1日目
俺の名前は真瀬凛太郎もちろん独身だ。
今まで、友人や彼女などいなかった俺だが...
好きな人ができた。
その人は中崎皐月俺の住んでいるアパートの隣人だ。
彼女は容姿端麗で誰にでも優しい完璧な女性。
...つまり俺には手の届かないような憧れの人なのだ。
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朝日がカーテンの隙間から俺の顔を差す。
「...朝か」
そうぽつりと呟きながらカーテンを勢いよく開ける。
朝日が差し込む中、俺は朝食のジャムトーストをハムスターのように口いっぱいに頬張る。
ふと横にあったスマホに目をやると、7:20が表示された。
「やべ、会社遅刻する!」
急いで身支度を整え、ゴミ袋を片手に玄関の扉に手をやる。
階段を降り、ゴミ収集場に向かった。
「まだゴミ収集車は来てない、よし!間に合った」
嬉しみに浸っていると自分の横に気配を感じた。
横を見るとそこには中崎さんがいた。
(これは、話しかけるチャンスなのではないか?)
せめて挨拶だけでもしよう。
「オハヨウゴザイマス」
俺は緊張で言葉がカタコトになってしまった。
隣に好きな人がいるのだから仕方がない。
そう心の中で言い訳をした
俺に気づいた中崎さんは、可愛らしい笑顔で、
「おはようございます、真瀬さん」
「イイ天気です、ネ」
またカタコトだ。
「ええ、そうですね。雲ひとつない。」
俺たちは他愛の無い話を沢山した。
「お時間大丈夫ですか?」
この言葉で俺は固まった。まるで俺だけ時が止まったかのように。
急いでポケットからスマホを取り出すと時間を見た。
「...遅刻する!」
中崎さんとの会話が楽しすぎて時間を忘れていたのだ。
「すいません、なんか引き留めてしまったようで」
中崎さんの眉がわかりやすく下がった。
「いえいえ...話しかけたのは俺ですし、気にしないでください」
「それにまだ会社には間に合います!」
そんなわけはない...
現在時刻8:40、出社時刻9:00、電車で1時間かかる会社に20分で着けるはずがない。
これは全て、中崎さんを安心させるための優しい嘘だ。
「そうですか!なら良かったです」
中崎さんの顔が一気に明るくなった。
「では、いってらっしゃい!」
「イッテキマス!」
中崎さんからの"いってらっしゃい"興奮するな、こんなの、アレではないか...『夫婦』、そんな文字が頭をよぎる。
こんなことを考えていたら、自然とニヤニヤしてしまった。
(これじゃただの変態ではないか、いかんいかん)
俺は表情を戻し、頭を整理した。
(中崎さんのような女性は俺のような底辺サラリーマンとは不釣り合いだ)
そう自分に何度も言い聞かせて平常心にする。
そんな時、スマホから着信音が鳴った。
「げ、部長からだ」
仕方なく応答をタップする。
.......どれほどの時間が経ったのだろうか、俺は小さくため息をつく。
「部長の説教長すぎだろ...」
* * *
「やっと終わった...」
怒涛の量の資料を渡され、残業でなんとか片付けた。スマホの時刻は23:48を表示する。
(あぁ、こんな時に中崎さんと会えたらなぁ...)
そんな叶いもしないことを考えながら帰宅していると、背後から誰かに突かれた。
恐怖で背中に汗が流れるのを感じた。
(俺、今日で死ぬのか?)
恐る恐る振り向くと、それは部屋着の中崎さんだったのだ。
(か、可愛い!)
「中崎さん!?どうしたんですかこんな時間に」
「散歩です!」
中崎さんは朝同様の笑顔で答える。
「そっちこそどうしたんですか?」
中崎さんは、可愛らしく首を傾げる。
(可愛すぎだろ!)
「どうしたの?固まっちゃって」
俺はハッとした。
(可愛すぎて危うく気を失うとこだった)
まったく、この人は自分の可愛さをわかっていない。
「すいません、中崎さんが可愛すぎて固まってしまいました」
「え?」
(やばい、口が滑った...引かれるかな?)
チラッと中崎さんを見ると、顔を赤らめてぷるぷると小動物のように震えていた。
「すみません、口が滑りました」
俺が冷静を装って言うと、
「だよね、そうだよね!」と少し食い気味に答えた。
「嬉しい...」中崎さんは小さな声で呟いた。
「何か言いました?」
「ううん、なんでもない」
中崎さんは今日1番の笑顔で答えた。
「じゃあ、おやすみなさい」
中崎さんは少し照れたように走って逃げてしまった。
俺はさっきの事を考える。
(なんて言ってたんだろう?まあどうせキモいとか言ってたんだろうな)そんな事を考えていたら家に着いた。
俺は、今日の出来事に浸りながら寝た。