表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/85

第十五話 新たな住民と、帝国の偵察

 名もなき開拓地は、ラウル(アルフレッド)と、希望を胸に集まった難民たちの手によって、目覚ましい発展を遂げていた。ラウルの「神のごとき魔法」は、建設の速度を飛躍的に高め、クリスタル「魔力の中枢」から得た知識は、彼らを高度な技術へと導いた。


 開拓地の中心には、石造りの堅牢な建物が次々と建てられ、居住区は整理され、農地は広がり続けていた。水路は整備され、清らかな水が集落内を巡る。人々は、自分たちの手で未来を築いているという実感を持ち、活気に満ち溢れていた。


「坊ちゃん、食料の備蓄も順調です。この冬も乗り越えられそうですな」


 セバスが、食料庫の確認を終えてラウルに報告した。彼の顔には、疲労はあるものの、充実した日々を送っている喜びが浮かんでいた。


「素晴らしい、セバス。これで、当面の不安は解消されました。次は、防衛施設の強化に取りかかります」


 ラウルは、集落の拡大に合わせて、防衛計画を練っていた。クリスタルから得た知識の中には、古代の強固な防御壁や、魔法による自動防衛システムの構築方法も含まれていた。彼は、それらの技術を応用し、集落を強固な要塞へと変貌させようとしていた。


 グレン、バルド、リゼルは、集落の防衛隊の訓練に当たっていた。元兵士の難民たちに、ラウルから教えられた戦術や、魔法との連携方法を指導する。彼ら自身も、ラウルの魔法による強化と、日々の実践によって、その戦闘能力はさらに磨きがかかっていた。


「おい、新入りども!もっと気合を入れろ!こんなんで帝国兵と戦えるか!」


 グレンの怒鳴り声が、訓練場に響き渡る。彼の指導は厳しかったが、その根底には、仲間を守りたいという強い思いがあった。


 そんなある日、集落の周辺を探索していたリゼルが、慌ただしく拠点へと戻ってきた。その表情は、普段の冷静な彼女からは想像できないほど、焦りの色を浮かべていた。


「ラウル様、セバス!帝国兵です!偵察隊が、この森の入り口付近まで来ています!」


 リゼルの報告に、ラウルたちの顔色が変わった。ついに来たか、と。これまでも、集落の結界によって、魔物や小さな偵察兵を寄せ付けなかったが、本格的な偵察隊となると話は別だ。


「セバス、住民たちをシェルターに避難させてください。グレン、バルド、防衛隊を招集し、各持ち場につかせろ!リゼルは、引き続き敵の動向を監視する」


 ラウルは、冷静かつ的確に指示を出した。彼の表情からは、一切の動揺が見られない。この日のために、彼らは準備を重ねてきたのだ。


 人々は、ラウルの指示に従い、慌てることなくシェルターへと向かった。彼らは、ラウルが必ず自分たちを守ってくれると信じていた。


 ラウルは、セバスと共に、集落の結界の状況を確認した。結界は、帝国兵の探知魔法や、物理的な侵入を完璧に遮断していた。だが、相手も精鋭の偵察隊だ。いずれ、結界の存在に気づき、何らかの行動を起こすだろう。


 森の入り口付近では、ラーヴェン帝国の偵察隊が、慎重に森の奥を探索していた。彼らの隊長は、鋭い眼光を持つベテランの魔術師だった。


「隊長、この森の奥から、微かな魔力を感じます。しかし、結界が張られているようで、正確な位置を特定できません」


 部下の一人が、困惑した様子で報告した。


「結界だと?この未開の森に、誰がそんなものを張ったというのだ……」


 隊長は、訝しげに呟いた。彼は、この森の奥に、何か特別なものがあることを直感的に察知していた。


「しかし、その結界は、尋常なものではありません。私どもの探知魔法では、全く突破できません」


「ふむ……。いずれにせよ、ここに何かがあるのは確かなようだ。報告を上げて、本隊の到着を待つ。深追いはするな」


 隊長は、慎重に指示を出した。彼らは、ラウルたちの存在そのものには気づいていないが、この森に張られた強力な結界の存在によって、ただの未開の森ではないことを察知したのだ。


 ラウルは、偵察隊の動きを感知し、次の行動を予測していた。彼らが本隊を呼ぶ前に、何らかの手を打つ必要がある。しかし、帝国兵と真正面から戦うのは、まだ時期尚早だ。集落の防衛力は向上しているとはいえ、帝国本隊と戦うには、まだ発展途上だった。


(どうする……。彼らを追い払うだけでは、いずれまた来るだろう)


 ラウルの脳裏に、クリスタルから得た知識が巡る。古代文明には、敵を欺き、混乱させるための魔法も存在した。


 ラウルは、森の奥深くで、静かに魔力を練り始めた。彼の顔には、この状況を打開するための、確固たる決意が宿っていた。名もなき開拓地は、帝国という巨大な脅威に、初めて直面する。この試練を乗り越え、彼らはさらに強固な絆で結ばれ、真の都市へと成長していくことだろう。そして、この場所が、やがて帝国の喉元に突きつけられる刃となる日も、そう遠くはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ