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精神転移貴族の建国記 ~神の力を得て、森の奥地に王都を築く~  作者: ねこあし


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第二十三話 勝利の余韻と、帝国の執念

 帝国軍の大規模な侵攻を退けた後、名もなき開拓地には、安堵と達成感の空気が満ちていた。しかし、ラウル(アルフレッド)は、決して気を緩めることはなかった。今回の勝利は、あくまで一時的なものであり、帝国の執念は想像以上に深いだろうと予測していたからだ。


「皆さん、ご苦労様でした。負傷者の手当てと、防衛施設の修復を急いでください」


 ラウルは、戦いの後片付けを指揮しながら、防衛隊のメンバーや住民たちに労いの言葉をかけた。今回の防衛戦で、集落はほとんど損害を受けなかったが、消耗した魔力の回復と、万が一に備えた修復は不可欠だった。


 セバスは、負傷した住民や防衛隊員たちの手当てを、ラウルから教わった簡易治癒魔法と、フィーリアが提供した薬草を使って迅速に行っていた。彼の動きは、戦場を経験した熟練の兵士のようだった。


 グレン、バルド、リゼルも、それぞれが持ち場を確認し、次の防衛に備えていた。彼らは、今回の戦いで、ラウルの「神のごとき魔法」と、フィーリアの森との共鳴能力が、いかに強大な力であるかを再認識していた。


「まさか、帝国の大部隊を、ここまで完璧に退けられるとはな……」


 グレンが、感嘆の息を漏らした。


「ラウル様とフィーリア様がいれば、どんな敵も怖くないわ」


 リゼルが、ラウルたちを信頼の眼差しで見つめた。


 ラウルは、その言葉に静かに頷きながらも、遠くの森の彼方を見つめていた。彼の意識は、クリスタル「魔力の中枢」を通じて、撤退した帝国軍の動向を追っていた。


 帝国軍のゼノン将軍は、森から撤退した後、自軍の壊滅的な損害に激しい怒りを覚えていた。彼が率いる部隊は、帝国でも精鋭中の精鋭であり、これまでこのような屈辱を味わったことはなかった。


「報告しろ!あの森で一体何が起こったのだ!?」


 ゼノン将軍が、怒鳴りつけると、生き残った魔術師が震えながら報告した。


「は、はい……。森が、まるで生き物のように襲いかかってきました。巨大な木の根が兵士たちを捕らえ、光の矢が降り注ぎ……そして、あの水魔法。全ての火炎魔法を打ち消しました」


「馬鹿な!そんな芸当、人間ごときにできるはずがない!一体誰が指揮を執っていたのだ!?」


 ゼノン将軍は、信じられないといった様子で叫んだ。彼は、今回の敗北の原因が、単なる森の魔物によるものではないことを直感的に理解していた。何か、人間の、あるいは人間を超えた存在が、この森の力を操っている。


「それに、あの結界です。どれほど強力な探知魔法を使っても、森の奥深くを特定できませんでした。あれは、ただの防御結界ではありません。森全体を欺くような、高位の魔法障壁です!」


 魔術師の報告を聞き、ゼノン将軍の顔は、驚きと同時に、冷たい執念の光を宿し始めた。


「そうか……。王都で得た情報にあった、国王の三男アルフレッドの行方不明と、あの伯爵家の不可解な抵抗。そして、この森の異常な現象。全てが繋がっている……」


 ゼノン将軍は、顎に手を当て、深く考え込んだ。彼の頭の中で、点と点が線で繋がっていく。オルド王国に忠誠を誓う伯爵家の不可解な抵抗、そして、姿を消した国王の三男。彼は、その三男が、何らかの形でこの森の異変に関与していると確信した。


「報告を上げろ。この森の奥に、王国の残党が、何らかの強大な力を使って潜伏している可能性が高い。そして、あの森には、我々が知る以上の秘密が隠されている」


 ゼノン将軍の命令は、すぐに皇帝へと届けられた。皇帝は、ゼノン将軍の報告に眉をひそめた。未開の森に、そこまでの力を持つ存在がいるとは、にわかには信じがたい。しかし、ゼノン将軍の信頼は厚い。


「ゼノンよ、徹底的に調査し、その力を暴け。そして、その力を奪い取れ。もしそれが事実ならば、我が帝国の支配は、もはや揺るぎないものとなるだろう」


 皇帝の命令は、この森の力を何としても手に入れようとする、帝国の執念を示していた。


 森の奥深くで、ラウルは、遠くの帝国の動向を感じ取っていた。今回の勝利は、彼らに時間稼ぎを与えたに過ぎない。帝国は、決して諦めないだろう。


「セバス、防衛システムの強化をさらに進めます。グレン、バルド、リゼル、防衛隊の訓練も怠らないように。そして、フィーリア。この森の、さらなる力を引き出す方法を、私に教えてください」


 ラウルの目は、未来を見据えていた。彼らは、今、帝国という巨大な嵐の前に立たされている。しかし、彼らには、古の血脈、森の恵み、そして、何よりも信頼できる仲間がいる。


 名もなき開拓地は、帝国の執念を跳ね返し、更なる発展を遂げるだろう。そして、いずれ、この森の奥深くから、新たな王国の旗が、世界に向けて掲げられる日が来るだろう。その日まで、彼らの戦いは続く。


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