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第二十一話 新たな脅威と、防衛戦の準備

 名もなき開拓地は、フィーリアの導きとラウル(アルフレッド)の「神のごとき魔法」によって、順調に発展を続けていた。強固な結界に守られ、森の恵みを享受する日々は、住民たちに確かな安心感をもたらしていた。しかし、その平和は長くは続かなかった。


 ある日、フィーリアが森に意識を集中させていた時、彼女の翠色の瞳が、かつてないほどに強く輝いた。そして、その表情に、深い憂いの色が浮かんだ。


「ラウル様、セバス!危険です。帝国軍が……大規模な部隊が、こちらに向かってきています!」


 フィーリアの報告に、ラウルたちの顔色が変わった。以前の偵察隊とは違い、「大規模な部隊」という言葉は、本格的な侵攻を示唆していた。


「どのくらいの規模ですか、フィーリア?」


 ラウルが、冷静さを保ちつつ尋ねた。


「偵察隊の比ではありません。数百、いえ、千を超える兵士の魔力を感じます。そして、その中に……」


 フィーリアは、一瞬言葉を詰まらせた。


「その中に、非常に強力な、人の魔力があります。恐らく、帝国でも高位の魔術師か、騎士でしょう」


 その言葉に、セバスの表情も引き締まった。帝国が、この未開の森にそこまでの戦力を送り込んでくるということは、彼らがこの地の異常性を、相当深刻に受け止めている証拠だった。


「ついに来ましたね……」


 ラウルは、静かに呟いた。彼の目は、遠くの森の彼方を見据えていた。彼らはこの日のために準備を重ねてきたのだ。


「グレン、バルド、リゼル!防衛隊を総動員し、各自持ち場につかせろ!防衛結界の最終調整を急ぐ!」


 ラウルは、即座に指示を出した。グレンたちは、迷うことなく集落内を駆け回り、住民の避難誘導と、防衛隊の配置を行った。住民たちも、訓練の成果か、慌てることなく指示に従い、シェルターへと身を隠していく。


 ラウルとフィーリア、そしてセバスは、集落の中心にある「魔力の中枢」へと向かった。クリスタルは、帝国軍の接近を感じ取ったかのように、普段よりも強い光を放ち、脈動している。


「フィーリア、この結界で、どの程度持ちますか?」


 ラウルが尋ねると、フィーリアは眉をひそめた。


「彼らの魔力は、私たちが以前遭遇した偵察隊よりも遥かに強力です。特に、その高位の魔術師の力が。結界が完全に破られるまでには時間が稼げますが……その間に、何か手を打つ必要があります」


 ラウルは、頷いた。結界はあくまで時間を稼ぐためのもの。最終的には、直接的な戦闘に発展するだろう。


「この結スタルを使って、何か強力な反撃はできませんか?」


 セバスが、クリスタルを見上げながら尋ねた。


 ラウルは、クリスタルに手をかざし、その魔力の流れを深く読み取った。クリスタルには、世界の全ての魔法の知識が蓄積されている。当然、強力な攻撃魔法の知識も含まれている。しかし、それらは膨大な魔力を必要とし、準備にも時間がかかる。


「単独での強力な攻撃は、魔力の消耗が激しい。しかし……」


 ラウルは、あるアイデアを思いついた。それは、クリスタルの魔力を最大限に活用し、森全体の魔力を巻き込むような、大規模な魔法だ。


「フィーリア、森全体の魔力を借りることは可能ですか?この森は、あなたの血脈と深く繋がっているはずです」


 ラウルがフィーリアに問いかけると、フィーリアは目を閉じて、森の気配に意識を集中させた。そして、ゆっくりと目を開いた。


「ええ。可能です。ですが、それには貴方の力が必要です。貴方と私の血脈が共鳴することで、森の根源的な力を引き出すことができます」


 ラウルは、フィーリアの言葉に確信を得た。森と共鳴し、その力を引き出す。それは、古の王家が世界を創造したという知識とも繋がっていた。


「では、決まりです。私たちは、この森の力を借りて、帝国軍を迎え撃ちます」


 ラウルの目は、決意に満ちていた。彼の言葉には、復讐の念だけでなく、この集落と、ここに暮らす人々を守り抜くという、強い覚悟が宿っていた。


 集落の外では、帝国軍の足音が、森の静寂を破り、刻一刻と迫ってきていた。兵士たちの間からは、この森の不気味な静けさと、そこに張られた見えない結界の存在に、戸惑いの声が上がっていた。


「隊長、この結界は尋常ではありません!何らかの魔法的な防御が施されています!」


 帝国の魔術師が、額に汗を浮かべながら報告する。


「ほう。やはり、ここに何かがあるようだな」


 帝国軍の指揮官である男は、不敵な笑みを浮かべた。その目は、冷酷な光を宿し、獲物を見定めているかのようだった。彼の周囲からは、強大な魔力が渦巻いている。


 新たな脅威が、名もなき開拓地に迫る。しかし、ラウルたちは、もはやかつての無力な存在ではない。古の血脈を受け継ぎ、森の精霊と力を合わせた彼らは、帝国の巨大な軍勢を前に、いかなる戦いを見せるのだろうか。この森を舞台に、壮絶な防衛戦の幕が、今、まさに開こうとしていた。

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