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13五日目 前編

夏休み五日目、今日も晴れ晴れ暑い暑い。


じっとりとした汗の不快感とともに目が覚めた。

冷房も動いていて適温なんだけど。

なんか夢見が悪いのかな。

まあいいか、今日も一日頑張ろう。


てなわけで、サクッと水汲みを終わらせ食堂で朝ごはん。

そこで歴学者の娘、深塚八重(みづかやえ)が一人で食事をとっているところに遭遇した。

挨拶だけしてさっさと食べようとしたら手招きされたので正面に座る。


「おはよう翔琉(かける)。ちょうどいい時に来たじゃん。一緒に食べよう」

「おはよう。まあ、いいけど」


なんか怪しい。楽しく朝食を食べようって仲でもないと思うけど。

かといって、ここで断って文句言われるのも嫌だからな、素直に食べよう。


「そういえば伸太郎(しんたろう)さんは?」

「パパはさっさと食べて部屋に戻っちゃった。気になる文献見つけたんだって」

「へー、いただきまーす」


今日の朝食はザ・和って感じだな。

みそ汁に卵焼き、子持ちシシャモの塩焼き、かぼちゃの煮物、焼きのり、漬物。

そしてホカホカのごはん。うん、どれもおいしい。

焼きのりの袋には天ヶ谷旅館(あまがい)って印字されている。

こんな田舎の旅館でも印字されてるんだなあ。

なんてどうでも良いことを考えながら、朝食を食べる。


「あれ、八重は食べないのか」

「べつに、食べるけど」


前を見ると八重は半分ほどしか皿が空になっていない。

というか、子持ちシシャモと少量のごはん、漬物が残っている。


「シシャモ嫌いなのか」

「ちょっとは食べたし、なんか食感が無理」

「食感って一口も食べてないのに。このぷちぷちがおいしいんだ。食ってみろよ」


八重に見せつけるように子持ちシシャモを頬張る。

うまい!ごはんが進む。

こっちがシシャモを食べるところを八重は観察しているようだ。


「そういうの食わず嫌いっていうんだよ。八重もまだ子供だな」

「分かった。見てなさい」


少し挑発すると八重は覚悟を決めたのか口に入れた。

目をつむって咀嚼している。


「どうだ。うまいだろう」

「まずくはなかった。ふん!ご馳走様!」


屈折した返答をしながらも子持ちシシャモを含む残りの朝食を全部食べ、

八重は立ち上がって去っていった。

案外、子供っぽいところがあるんだな。いや、まだ子供か。

俺を呼んだのも子持ちシシャモがどういうものか食べているところを見たかっただけか。

ふう、それにしても今日の朝食もおいしかった。

風呂掃除も頑張ってやろう。


という感じで午前中はつつがなく終わった。午後からは何をしよう。


うーん、特にやることもないけど部屋に籠るのも不健康だから外に出るか。

ということでぶらつくことにした。最悪、灯台に行けば誰かいるだろう。

ちょっと前までは考えもしなかった思考だ。我ながらいい傾向だと思う。


そして、山のほうからぐるりと灯台に向かうことにした。

いつもの神社を通り過ぎてさらに進むと緩やかなくだりになってくる。

蝉の音はうるさいが、山で日陰になっているので涼しい。

そしてくだりの終点というあたりで人影がうずくまっているのを見つけた。

子供が虫でも観察しているのかとも思ったがどうやら違うようだ。

苦し気に胸を押さえている。急いで近寄る。

というかよく見たら帆風(ほかぜ)だ。


「おい大丈夫か、水だ、飲め」

「あー、うん」


ジャージに身を包んだ帆風が道の端でうずくまっている。

とりあえず水分補給させ、陰に移動する。


「ふぅ、助かったよー。坂を一気に下ったら立ち眩みしちゃってさ」

「熱中症の可能性があるな、しっかり休め」

「調子良かったんだけどなあ。ふぅ、助かったあ、ありがとう」

「って、立とうとするな。まだ顔色悪いぞ」


帆風は青白い顔で立ち上がろうとするので、慌てて座らせる。


「大丈夫だと思うんだけどなー」

「もう少し顔色戻してから言え。白い顔してるぞ」

「本当かな?」

「元気なら少し雑談でもしよう。なんで走ってたんだ?陸上部なのか」


さすがに調子が悪いのを放っておくのも寝覚めが悪い。

気をそらすために話しかけることにした。

帆風も仕方ないなあという感じで雑談に付き合ってくれるようだ。


「あー、ただ走るのが好きなのさ。特に下り坂を勢いよくビューンって行くのが好きなんだよ」

「まあ、気持ちは分かるけど」

「でしょ?部活だとフォームだとかタイムだとか好きに走らせてくれないからねー」

「その言い方だと、入ってはいたのか」

「ちょっとだけねー。そういう君こそ陸上部だったっけ?」


思わぬ切り返しが来て詰まってしまう。

陸上部、か。そういえばやっていたな。夏休みはいる前にやめたんだっけ。


「そうだな、陸上部だった。でもやめた」

「あれ、君もやめちゃったんだ?」

「特に理由はなかったはず、急に飽きた。弱小校だったしな」


そこでお互い黙ってしまう。どうやらこの話題はどちらにとっても良くないことのようだ。

実際、なんで辞めたんだろうと思い出そうとするといやな気持になる。

思い出さなくてもいいことなんだろう。


「ともあれさ、頑張ってたんじゃない、いい体してるしねえ」

「おい、触ろうとするんじゃない!」

「えー、けちんぼ」


話題を変えるように帆風が手をワキワキさせて体を触ろうとしてきた。

顔色もだいぶ良くなってきた。呼吸も安定しているしたぶん大丈夫だろう。


「あんまり無理するなよ」

「分かってるよ。今日はもう帰ることにするから。じゃあ、またねー」

「ああ、うん、気をつけろよー!!」


送ろうか、という前に帆風はスタっと立ち上がると走ってあっという間に去って行ってしまった。

その横顔は満面の笑顔だ、走るのが本当に好きなんだな。

あの調子なら大丈夫だろう、飄々としたやつだ。


俺はもう少し散策しようかな。

投稿したと思ったらできてなかった 謎ですね

あとがきなんか書いてたけど忘れました

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