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第四十一話 空の訓練校と、新生の翼

 レッドの咆哮が森に響き渡ってから数日後、遥か上空に、黒い点が現れ、次第にその数を増やしていった。それは、レッドの呼びかけに応えたワイバーンたちの群れだった。


 集落の住民たちは、空に現れた巨大な影に驚き、一瞬身をすくめたが、レッドが彼らを歓迎するように低い声で唸ると、その警戒心は安堵へと変わった。ワイバーンたちは、集落の上空を大きく旋回した後、レッドの合図で、集落から少し離れた開けた場所にゆっくりと降り立った。


 その巨体は、一頭一頭が小型の家屋ほどの大きさがあり、その翼は、強風を巻き起こすほどだった。しかし、彼らはレッドの支配下にあるためか、非常に穏やかで、人間に対する敵意は一切見られない。


「これが、レッドのワイバーンたちか……!」


 グレンが、感嘆の声を上げた。バルドも、その迫力に圧倒されたように、ただ見上げていた。


 ラウル(アルフレッド)は、ワイバーンたちの巨体を前に、興奮を隠せない様子だった。彼らは、間違いなく空の戦闘部隊の核となる存在だ。


「ユリア、レッド。彼らを我々の空の戦力として訓練していきたい。君たちの知恵と力を貸してほしい」


 ラウルが言うと、ユリアは力強く頷いた。


「はい、ラウル様。レッドは、ワイバーンの生態や習性を熟知しています。私も、空を飛ぶ魔術生物の扱いは、師匠から学んでおりました」


 レッドも、ラウルに賛同するように、低い唸り声を上げた。


 早速、ラウルはセバスと共に、空の戦闘部隊の育成計画に着手した。まず、ワイバーンが安全に着陸し、離陸できる場所を確保し、彼らが滞在する場所として、森の奥に巨大な洞窟を整備した。


 そして、最も重要なのは、ワイバーンを乗りこなし、空で戦うことができる「乗り手」の育成だった。ラウルは、集落の防衛隊の中から、特に身体能力が高く、度胸のある若者たちを選抜し、空の訓練校を設立した。


 訓練校の責任者には、セバスが就任し、教官には、グレンとリゼルが志願した。グレンは、冒険者としての経験から、魔獣の扱いにある程度の知識があり、リゼルは、弓の腕前と冷静な判断力で、空からの射撃訓練を担うことになった。ユリアも、魔術師として、ワイバーンとの意思疎通を補助する魔術や、空での戦闘に役立つ魔法の指導にあたった。


 訓練は、想像以上に困難を極めた。ワイバーンは、レッドの支配下にあるとはいえ、その巨体を操り、空中で思い通りに動かすには、乗り手とワイバーンとの信頼関係が不可欠だった。最初は、ワイバーンの背に乗るだけで精一杯の訓練生も多かった。


 しかし、ラウルは、彼らがワイバーンと心を通わせるための魔法を考案した。それは、天の理で得た知識と、フィーリアの森の魔力を融合させた、一種の「共鳴魔法」だった。この魔法を使うことで、乗り手はワイバーンの感情や思考を微かに感じ取ることができ、ワイバーンもまた、乗り手の意志をより明確に理解できるようになった。


 さらに、ラウルは、訓練生たちの身体能力を向上させるため、新たな身体強化の魔法や、高所での平衡感覚を養うための訓練プログラムを考案した。彼自身も、時折訓練に参加し、ワイバーンに乗って空を飛ぶことで、訓練生たちに手本を示した。


 空を飛ぶレッドの姿は、訓練生たちにとって、大きな目標となった。彼らは、レッドの雄大な飛行を参考に、ワイバーンとの一体感を高めていった。


 数週間後には、訓練生たちは見違えるように成長していた。彼らは、ワイバーンの背に乗って空を自在に飛び回り、風を切り裂き、急降下や急上昇といった複雑な飛行技術を習得していった。リゼルの指導のもと、空からの弓術訓練も順調に進み、彼らは移動しながら正確に目標を射抜くことができるようになっていた。


 ユリアは、ワイバーンに乗りながら、空中で使用できる新たな攻撃魔法の開発にも着手した。それは、風の魔術と、竜種の魔力を融合させた、強力な魔法だった。


 空の訓練校は、「新生の翼」と名付けられた。それは、この国の未来を切り開く、新たな空の戦力の象徴だった。


 ラウルは、集落の上空を、訓練を終えたワイバーンたちが編隊を組んで飛行する姿を眺めながら、確かな手応えを感じていた。彼らの空の戦力は、着実に形を成しつつある。


(帝国よ、そして闇の眷属よ……。次は、空で迎え撃つぞ)


 ラウルの心に、静かな闘志が燃え上がっていた。この森の奥深くで、彼の建国の物語は、今、空を舞台に、新たな歴史を刻み始めようとしていた。

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