第十一話 森の開拓と、都市計画の始動
ラウル(アルフレッド)は、クリスタル「魔力の中枢」の広間で、仲間たちに今後の壮大な計画を語った。それは、この未開の森に新たな都市を築き、最終的にはラーヴェン帝国を打倒し、オルド王国を再建するという、あまりにも途方もない夢だった。
「この森に、都市を……ですか、坊ちゃん?」
セバスが、驚きと、しかし深い信頼の眼差しでラウルを見つめた。
グレンは、口笛を吹きながら腕を組んだ。
「へぇ、面白えな!森の奥に都市を築くなんて、とんでもねえ話だぜ。俺たち冒険者でも、聞いたことがねえ」
「でも、ラウル様の力があれば、不可能じゃないわ。そうでしょう?」
リゼルが、ラウルに真っ直ぐな視線を送る。彼女の目には、既に希望の光が宿っていた。バルドも、言葉は少ないが、その大きな瞳には、期待の色が浮かんでいる。
ラウルは、皆の反応に満足そうに頷いた。
「はい。このクリスタルの力と、皆さんの協力があれば、必ず実現できます。まずは、この拠点を中心に、安全な領域を広げ、都市の基盤となるインフラを整えていきます」
ラウルは、クリスタルから得た建築術や土木技術の知識を元に、具体的な計画を説明し始めた。
「まず、拠点の周囲の森を徐々に開拓し、居住区や農地を確保します。次に、水路を整備し、生活用水を確保するとともに、農業用水としても利用できるようにします。そして、何よりも重要なのは、防衛施設の構築です」
ラウルの計画は、緻密で具体的だった。彼は、クリスタルを通じて得た、この森の魔物の生態や、地理的な特徴、さらには地下の資源の分布まで把握していた。
「開拓には、グレン、バルド、リゼルの皆さんの力が必要です。魔物の排除と、未開の地の探索をお願いします。セバスは、森の資源の管理と、採取した素材の加工をお願いします」
それぞれの役割が明確に割り振られ、一同は活気づいた。彼らは、ラウルの夢に、自分たちの全てを賭けることを決意していた。
翌日から、彼らの活動は本格化した。
ラウルは、まず拠点から広がる範囲に、強固な結界を二重、三重に張り巡らせた。これは、通常の魔物だけでなく、帝国の偵察兵をも完全に遮断するためのものだ。
そして、大地を操る「神のごとき魔法」の力で、鬱蒼とした森を切り開き始めた。巨大な樹木は瞬く間に根元から引き抜かれ、起伏の激しい地面は平らにならされていく。その光景は、まさに神業と呼ぶにふさわしかった。
グレン、バルド、リゼルは、ラウルが開拓した場所で、残された魔物の掃討を行った。彼らの鍛え上げられた戦闘能力と、ラウルから施された魔法の強化によって、彼らの力は飛躍的に向上していた。特に、ラウルが教えた魔力の効率的な使い方や、魔物の特性を見極める方法は、彼らの戦闘スタイルに大きな変化をもたらした。
バルドは、大地を揺らすような斧の一撃で、大木を容易に倒し、開拓作業を力強く推し進めた。リゼルは、上空から森全体を見渡し、魔物の群れや危険な場所を的確にラウルに伝えた。グレンは、最前線で魔物と対峙し、新たな魔法の技を試しながら、その威力を確かめていった。
セバスは、ラウルが切り開いた土地から、有用な薬草や鉱石、木材などを効率的に採取し、拠点の工房へと運び込んだ。彼は、ラウルから教わった簡易的な錬金術の知識を使い、採取した素材を加工したり、保管したりする作業に没頭した。
開拓された土地には、ラウルの魔法によって、瞬く間に簡素な住居や作業場が作られていった。水路も整備され、澄んだ水が流れ込む。彼の魔法は、創造の力を最大限に発揮し、まさに無から有を生み出しているかのようだった。
数週間後には、拠点の周囲に、広大な平地と、水路に囲まれた区域が完成した。それは、まだ荒削りな形ではあったが、未来の都市の礎となる場所だった。
「これだけの広さがあれば、最初の居住区は確保できますね」
ラウルは、完成した開拓地を見渡し、満足そうに頷いた。
「驚きだな、ラウル。こんな短期間で、これほどの土地を開拓するなんて、まさか人間の業とは思えねえぜ」
グレンが、感嘆の声を漏らした。彼ら冒険者にとっても、森の開拓は気の遠くなるような作業だ。それを、ラウルはたった一人で、しかも短期間で成し遂げてしまったのだ。
「私たちは、あなた様の力に、ただただ感服するばかりでございます」
セバスが、深々と頭を下げた。
ラウルは、彼らの言葉に微笑んだ。まだ始まったばかりだ。しかし、この第一歩が、やがてはラーヴェン帝国を揺るがす、巨大な王都へと繋がるのだ。
森の奥深くで始まった、静かなる建国。それは、失われた王国の再建だけでなく、彼の理想とする、平和で豊かな世界を創造するための、最初の一歩だった。




