!」
その時、ラウルの背中に背負われたルナの体から、強い光が放たれた。ルナは、ラウルとの精神的な繋がりを通じて、彼の魔力を受け取り、意識を取り戻したのだ。
「幻影魔法、神威『夢幻の月光』!」
ルナの放つ魔法は、洞窟全体を、清らかな光で満たした。その光は、リーダーの放つ闇の魔力を打ち消し、彼の魂を、完全に消滅させた。
こうして、魔神の召喚儀式は、完全に阻止された。ラウルは、ルナと共に、世界の破滅を防ぐことに成功したのだ。
しかし、ルナは、その魔法を放った後、再び意識を失ってしまった。ラウルは、解放された人々を救出し、ルナを抱きかかえて、闇の根城から脱出した。
森の奥深く、新生の王都では、帝国軍との戦いが終わり、勝利の歓喜に包まれていた。しかし、ラウルは、ルナを抱きかかえ、彼女の安否を案じていた。そして、彼は、ルナの安否、そして、この世界の真実を巡る、新たな物語の始まりを予感していた。




