黙って殴るぞ
「ねぇ……あの子、また一人でしゃべってるよ」
放課後の図書室。影の薄い男子ことEくんは、小声で何かをつぶやいていた。
「……やっぱり、あれが“風”だったか」
(うわっ!?完全にバレてる!?)
棚の裏に隠れていたA・B・Cの3人、青ざめる。
(このままじゃ……“王様”に通報される……!)
「討伐される……!俺ら、風と雷のテロリスト扱い……!」
「違うだろ!ちゃんと“うっかり山火事”だったろ!」
「フォローになってない!!」
⸻
その頃Eくんは、誰もいないと思っていた棚の隙間にメモを挟んでいた。
『僕が見た夢――風、雷、斧、赤い瞳、終末の日』
「……思い出すのが怖い。でも、逃げても仕方ない」
そのとき。
《記憶ヲ渡セ》
また現れた“記憶を狩る者”。
Aくんたち、パニック。
(やばい!Eくん狙われてる!!でもバレずに助ける方法なんて――)
「やるしかないな……」
Cちゃんが、斧を持って立ち上がる。
《我ガ主、目覚メニ近ヅキタ》
「うるせぇカルマ、黙って殴るぞ」
⸻
図書室の奥、人気のない書架の裏――
Cちゃんが斧「カルマくん」を構え、低くつぶやく。
「黙ってたけどさ、私この斧……捨てたはずだったんだよね」
《余ハ語リ部。主ノ元ヲ離レテモ、記憶ノカケラニ引カレ還ル》
「そういうのは乙女の家に帰るぬいぐるみだけにしてくれんか?」
斧は鈍く赤黒く光りながら、“記憶を狩る者”に対峙する。
一方、AくんとBくんは図書室の隅で大パニック。
「音立てちゃダメなのに、斧って!!しかも喋ってるし!!」
「俺の雷、静音モードねぇぞ!?あんのか?あんのか?」
「あるわけないだろ落雷が!!」
Eくんは遠巻きに、戦うCちゃんを見つめながらつぶやく。
「……あの斧。“あのときの”巫女のものと同じ……?」
⸻
戦いの最中、“記憶を狩る者”がCちゃんをじっと見つめて言った。
《主ハ、未ダ完全ニ目覚メズ。巫女ノ魂ヨ、再ビ火ヲ灯ス前ニ……》
「……巫女? 何言ってんのさ、私はただのゲーマー女子だよ?」
その瞬間――
カルマくんが、斧としてではなく“記憶の鍵”としての力を発動する。
《今コソ、記憶ノ一端ヲ示サン》
斧の柄に刻まれた模様が浮かび上がり、Cちゃんの視界に、一瞬だけ別の風景が映る。
炎に包まれる神殿、ドラゴンたちの咆哮、白い衣をまとう自分――
「……っ、何……!? これ……誰……私?」
一瞬、意識が遠のきかけるが――Cちゃんはふらつきながらも言い返す。
「関係ないでしょ……! どこの誰か知らないけど、今の私は、あんたをここで叩き出すだけ!」
⸻
一閃――静かな図書室に、光の波が走る。
次の瞬間、“記憶を狩る者”は空間のひび割れと共に姿を消す。
静まり返る図書室。だが――
(……やっべ、書架1段まるっと消えてね?)
Aくんの冷や汗が滝のように流れる。
「片付けるぞォ……!目立たないように全力でェ!!」
⸻
一方Eくんは、誰にも聞こえないように、斧の残した光の残滓を見つめながらつぶやいた。
「やっぱり……あの斧は、“導きの記録”そのもの……本物の巫女は、彼女だ」
背後から聞こえる声。
「……なら、偽物は誰なんでしょうね?」
仮の巫女が、笑っていた。