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第四十三話 二つの脅威と、決断の時

 帝国の全面的な侵攻、そして「世界の闇を司る者たち」による魔神の召喚。二つの巨大な脅威が迫る中、名もなき開拓地「新生の王都」は、緊張感に包まれていた。ラウル(アルフレッド)は、天空の聖域で得た「空の理」を駆使し、常に世界の情勢を監視していた。


「セバス、防衛隊の最終訓練は順調か?」


 ラウルが尋ねると、セバスは厳粛な面持ちで報告した。


「はい、坊ちゃん。訓練は最終段階に入り、全員がいつ帝国が攻めてきても良いように準備万端でございます。新生の翼も、ワイバーンとの連携を完璧に習得しました」


 新生の翼。彼らは、今やワイバーンを自在に操り、編隊を組んで空を駆け巡る、頼もしい戦力となっていた。


「ユリア、闇の眷属の儀式について、何か新たな情報はないか?」


 ラウルが尋ねると、ユリアは眉をひそめて答えた。


「はい、ラウル様。彼らの儀式は、着実に進行しています。魔神の召喚には、莫大な魔力と、純粋な魂の生贄が必要です。彼らは、帝国が侵攻する際の混乱に乗じて、より多くの生贄を集めようとしているのかもしれません」


 ユリアの言葉に、ラウルの顔に怒りが走った。帝国との戦いが始まれば、多くの人々が犠牲になる。闇の眷属は、その混乱を巧みに利用しようとしているのだ。


「そんなことは、断じて許せん……!」


 グレンが、怒りに震えながら拳を握りしめた。


「ラウル様、帝国の侵攻は、もはや避けられません。しかし、闇の眷属の儀式を放置すれば、世界が破滅してしまいます」


 フィーリアが、深刻な面持ちで言った。二つの巨大な脅威を前に、彼らの選択は、非常に困難なものだった。


 その時、レッドが、低い唸り声を上げ、ユリアに念話を送った。


「…主よ。帝国の軍勢は、我々の森の入り口まで、あと数日の距離にまで迫っております。しかし、彼らの進軍速度は、異常なほど遅い…」


 ユリアは、レッドからの報告をそのままラウルに伝えた。


「進軍速度が遅い……?一体、どういうことだ?」


 ラウルは、疑問に思った。ゼノン将軍は、これまでにない規模の軍勢を率いている。通常ならば、一気に攻め込もうとするはずだ。


 ラウルは、空の理を使い、再び帝国の軍勢の様子を探った。彼の目に映ったのは、疲弊した兵士たちと、物資の運搬に苦労している様子だった。


「これは……!帝国軍は、内部で何か問題を抱えているようです。兵士たちの士気も低く、物資の補給も滞っている……」


 ラウルの分析に、セバスが頷いた。


「なるほど、それならば、帝国の侵攻は、我々が想定していたよりも、もっと慎重に進められるかもしれませんな」


 しかし、ラウルは、その背後に、闇の眷属の影があることを直感的に感じた。


「いや、違う……。これは、ゼノン将軍が、闇の眷属に利用されているのかもしれない。帝国の軍勢を餌に、我々をおびき寄せ、その隙に、魔神の召喚を完了させようと……!」


 ラウルの鋭い洞察力に、皆が息を呑んだ。帝国軍の進軍の遅れは、彼らの弱点ではなく、闇の眷属が仕掛けた、巧妙な罠だったのだ。


「では、どうすれば……。帝国軍と戦うべきか、それとも、闇の眷属の儀式を阻止すべきか……」


 グレンが、苦悩の表情で言った。どちらを選んでも、一方を危険に晒すことになる。


 ラウルは、静かに目を閉じた。彼の脳裏には、亡き家族の顔、そして、この国に暮らす人々の笑顔が浮かんでいた。そして、彼は、ある一つの決断を下した。


「我々は、両方と戦う。帝国軍を迎え撃ち、同時に、闇の眷属の儀式を阻止する!」


 ラウルの言葉に、皆が驚きの表情を見せた。それは、あまりにも無謀な決断に思えたからだ。


「しかし、坊ちゃん!それは、あまりにも……」


 セバスが、止めようとする。


「無謀ではない。帝国軍の弱点は、既に掴んだ。我々の空の戦力があれば、十分に対抗できる。そして、闇の眷属の儀式を阻止するには、私が直接向かうしかない」


 ラウルは、決意に満ちた表情で言った。彼自身が、魔神の召喚を阻止するために、闇の眷属の根城へと乗り込むというのだ。


「ラウル様、危険すぎます!一人で行くなんて、許しません!」


 フィーリアが、悲痛な声で叫んだ。


「一人ではない。レッド、ユリア、君たちの力を借りたい」


 ラウルは、レッドとユリアに視線を向けた。レッドの強大な力と、ユリアの魔術師としての知識があれば、闇の眷属の根城に乗り込める可能性は十分にある。


 レッドは、ラウルの決意を汲み取り、了承の唸り声を上げた。ユリアも、師匠の仇を討つため、そして、ラウルを守るために、迷うことなく頷いた。


「皆、すまない。この国の未来は、君たちにかかっている。帝国軍は、セバス、グレン、バルド、リゼル、そして新生の翼に任せる。必ず、この国を守り抜いてくれ!」


 ラウルは、仲間たちに深く頭を下げた。


 こうして、ラウルの決断のもと、新生の王都は、二つの巨大な脅威に立ち向かうための、二つの戦力を編成した。ラウル、ユリア、レッドの三人は、闇の眷属の儀式を阻止するため、帝国の奥地へと向かう。そして、残された仲間たちは、帝国の侵攻から、この国を、そしてそこに暮らす人々を守り抜くため、決戦の準備を整えた。


 ラウルの建国の物語は、今、二つの戦場に分かれ、その最終決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

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