第二十話 結界の拡大と、森の恵み
フィーリアが新たな仲間として加わってから、名もなき開拓地は、これまで以上に目覚ましい発展を遂げていた。彼女の持つ、森と自然の理に関する知識は、ラウル(アルフレッド)がクリスタル「魔力の中枢」から得た情報と相まって、開拓地の建設に計り知れない恩恵をもたらした。
「ラウル様、この地の魔力の流れは、ここに水路を引くのが最も効率的です。地下水脈の活性化も期待できます」
フィーリアが、掌を大地にかざしながら言った。彼女の翠色の瞳は、まるで地脈を見通すかのように輝いている。ラウルは、その助言に即座に応じ、魔法で新たな水路を整備した。すると、清らかな水が音を立てて流れ込み、周囲の土壌がさらに潤っていくのが実感できた。
フィーリアの導きにより、ラウルはクリスタルの力を最大限に引き出し、集落の結界をさらに広範囲に拡大することに成功した。その結界は、もはや単なる魔物避けや探知妨害の域を超え、森全体が呼吸しているかのように、森の奥地へと魔力を循環させていた。
「これほどの結界であれば、帝国が本隊を送り込んできても、簡単には突破できないでしょう」
セバスが、強化された結界の働きに感心しながら言った。集落全体が、見えない壁によって守られているような安心感があった。
グレン、バルド、リゼルも、フィーリアの存在に大きな驚きと、同時に尊敬の念を抱いていた。彼女は、魔法使いではない。しかし、その自然を操る力は、ラウルの「神のごとき魔法」に匹敵するほどであり、彼らの想像を遥かに超えていた。
「フィーリアさんのおかげで、森の魔物の動きも事前に察知できるようになりましたね」
リゼルが、弓を構えながら言った。フィーリアは、森に意識を同調させ、数キロ先の魔物の気配や、森の小さな異変までも察知することができた。これにより、防衛隊はより効率的に魔物の対処にあたることができ、住民たちは安心して生活を送ることができた。
ラウルは、フィーリアから、森の奥に隠された貴重な資源の場所も教えられた。それは、良質な木材が育つ場所、薬草が群生する湿地帯、そして、これまで発見できなかった希少な鉱石の脈だった。
「この森は、私たちに多くの恵みを与えてくれます。私たちは、その恵みに感謝し、森と共生する術を学ばなければなりません」
フィーリアは、ラウルに、森の生態系を壊さずに資源を採取する方法や、傷ついた自然を癒す魔法などを教えた。ラウルは、その知識を吸収し、集落の運営に活かしていった。
森の恵みを最大限に活かすことで、集落の生活水準は飛躍的に向上した。豊富な食料、良質な建材、そして、ラウルとフィーリアが協力して作り出す、様々な魔法道具や薬。それらは、住民たちの暮らしを豊かにし、病や怪我の不安を払拭した。
住民たちもまた、フィーリアの存在を「森の女神」のように崇め、深く敬愛していた。彼女の優しさと、自然を愛する心は、人々の心を癒し、集落全体に穏やかな空気を醸し出していた。
ある日の夕暮れ、ラウルはフィーリアと共に、集落を見下ろせる丘に立っていた。夕陽に照らされた集落は、日々その姿を変え、新たな生命の息吹に満ち溢れている。
「フィーリア。あなたのおかげで、この集落は、私の想像を遥かに超える速さで発展しています。本当に感謝しています」
ラウルが、心からの感謝を伝えた。
フィーリアは、静かに微笑んだ。
「貴方の力は、この森と人々を繋ぎ、新たな生命を育んでいます。貴方こそが、この世界の光なのです」
彼女の言葉は、ラウルの心に温かく響いた。復讐の念だけでなく、人々を救い、新たな世界を創造したいという彼の願いが、確かに形になりつつある。
しかし、ラウルは忘れていなかった。帝国の脅威は、まだ去ったわけではない。そして、彼らがこの森の奥で築き上げているものが、いずれ帝国の目に留まる日は必ず来るだろうと。
「私たちには、まだやるべきことが多くあります。この集落を、誰もが安心して暮らせる、真の王都へと成長させなければなりません」
ラウルは、遠くの森の彼方に広がる、未踏の地を見つめた。彼の脳裏には、既に、この集落を包み込む巨大な城壁、そして、その中に広がる壮麗な王都の姿が描かれている。
フィーリアは、そんなラウルの隣で、静かに頷いた。彼女の瞳には、未来への希望と、ラウルへの深い信頼が宿っていた。この二人の力が合わさることで、失われた王国の再建、そして、より平和な世界の創造という壮大な目標は、現実のものとなるだろう。
 




