~孤児院~
翌日―――・・・
お姫様が目を覚ますと、そこはベットの中でした。
レンガ造りの壁も、木製のレトロな棚や引き出しも、今自分が寝ているベットにも、お姫様は見覚えがありません。
しばらくしてから、ドアがコンコンとなりました。お姫様が「はい」と返事をすると、ゆっくりドアが開いて、見知らぬ女性が入ってきました。
「リーアさん・・・と言ったかしら。私の息子たちがお世話になっています」
女性は遠慮がちにそう言うと、カーテンを開けてから、
「もうすぐ息子が仕事から帰ってきますので」
と言い、それから会釈して部屋を出て行った。
おなかもすいてきたのでお姫様がベットから立ち上がり部屋を出ると、足元がヒヤっとしました。
ふと足元をみると、フローリングの床で、少し濡れていました。
真っ直ぐ続いている廊下は、ずっと濡れていました。
左右に並ぶドアは二つづつで、それぞれのドアノブに、人の名前らしきものが描かれたボードがぶら下がっていました。
名前の周りにはハートや星、波線などがカラフルに書かれており、どれも個性的です。
それから廊下を真っ直ぐすすむと目の前には階段、左右には短い廊下がありました。
廊下に並ぶドアは突き当たりに一つと、左右に二つでした。それは左右の廊下どちらも同じで、どのドアにもやっぱり名前の書かれたボードがぶら下がっていました。
お姫様が階段を下っていると、いい香りがしてきました。
「おやお姫様。もう平気なんですか?」
いい香りを追って広い部屋にでると、エトロフがエプロン姿で迎えてくれました。
周りを見渡すと、左右に長い廊下があり、正面にはドア。そのドアの先は、リビングだそうです。廊下を覗くと、左右に三つのドア、突き当たりにもう一つドア、というものでした。やはりどのドアにも名前の書かれたボードがぶら下がっています。
「エトロフ、料理をしているの?」
「いーえ、私は掃除を♪料理は母上がしていますよ」
エトロフの指差した方を見ると、エトロフと同じ髪・瞳の色を持った女性がエトロフと色違いのチェックのエプロンをして、鼻歌を歌いながら料理をしていました。
その女性はリーアに気づくと、振り返って、「まぁ、お早いのね!まだ朝食はできていないわよ」と元気に言いました。
「母上のコルディ・アーナです」とエトロフ。
「? エトロフと姓が違・・・」とお姫様。
「わたしは育ての親なのよ。エトロフの母様の妹!姉は身体が弱かったから、わたしが子育てをしたの」とコルディ。
コルディはその後、「さぁ朝食ができたわよ!リーアさん、運ぶのを手伝ってくださる?エトロフはみんなを連れてきて!」と言ってから、食器棚がたくさん並んだ方へと向かいました。
朝食をとる部屋に来て、お姫様は驚きました。
テーブルは細長いテーブルがいくつも並んでいるし、イスの数は三十個以上もあるのです。
それから、エトロフと一緒に帰ってきた子達にも驚きました。
大小さまざまな子供たちがズラズラと入ってきたのです。
そして、あっというまにたくさんあったイスはたった十個になってしまいました。
「リーアさん、さあ、座って!」
コルディは最後の料理を運びながら言いました。それから子供たちの真ん中にあいてるイスに座って、
「さあ、みんなぁ!!」
と子供たちに声をかけました。
「いただきまぁ~~っす」
子供たちは声をそろえて元気に言うと、それぞれの料理を口に運び始めました。
「すごい人数ね」
お姫様が言いました。エトロフは笑いながら、
「ここは孤児院だからね」
と言いました。
孤児院・・・
お姫様はお父様とのとある会話を思い出しました。
それは、いつものようにお父様が冒険の話をしてくれているトキでした。
「リーア、お前のように不自由なく暮らせる人が、世界にどれくらいいると思う?」
突然お父様に聞かれたお姫様は、少し考えてから、
「たくさん?」
と答えました。
お父様は少し暗い顔になって、
「・・・世界の人たちの1割ほどしか、こんな生活はできないんだよ」
と言いました。
当時まだ幼かったリーアは、ふうん。くらいにしか思いませんでした。
でも、今になって、お父様の言いたいことがわかってきました。
お姫様はとっても幸せ者で、世界の貧しい人々を救わなければならないということ。
それをお父様は言いたかったのです。
「リーアさん?」
突然コルディの顔が目の前に現れてびっくりしたお姫様は、イスと一緒に倒れてしまいました。
「いたぁ~・・・」
お姫様が腰のあたりをさすりながら起き上がると、コルディが涙目でごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝っていました。まわりの子供たちも、何だろう、と近づいてきます。
「コルディさん、私は大丈夫です。頭を上げてください」
コルディを何度も説得して頭を上げさせたリーアは、
「ところで、私の自己紹介まだですよね?」
とコルディにききました。
コルディはそういえば・・・とうなずいて、子供たちに集まってしゃがむように言いました。
「コホン・・・はじめまして、みなさん。私はアリーテ・ソフィア・リアルクローズと言います。でも、リーアと呼ばれています。みなさんも、リーアと呼んでください。えっと・・・私の住むところは、この村の近くの山を三つ越えたところにあります。んっとぉ・・・木登りとか得意なので、みなさん、一緒にやりましょう!・・・以上です。みなさん、よろしくお願いします」
そんなお姫様の長い自己紹介も、子供たちは熱心に聴いていました。
やがて朝食の片付けも終わると、リーアは早速子供たちに囲まれてしまいました。
「木登りしよ!!」
そう言った男の子は、右目に大きな傷がありました―――・・・。
第八話目ですね。
お姫様の過去とか、少しず~つですが、わかってきたんじゃないでしょうか。
今回、ガンジとヨシュアの出番、少ない、というか、なかった、というか・・・。
次話では活躍しますので、お楽しみに!!