~馬車~
この物語はフィクションです。
登場人物の名前や国・村の名前は現実と一切関係ありません。
それを頭の隅に置いて。。。
では、物語をお楽しみください^^
「さて……次はどうするの? ガンジ」
「はぁ? オレが知るかよそんなもん。エトロフとか知らねぇの?」
「いつも行き先はあなたが決めてましたよね。ヨ、シュ、ア、君♪」
「……姫君の考えを尊重すると言っただろう」
四人はあの孤児院の子供達との別れを惜しみながらも、新しい旅へと出ました。
今は、孤児院のある村『ベルーニャ』の隣の町『セイトア』に来ています。
「あ、そーだヒメサン」
ガンジが立ち止まってお姫様に話しかけました。少し先を歩いていたお姫様は、振り向いて、首を傾げました。
「今夜は野宿だぜ」
……その言葉の後、しばらくの沈黙があり、そしてお姫様が口を開きました。
「やったぁ♪」
この言葉には三人とも驚いて、エトロフなんかは腰を抜かして座り込んでしまったほどです。
お姫様はお姫様で三人のリアクションに驚き、「野宿は嫌なの? 三人とも、弱虫ねぇ」と言いました。元々木登りなどが得意だったお姫様は、お城でも五年ほど前まで羊飼いをしていた『ジョゼ』という青年|(当時十八歳)と侍女やお妃様の目を盗んでは野宿をし、また盗んでは山へ出かけ、またまた盗んでは町へ下りていたのです。
その話を聞いた三人は三人とも大きなため息をつきました。
「ほんと、このヒメサンは……」
ガンジなんて、そう言いながら「くっくっく」と笑い声をもらしていました。ヨシュアも後ろを向いて、腹を押さえ込んでいます。
「もぉっ、三人とも、失礼よっ!!!」
とにかくお姫様たちは、移動手段をどうするか考えました。
コルディからもらった食料など、荷物が最初より多くなり、ヨシュアが全部背負って飛ぶことができなくなってしまったのです。
「みんなでなるべく歩く?」
お姫様の提案に、ヨシュアは首をふりました。
「荷物が多すぎる。とても四人で持てる荷物の量ではない」
「馬車とかはネェのかよ」
ガンジが不満そうに言いました。
「馬車はともかく、馬を飼うお金はどうするんですか~?」
エトロフが残念そうに言いました。ガンジは「金かぁぁ」としゃがみこんでしまいました。
結局、酒場でお得な情報を仕入れてみることになり、お姫様はシンプルなミニドレスから、質素な住人のワンピースに着替えました。
「ヒメサン、さっきも言ったけど……、」
「わかってる! 私はリオ、ヨシュアはレン、エトロフはショー、ガンジはゲン、四人は義理の家族で、蒸発した母を捜して旅をしている、でしょ」
「……おお」
四人の名前は『お姫様』『獣三盗賊』として、ある程度有名です。
特にお姫様は今いる村のある国を治める者。目立たないはずがありません。
(ここからは偽名で進めます)
赤髪も目立たないようにひとつにまとめ、フードを被りました。無論、レンたちも同じです。ただ、ショーだけは全く別の少年に変身しました。
カランカラ~ン♪
酒場に入ると、お酒と煙草の臭いが四人を包み込みました。リオは思わず顔をしかめます。レンがカウンターにいるいかつい顔をした男に話しかけました。
「何か噂話などはあるか?」
ショー・ゲン・リオもゆっくり近づいていきます。カウンターの男は、
「噂ならレーゲンが知ってるぜ」
レーゲンとは、この酒場で働いている女性のことでした。ひとつにまとめた青色の髪はキラキラと輝いて、瞳の金色とよく合い、とても綺麗でした。スタイルもよく、四人は思わず見とれてしまいました。
「ジェイガン、呼んだ?」
レーゲンが近づいてきました。両手いっぱいにビールを持っています。
とりあえずカウンター席に四人が座り、レーゲンはお店の仕事をしながら話すことにしました。
「交通手段を探しているのかい?」
突然レーゲンに聞かれて、リオはびっくりしました。
「どうしてわかったんだ?」
レンが炭酸水を一口飲んで、そう言いました。
「アンタらの荷物ぁバカデカイ量だ。なのに店の前にゃ馬車やなんかは置いてねぇ。だったらまず、移動するときの荷物持ちを探すはずだろう?」
レーゲンは笑いながら説明しました。
ふいにリオの目の前にコップが置かれ、紫色の甘い香りの飲み物が淹れられました。
「これはなに?」
リオが聞くと、レーゲンは驚いた顔をし、
「あんた、葡萄のウィータも知らないのかい?」
と言いました。首をかしげているリオを見て、あわててショーは説明しました。
「この子はずっと継母に虐められて、外のものを見られなかったんだ。だから、そこの『ケイル』も知らないよっ」
葡萄のウィータとは、葡萄の果汁を煮て、砂糖と数種の種、エミルを混ぜたものを、更に発酵させたものです。でも、お酒ではありません。エミルは牛乳とピーナッツを混ぜたようなものなのですが、エミルの中にあるものが、発酵させたときにできるアルコールを甘い液にしてしまうのです。その液は『ケイル』と呼ばれ、美容にいいのでクッキーにしたり、パックにしたり、いろいろなことい使われています。
それをリオに説明すると、リオは驚いて、ケイルのクッキーを食べたい、と言いました。ショーはダメだと言いましたが、リオの悲しそうな、涙いっぱいの顔に負けて、結局百グラムをみんなで分けることにしました。
早速一個食べたリオは、嬉しそうにジャンプしました。口の中で割れたクッキーの中からケイルと蜂蜜を混ぜたものがとろりと出てきて、甘い香りが口の中をうめつくりました。
「ショー、美味しいねっ♪」
ショーも二、三枚食べて、「美味しい」と呟きました。
レンは最後まで「貴重な金貨を・・・」とブツブツ文句を言っていましたが、ショーが「いらないんですか~?」とからかうと、慌てて五枚、手に取りました。
三人はケイルのクッキーを食べ終わってから、完全に話が脱線していることにやっとのことで気がつきました。
「向かいの馬車屋に行ってみな、あそこにゃ活発な雌馬二頭がつながれた馬車があるよ。なんでも特別条件つきらしく、破格の値段で売ってんだとさ。詳しく知りたきゃ、ローズに聞きな」
三人がレーゲンの方を見ると、ゲンと会話をしていました。
ゲンはレーゲンに礼を言って席を立つと、
「んだよ、ボサっとしねえで、さっさと馬車屋行くぞ」
と三人に言いました。
「めずらしいよね、ゲンがまじめにやるなんて」
リオは笑いながら言いました。
お店は出ましたが、偽名は続けることにしました。フードも被ったままです。
「うるせぇなっ! オレはいっつもマジメだぜ?! っつーかオメエら、オレがマジメに噂聞きだしてる時、のんきに菓子食ってたろ!!」
ゲンは文句をたらしながら、向かいの馬車屋に入りました。
「らっしゃい! 何か用か?」
馬車屋に入ると、小柄な少年が奥から出てきた。
「あの、私達馬車を探しているのだけれど……、」
リオが少年に聞こうとすると、「こういうのは任せとけ」と呟いたゲンが少年と向かい合いました。
「……こう見ると、ゲンって結構小さいですね♪」
ショーがリオに小声で呟くと、リオは思わず笑ってしまいました。
「んだよ、うるせぇな」
ゲンが振り向き、文句を言いました。
「ちょっと、そこのゲンさんとやら。ウチに冷やかししにでも来たのかね」
少年が不機嫌そうにたっていると、奥からお婆さんが出てきました。
「いいえ、私達、ここに安い馬車があると聞いてやってきたんです」
リオが慌てて言いました。そしてゲンの頭を軽く叩き、
「向かいの酒場のレーゲンさんに聞きました。ローズさんを尋ねなさいとも言われました」
続けてリオがそう言うと、お婆さんは不機嫌そうだった顔はそのまま、
「レーゲンの紹介か。いいだろう、早速ローズのところに案内するよ」
と言いました。その声はとても低く、嗄れた声でしたが、どことなく温かいのを感じました。
お婆さんに案内されるまま奥へと進むと、太った女性が大きなソファに座っていました。
「ローズ、客だよ」
お婆さんが言うと、太った女性はよっこいしょと言いながら立ち上がりました。
「貴女がローズさん?」
リオが聞くと、太った女性は首をふり、さっきまで女性が座っていたソファを指差しました。赤色のワンピースを着た少女が長いカールした金髪を整えながら、こちらに歩いてきます。
「貴女がローズさんなの??」
リオは少女に尋ねました。少女は小柄だったので、リオはしゃがんで聞きました。
「watasigaroozuyo.anatahadaare? basyawokainikitano??」
ローズは早口でそう言いました。リオは言葉がわからなくて、ショーに助けを求めました。ショーはローズの前に立ち、話し始めました。
「bokutatiha,mukainosakabanoreegenniiwaretekokonikita.anatanotokoroniyasuibasyagaarutokiitekitannda.」
「sounano.yasuibasyatoieba,aresikanaitoomouwa.kotiranikite.dabun,anatatatinosagasiteirumonogawakaruwayo.」
二人は淡々と話を進めました。レンがそれを訳していきます。
「あの子はローズ。馬車を買いに来たのの聞いたので、ショーはレーゲンに安い馬車がある、ローズを訪ねろと言われた、と説明した。ローズはその馬車に心当たりがあり、案内してくれるようだ」
「ふーん」
何を言っているのかわからなかったリオも、それで納得です。
ローズは四人を手招きして、今いる部屋の更に奥の部屋へと案内してくれました。
ついに孤児院を出ることとした四人は、酒場で情報を探すことにしました。
そして、安い馬車の話を聞き、ローズと言う人物に出会う……。
果たして、安い馬車とはどんなものなんでしょう?
次話もお楽しみいに^ー^