いつまでも売れない多肉植物|心のぬくもり幻想舎
「おばあちゃん、これいつ売れるの?」
花屋を営む老婆に、少女は問いかけた。
「いつだろうねぇ」
他の花や草木は売れていくのにねぇ、とレジカウンターの席に腰かけたまま、ゆっくりと目を伏せる。
陽当たりのいい窓際の多肉植物たち。
並んでいるものは小さくてプチプチとしたものから、象の足のように奇妙なものまでさまざまだった。
「こんなに可愛いのに…」
綺麗に手入れされた白いレンガのポット。
寄せ植えではなく、シンプルに一種類だけが中央に植えられていて、赤くて小さな花を咲かせていた。
「こんにちは、マダム」
店内で話していると、常連の夫人が訪れる。
「今日は部屋で育てる多肉植物が欲しくって」
私はその言葉を聞いて、今だと思った。
「夫人、これなんて可愛くないですか?」
ちょうど花が咲いていて美しいの、と両手で差し出してみせた。
すると、夫人は嬉しそうな顔をしてみせたものの「その子はいらないわ」と答える。
「どうしてですか?こんなに素敵なのに…」
本当に誰にも買ってもらえないまま、この多肉植物はいつか枯れてしまうと思うととても悲しい気持ちになった。
「あぁ、そんなに悲しい顔をしないでレディ…少し、お耳を貸してもらえるかしら?」
「はい」
困ったように微笑む夫人に、言われるがまま耳を差し出す。
「そのグリーンサンローズはね、マダムのお気に入りなの。大切にされているのが伝わってくるから、きっと誰も買わないのよ」
私はその言葉がどこか腑に落ちた気がした。
確かに、みんな一度は手に取るけれど、必ずもとの窓際に戻すのだ。
そうか、そうだったんだ…
「どうか、わかってあげてね」
fin.
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こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
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大野