Cちゃんの正体
「ねえ、あんたら……この前のアップデート、ドラゴンの巣の場所が増えたの知ってる? ――あそこ、前世でも見たことない?」
その一言に、空気が変わった。
AくんとBくんは顔を見合わせたまま固まる。Bくんはいつも通り笑ってるけど、口元が引きつっていた。Aくんは、ついに勇者側の刺客が来たと本気で思った。
「……Cちゃん、その話、冗談で言ってる?」
「んー? どうだろ。2人がマジっぽかったから、ちょっと踏み込んでみただけ」
小柄な身体に似合わぬ落ち着いた声。けどその目は、明らかに何かを知っていた。
「……もしかして、お前も“見えてる”のか」
Bくんが、低い声で言った。いつもの軽さは消えていた。
「“あの時代”の記憶、ちょっとずつ思い出してんだよね。雷でポフッてやって、燃え広がってさー……あれ、確かお前が隣の山だったよな?」
「そうだよ……俺は風で“ふわっ”てやったら、火が回って――」
「それで、討伐対象な。俺も。“人間に雷落とした”って決めつけられて、勇者どもに囲まれて。最期なんてさ、笑っちまうくらい漫画みたいだった」
Aくんの手が震えた。Bくんの話は、まるで自分の過去を語るようだった。
そして――
「つまり、あんたら2人とも、“レッドドラゴン”だったんだ?」
Cちゃんが口元をゆるめた。少しだけ勝ち誇ったように。
「じゃあ……君は?」
「私? あー、どうだろ。自分が何だったのかは正直、まだはっきりしない。ただ――」
Cちゃんの声が、静かに落ちた。
「少なくとも、あんたらを“討伐した側”だった可能性は、ある」
場の空気が一変する。さっきまで和やかだったファミレスの一角に、見えない緊張が走った。
「な……!」
AくんとBくんは、同時に椅子から少しだけ腰を浮かせる。Cちゃんは平然としていた。
「ただし、今は味方ってことにしといてあげる。ゲームで組むの、楽しいしね。私、結構あんたらのドラゴン操作、好きだよ?」
それは冗談のようでいて、冗談ではない空気だった。
「……あの巣のアップデート、あれ、ただのゲーム内仕様じゃないかもね」
Cちゃんはスマホを操作しながら、ぽつりとつぶやいた。
「……復活しようとしてる。あの時、倒された“原初のドラゴン”たちが」
「原初……?」
「そのうち、君たちの記憶ももっと戻ってくるかもね。私が誰だったのかも、どうして私たちが再会したのかも、全部」
Cちゃんは笑った。いたずらっぽく、けどどこか哀しげに。
「じゃ、次のレイド、楽しみにしてるね――“アカツキ”と“ボルトン”」
Cちゃんは去っていった。残された2人は、しばらく無言だった。
「……俺たち、また巻き込まれるのかな」
「でも……もしも、前みたいに“仲間”がいるなら、悪くないかもな」
Aくんは、ゆっくりと飲みかけの水を口に運んだ。Bくんもまた、笑った。
「なーんか、面白くなってきたな。ドラゴン、再起動ってか?」