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第十八話 フィーリアの正体と、古の血脈

 翌日、ラウル(アルフレッド)は、セバス、グレン、バルド、そしてリゼルを伴い、リゼルがフィーリアと出会った森の奥の泉へと向かった。森は静かで、小鳥のさえずりだけが響く。しかし、一歩足を踏み入れるごとに、その奥深くに秘められた神秘が、彼らを包み込んでいくようだった。


 泉のほとりに着くと、フィーリアはすでにそこに佇んでいた。彼女は、変わらず緑色のローブを身につけ、フードで顔を覆っているが、その佇まいは、まるで森の風景に溶け込んでいるかのようだった。ラウルたちが近づくと、彼女はゆっくりと顔を上げた。


 翠色の瞳が、まっすぐにラウルを捉えた。その瞬間、ラウルの脳裏に、クリスタル「魔力の中枢」から得た膨大な知識の一部が、まるで堰を切ったかのように流れ込んできた。それは、この世界の遥か昔、人間とは異なる特別な能力を持つ「古の種族」が、自然と共に生きていたという記述だった。


「あなたが、この森に、新たな命を吹き込んでいる方ですね」


 フィーリアが、静かで、しかし確かな声でラウルに語りかけた。その言葉には、一切の疑念も、畏怖も含まれていない。まるで、ラウルの存在を、以前から知っていたかのように。


 ラウルは、彼女の言葉に驚きながらも、落ち着いて答えた。


「はい。私は、ラウルと申します。この森の奥に、新たな集落を築いています」


「フィーリアと申します。貴方の魔力は、この森の奥深くで、日々強く輝いています。それは、かつてこの地に存在した、古の王の魔力に酷似しています」


 フィーリアの言葉に、ラウルは息を呑んだ。「古の王」……。それは、オルド王国の始祖、あるいはそれ以前の伝説の王のことだろうか。そして、彼女は、ラウルの中に眠る「神のごとき魔法」の力を、正確に感じ取っている。


「あなたは、一体……何者なのですか?」


 ラウルが問いかけると、フィーリアはゆっくりとフードを外し、その美しい顔を露わにした。透き通るような白い肌、長い翠色の髪、そして吸い込まれるような深い翠色の瞳。彼女の姿は、森の精霊と見紛うばかりだった。そして、その髪には、リゼルが見つけたあの銀色の髪飾りが、確かに輝いていた。


「私は、この森に代々伝わる血脈の者。この森と、そしてこの世界を見守る者です」


 フィーリアの言葉は、まるで森の囁きのように、ラウルの心に響いた。そして、彼女は、ラウルの翠色の瞳をじっと見つめた。


「貴方の瞳の色……そして、貴方の内に秘められた力。それは、古の王家、そして私と共通の血脈を持つ証です」


 フィーリアの言葉に、ラウルは驚愕した。「古の王家」……それは、オルド王国の王家とは異なる、遥か昔の王家のことだろうか。そして、彼とフィーリアが、共通の血脈を持つ?


「どういうことですか?」


 ラウルが困惑しながら尋ねると、フィーリアは静かに語り始めた。


「遠い昔、この森の奥地には、自然と共に生きる『森の民』が暮らしていました。彼らは、森の恵みと共に生き、自然の魔力を操ることを得意としていました。しかし、彼らの血は、やがて他の人間と混ざり合い、その力は薄れていきました。ですが、その中でも、特に強い血脈を受け継ぐ者は、稀に現れます。彼らは、自然の魔力を自在に操り、世界の理を理解する力を持ちます」


 フィーリアは、そう言うと、ラウルの翠色の瞳を再び見つめた。


「貴方のその瞳の色は、古の王家に伝わる、森の民の血の証。そして、貴方が操るその魔力は、その血脈が目覚めた証なのです」


 フィーリアは、ラウルが持つ「神のごとき魔法」が、彼女の祖先である「森の民」の血脈と関係していることを示唆した。それは、ラウルがクリスタルから得た知識と合致する。古の文明には、自然の魔力を操り、世界を創造するような力を持つ者が存在したという記述があった。


「私が、この森の民の血を引いている、と?」


 ラウルが信じられないといった様子で尋ねると、フィーリアは静かに頷いた。


「ええ。貴方は、遠い昔に途絶えたとされた、古の王家の真の末裔。そして、私と同じ血脈を持つ者。貴方の内なる力は、貴方の血によって目覚めた、森の民の力そのものなのです」


 フィーリアの言葉は、ラウルに新たな衝撃を与えた。彼は、ただの転生者ではなかった。この世界の古の血脈を受け継ぐ者として、特別な使命を帯びているというのだ。そして、その使命は、女神が彼に託した「平和な世界を作る」という願いと、深く繋がっているような気がした。


 グレン、バルド、リゼル、そしてセバスもまた、フィーリアの話に耳を傾け、驚きを隠せないでいた。彼らの目の前にいるのは、ただの美しい女性ではない。この森の神秘、そしてこの世界の真実に深く関わる、特別な存在なのだ。


「私は、貴方がこの森に新たな命を吹き込んでいることを知っています。貴方のその力は、この世界を救うためにある。どうか、この森の民の力を、この世界の平和のために使ってください」


 フィーリアは、そう言うと、ラウルに手を差し伸べた。その手は、透き通るように白く、温かかった。ラウルは、その手を取り、強く握りしめた。


 この出会いは、ラウルの建国の物語に、新たな意味と方向性を与えることになった。彼は、ただの復讐者ではない。古の血脈を受け継ぎ、この世界の真実に迫る者として、新たな使命を帯びたのだ。そして、フィーリアという、森の精霊のような女性との出会いは、彼の孤独な旅に、新たな光をもたらすことだろう。

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