第十三話 最初の移住と、新生の集落
ラウル(アルフレッド)は、難民キャンプで集まった人々を率いて、彼らが新しい故郷と呼ぶべき森の奥地へと向かっていた。希望に満ちた目をした難民たち、そしてラウル、セバス、グレン、バルド、リゼルの五人の仲間たち。彼らは皆、新しい生活への期待と、未来への漠然とした不安を胸に抱いていた。
「坊ちゃん、この人数での移動は、想像以上に時間がかかりそうですな」
セバスが、列の最後尾を見やりながら言った。子供から老人まで、様々な年代の難民たちが、少ない荷物を抱えて森の道を歩いている。
「ええ。ですが、これも必要な過程です。急がず、しかし着実に進みましょう」
ラウルは、彼らの疲れを軽減するため、時折、風の魔法で微かな追い風を送ったり、足元を柔らかくする魔法をかけたりした。グレンたちは、隊列の前後や側面に配置され、魔物の襲撃に備えたり、道なき道を切り開いたりした。
道中、魔物と遭遇することもしばしばあったが、ラウルたちの連携は完璧だった。ラウルが広範囲魔法で魔物の群れを足止めし、グレン、バルド、リゼルがその隙に個体を撃破する。セバスは、傷ついた者を癒し、彼らを後方から支援した。難民たちは、その圧倒的な力と連携に、驚きと畏敬の念を抱いていた。
「すげえ……本当に、俺たちを助けてくれるんだな」
難民の一人が、ラウルの魔法の光を見上げながら呟いた。彼らは、長らく帝国に怯え、希望を失っていた。しかし、ラウルの存在は、彼らに再び生きる力を与えていた。
数日間の移動を経て、一行はついに、ラウルたちが開拓した森の中の拠点へと到着した。目の前に広がるのは、魔法によって整えられた広大な平地。中央には、簡易的ではあるが、住居や作業場となる建物が立ち並んでいる。
「ここが……新しい私たちの場所……」
難民たちの間から、感嘆と安堵の声が上がった。彼らは、目の前の光景が信じられないといった様子で、互いに顔を見合わせる。
ラウルは、その光景を満足そうに見渡した。
「ようこそ、皆さん。ここが、皆さんの新たな故郷です。まだ簡素なものですが、ここから、皆で力を合わせ、理想の都市を築いていきましょう」
ラウルの言葉に、難民たちは歓声を上げた。彼らは、地面にひざまずき、涙を流しながら、ラウルに感謝の意を伝えた。中には、土にキスをする者もいた。長年の苦難から解放され、ついに安息の地を得たのだ。
ラウルは、すぐに難民たちに役割を割り振った。かつてのオルド王国の民である彼らは、様々な技能を持っていた。農民、職人、商人、さらには学者や元兵士などもいた。ラウルは、彼らの技能を活かし、それぞれが最も貢献できる場所へと配置していった。
農民たちには、ラウルが魔法で肥沃にした畑を割り当て、セバスの指導のもと、作物の栽培を開始した。職人たちには、ラウルが用意した資材と、クリスタルから得た高度な技術の知識を伝え、道具や建材の生産を依頼した。元兵士たちには、グレンの指導の下、簡易的な防衛隊を組織し、拠点周辺の警戒と治安維持を任せた。
ラウルは、彼らに強制することは一切しなかった。ただ、彼らの意思を尊重し、それぞれの技能を最大限に活かせるよう、環境を整えた。彼の統治は、かつての王族としての経験と、クリスタルから得た統治術の知識によって、驚くほど円滑に進んだ。
セバスは、ラウルの補佐として、人々の配置や物資の管理、日々の運営を取り仕切った。彼の長年の経験と、その細やかな気配りは、初期の混乱を最小限に抑え、集落の基盤を安定させた。
グレン、バルド、リゼルは、新たな住民が加わったことで、警戒範囲を広げ、魔物の侵入を防いだり、資源の探索を続けたりした。彼らは、ラウルが率いるこの集落の守護者として、その力を遺憾なく発揮した。
数週間後には、難民たちは、すっかり新しい生活に馴染んでいた。子供たちの笑い声が響き渡り、畑では作物が芽吹き、工房からは槌の音が聞こえる。彼らの顔には、希望と活力が満ち溢れていた。
ラウルは、集落の片隅に立ち、その光景を静かに見守っていた。かつて、帝国に滅ぼされたオルド王国。しかし、この森の奥深くで、彼の理想とする新たな集落が、確かに芽生え始めていた。
(父上、母上、レオナルド兄上、カイン兄上……見ていてください。私は、必ず、この地から新たな王国を築き上げます)
ラウルの心に、亡き家族への誓いが、より一層強く刻み込まれた。これは、単なる復讐ではない。新たな、平和で豊かな世界を創造するための、壮大な建国の物語なのだ。小さな集落は、やがて巨大な都市へと成長し、帝国の脅威に対抗する力を得るだろう。その未来への第一歩が、今、確かに踏み出されたのだ。




