第三十一話 仮面の刺客と、激しい遭遇戦
漆黒のローブを纏い、顔を仮面で隠した謎の集団。彼らが放つ禍々しい魔力と、ラウル(アルフレッド)の「神のごとき魔法」の真の性質を知っているかのような言葉は、ラウルにこれまでにない警戒心を抱かせた。
「貴様ら、一体何者だ!?」
グレンが叫び、剣を構えた。バルドも斧を低く構え、リゼルは弓に矢をつがえる。セバスは、ラウルの傍らで、いつでも支援できる態勢を取っていた。
「我らは、貴方の力を求める者。そして、この世界の真の力を引き出す者」
仮面のリーダーらしき人物が、冷徹な声で答えた。その声には、一切の感情が読み取れない。
「古の力を操る者……。貴様らが、この森で蠢く新たな脅威か」
ラウルは、冷静に相手を観察した。彼らの魔力は、帝国の魔術師とは異なる系統であり、どこかねじれた、不自然な性質を持っていた。
「その通り。そして、貴方のその血と力は、我々の目的のために必要不可欠なのだ」
リーダーの合図と共に、仮面の集団が一斉に襲いかかってきた。彼らは、短剣を手に、異常な速度で接近してくる。その動きは、訓練された兵士というよりも、獣じみた獰猛さを感じさせた。
「散開しろ!連携して迎え撃つ!」
ラウルは、指示を出した。
グレンは、その俊敏な動きで敵の攻撃をかわし、懐に潜り込んで剣を振るう。しかし、仮面の集団は、その短剣でグレンの攻撃をいなし、異常な体術で反撃してきた。彼らの動きには、魔力が込められており、並の人間では反応できない速度だった。
バルドは、その巨体と斧の重さを活かし、仮面の集団に立ち向かう。彼の放つ一撃は、大地を揺るがすほどの威力だが、仮面の集団は巧みにその攻撃を避け、バルドの死角を狙って短剣を突き立てようとする。
リゼルは、遠距離から魔法の矢を放ち、グレンやバルドを援護する。彼女の放つ矢は、正確に敵の急所を狙うが、仮面の集団は、まるで背中に目があるかのように、飛来する矢を最小限の動きでかわしていく。
セバスは、防御魔法を展開し、仲間たちを支援する。また、負傷した者には即座に治癒魔法を施し、彼らを後方から支えた。
「フィーリア、彼らの魔力の性質は?」
ラウルは、フィーリアに尋ねた。
フィーリアは、仮面の集団の動きを見つめながら答えた。
「彼らの魔力は、森の理に反しています。まるで、生命をねじ曲げ、不自然な形にしているかのような……。そして、彼らの短剣には、魔力を吸収する効果があるようです。直接攻撃を受けると、魔力が奪われます!」
フィーリアの警告に、ラウルは驚愕した。魔力吸収。それは、魔法使いにとって致命的な能力だ。
「魔力吸収だと……!?グレン、バルド、リゼル!直接攻撃は避けて、魔法で牽制しろ!」
ラウルは、指示を出したが、既に遅かった。グレンが、仮面の刺客の一人から短剣による切りつけを受け、体が痺れたように動きを止めた。
「ぐっ……!?体が……動かねえ……!」
グレンの体から、魔力が吸い取られていくのが、ラウルにも感じられた。
「グレン!」
リゼルが叫び、援護の矢を放つが、仮面の刺客はグレンを盾にするように身を翻し、矢はグレンの体をかすめる。
「卑怯な真似を……!」
ラウルは、怒りを露わにした。仲間が危険に晒されるのを見て、彼は冷静さを失いかけた。しかし、この場を打開するためには、感情的になってはならないと、自分に言い聞かせた。
「フィーリア、この森の力を最大限に引き出す!彼らの動きを封じる!」
ラウルは、大地に両手をかざした。森の木々がざわめき、無数の蔦が、仮面の集団めがけて伸びていく。蔦は、彼らの体を絡め取り、動きを封じようとする。
しかし、仮面の集団は、その短剣を振るい、蔦を切り裂いていく。彼らの短剣は、物理的な攻撃だけでなく、魔法的な拘束をも切り裂く力を持っているようだった。
「その程度では、我らを止められはしない。貴方の力は、我々がいただく!」
リーダーが、ラウルに向かって突進してきた。そのスピードは、グレンをも凌駕する。
ラウルは、迫り来るリーダーの短剣を、防御魔法で受け止めた。カキンッ!と金属がぶつかるような音が響く。短剣が防御魔法にぶつかる度に、ラウルの体から微かに魔力が吸い取られていくのが分かる。
(このままでは、ジリ貧だ……!)
ラウルは、焦りを感じ始めた。帝国の密偵が仕掛けた罠に嵌まり、そこに現れた謎の集団。この状況は、彼の想像を遥かに超えていた。
「ラウル様、彼らは、貴方の魔力を狙っています!古の王家の血と、その魔力を吸収しようと!」
フィーリアが、悲痛な声で叫んだ。
ラウルは、自身の力と、仲間たちの命が危険に晒されていることを悟った。このままでは、全員がこの場で倒れてしまう。
「セバス、グレン、バルド、リゼル!フィーリア!」
ラウルは、覚悟を決めた。彼は、この状況を打開するため、自身の持つ力を全て解放するつもりだった。
「この森を、そして、私の仲間たちを……!これ以上、荒らさせはしない!」
ラウルの翠色の瞳が、激しく輝き始めた。その全身からは、圧倒的な魔力が噴き出し、周囲の空気を震わせる。仮面の集団は、その強大な魔力に、思わず動きを止めた。
「な、なんだ、この魔力は……!?これほどの力が、人間ごときに!」
リーダーの仮面の奥から、驚愕の声が漏れた。
ラウルは、その魔力を込めて、森全体を覆うような、広範囲の攻撃魔法を放とうとしていた。この一撃で、全てを決める。彼の建国の物語は、新たな脅威との激しい遭遇戦の中で、その真価が問われようとしていた。




