実家みたいなもん
「というわけで――今日の目標は! ドラゴンの巣の最奥に眠る“真紅のたまご”をゲットすること!」
Cちゃんのボイスチャットが軽快に響く。
「おー! やるぞー!ドラゴンの中のドラゴン使い!雷鳴の申し子ボルトン様のお通りだー!」
「やかましい……」
Aくん(風竜アカツキ)はゲーム内のマントをひるがえしながら、ため息をついた。とはいえ内心、結構楽しみではあった。なんせ今回のイベント、“レッドドラゴン”絡みなのだ。
(俺らにとって、ほぼ里帰りみたいなもんだよな……)
Bくん(雷竜ボルトン)とCちゃん(プレイヤー名:Roze)は、すでにレイド開始テンション全開。
「ねえアカツキ、これさ、巣の構造とかめちゃくちゃ見覚えない?」
「ある。ていうか俺、ここで昼寝してた記憶ある」
「ボルトンは?」
「俺、あの崖から落ちて死んだ記憶ある」
「それただの事故じゃん」
⸻
三人は無数の敵をかいくぐりながら、巣の内部へと進む。
敵の名前:「ドラゴン信者のモヒカン」「ファイアチキン改」「燃えやすい村人(再現)」など。
「こいつら、俺らのせいで燃えた村の再現NPCじゃね?!」
「まさかの運営、前世再現でイジってきてる!?おい開発スタッフ絶対オタク!!」
「ファイアチキン改、攻撃のたびに『コケーーーッ!』って叫ぶのじわるんだけど!」
モンスターとの戦闘も、もはやギャグみたいなノリでこなしていく3人。
Aくんの風属性攻撃が敵を吹き飛ばせば、
Bくんの雷で敵がバリバリ感電して飛び上がる。
Cちゃんの攻撃は――謎の巨大な斧で地形ごと敵をなぎ倒す。
「ちょっと待てCちゃん、それドラゴン関係ないよね?」
「うん、私の武器、斧だし。やっぱ斧でしょ、浪漫だし」
「え、なんで斧……姫じゃなかったの……?」
「姫でも斧ぐらい振るでしょ?」
「振らねーよ!!」
⸻
ようやく最奥――“真紅のたまご”が眠る部屋にたどり着いた三人。
「ここか……俺の……いや、俺たちの、ふるさと……」
「いやいや、いきなり感傷入るなって。てかBGM急にエモくなったぞ。運営絶対狙ってるだろ」
「ていうかこのたまご……なんか、動いてない?」
ごごごごご――。
たまごが、割れた。
中から出てきたのは、真紅の鱗に包まれた、巨大なドラゴン。
【レジェンダリーボス:深紅の原初・ヴァルレグナ】
「おい、これ……俺らの“親”じゃね?」
「まじでパパドラゴン!?てか“原初”って、上司的なやつじゃね!?」
「え、あたし斧で通じる!?通じなくない!?てか何あれウロコがエフェクト出してる!?」
戦闘開始のアナウンスが流れる。
【戦闘開始:制限時間30分】
Bくんは叫んだ。
「やるしかねえ!俺たちはもう、討伐される側じゃない――!」
「そうだな!今度こそ、こっちのターンだ!」
「私は斧で殴る!!!」