14五日目 後編
そういえば昨日は海辺で男二人は釣りをしていると音村さんが言っていたな。
まだ時間はあるし見に行ってみようか。
というわけで海辺までやってきた。
ただでさえ暑いのに照り返しもひどく余計に暑い。
砂浜の端は岩場になっているみたいでそこで釣りをしている谷川と大郷の二人を発見した。
二人は暇そうに釣り竿?というか太く頑丈そうな枝を岩場にさして海を眺めている。
「よう、釣れてるかい」
「翔琉か、今日はいまいちだな」
「まあ100㎏以上の超大物を狙ってるんだ。簡単にはいかないさ」
「100㎏以上!そんな大物狙っているのか。そんなの釣れるのか」
よく見たら釣り糸も糸というよりロープだ。
ウキもどこにあるか分からない。
こっちが違和感を感じていることのに気が付いたのか、道具について説明してくれた。
「狙いは超大物、普通の釣りではだめだ」
「てなわけで、頑丈な木にロープを括り付けて遠くに投げたのさ。
大郷ならかなり遠くまで飛ばせるからな」
ムンッと大郷が無駄なポージングをして眼鏡を光らせる。
たしかに大郷の筋肉ならかなり飛ばせそうだ。
「エサは漁師のおっさんにわけてもらったイワシ。
こいつに食いつくのはかなりの大物だけだぜ」
「なるほど?なるほど、さすがだな」
「だろ」
なんかよく分からないけど頷いておこう。
正直、これ無理じゃないかな。
「でも巨大マグロ釣れたらどうするんだ?」
「勿論、一匹目は食べる。メッチャ美味しいぞ。そん時は翔琉も呼んでやるから心配すんなよ」
「おう、ありがとう」
「二匹目は売る」
「そして俺たちは大金持ちっていう寸法よ」
凄いキラキラした二人の顔がまぶしい。釣れることに何の疑問も覚えていない。
無理だと思うがなんか行ける気もしてきた。
そんな感じでだらだら3人で話しているとロープがピンと張る。
大郷がむんずとロープをつかんだ。
「大郷!ロープだ。翔琉、竿一緒に支えてくれ!」
「おう!」
「分かった!」
大郷が勢いよくロープを手繰り寄せる。
俺は谷川と一緒に竿を固定する。
確かにすごい力だ。確実に何かがかかっている。
「慎重にやれよ!」
「分かっている!」
手繰るのもかなり苦労しているようだ。
ロープがどんどん積まれていく。
ていうかどこまで遠くに投げたんだ。
途中からは俺が竿を支え、谷川と大郷の二人で手繰ることになった。
それでもロープは行ったり来たり。
俺たちは時には大郷がポージングをとり、谷川が海に落ちながらも、お互い鼓舞しあって戦った。
竿を支えるのも割と普通にきつい。
「見えた!そこだあああああああ!!」
ドバアアアアアンン!!!
どれぐらいそうしていただろうか、しかしどんな物事にも終わりは来る。
大きな音、そして大郷の魂の叫びとともにロープを最後まで引き切った。
魚影が見えた!
釣ったんだ!俺たちは巨大な………。
巨大な何かがべちょりと岩肌に落ちた。
「巨大な…」
「タコじゃねえか!!」
そう、俺たちは巨大なタコを釣った。
全長2m以上はありそうだ。
タコは元気に海の中へ戻ろうとしている。
とりあえず持ってきていたらしいクーラーボックスに何とか押し込めた。
しばらくその場に座り込んで3人で海を眺める。
「まあタコでもいいか」
「そうだな」
谷川がぽつりとつぶやいた。
いや、そもそもマグロ釣れるつもりだったのか?と思ったが黙ってうなずく。
タコは今も元気にクーラーボックスから脱出しようとしている。
「絶対うまいぜ、これ」
「タコ焼きだ」
「大郷!なかなかグッドな案じゃねえか」
「ふっ」
「タコ焼きかあ、十年以上食べてないなあ」
「翔琉、お前食ったの赤ん坊のころが最後かよ」
「あ、いや、そうかな、そうかも」
こうしちゃいられねえ!と谷川が立ち上がった。
「明日はタコ焼きパーティーだ!昼過ぎに灯台に集合でいいな!」
「任せろ」
「翔琉も大丈夫か?」
「おっけーだ」
「じゃあ、今日は解散!明日絶対来いよな!!」
タコを持って谷川は走って帰っていった。
ほんとに元気だなあ。あいつびしょ濡れなんだけど。
疲れた…俺も帰るか、叔母さんに言っとかないと。
「翔琉」
「うぉ、大郷」
そんなことをぼうっと考えていたら大郷に声をかけられてびっくりした。
存在感あるようで言葉が少ないから唐突に気配が消えるんだよな。
顔を向けるとダブルバイセップスをとって汗でてかった筋肉を見せつける大郷がいた。
凄い筋肉だ、存在感があるのかないのか分からないな。
「今日は助かった」
「いや、俺も楽しかったから。タコ釣れてよかったな」
「そうだな、ではまた明日」
「ああ、また明日」
どうやら礼を言いたかったようだ。律儀な奴だ。
二人で釣り場をさっと片付ける。
大郷はロープと竿を持ってのしのしと歩き去っていった。
「俺も帰るか」
太陽が沈もうとしている。長い戦いだった。
海が夕日に照らされて綺麗だ。
疲れたけれど、充実した満足感に包まれながら帰路に就いた。
帰宅後、真千子叔母さんに明日のお昼はタコ焼きパーティーをするのでいらないと伝えた。
「へえ、タコ焼きか。紅ショウガが余っているから明日持っていきなさい」
「ありがとうございます!」
すると了承という返事と食材までもらってしまった。
というか、タコ以外の材料はどうなるんだろうか。
まあ、意気揚々と走っていった谷川に任せておけば大丈夫。たぶん。
一抹の不安を覚えつつも俺は眠りについたのであった。
次回タコ焼きの回。
この小説にはギャグが足りないとヘブバンのABコラボやってて思いました。
ほぼほぼABでした。
入江さんの事覚えてなかったけど楽しかったです。