~すれ違い~
この物語はフィクションです。名前などが同一の人物とも、一切関係ありません。
それを頭の隅において・・・
では、お姫様、ヨシュア、ガンジ、エトロフたち四人の物語をどうぞお楽しみください^^
エトロフとヨシュアが帰ってきてから、お姫様はガンジも含めて三人にこう尋ねました。
「もうそろそろココを出た方がいいんじゃないかしら?」
エトロフたち三人が昔お世話になっていてコルディさんが本当に迷惑がってないのも知っていますが、自分のせいでコルディは罪を犯しました。自分のせいでエヴィはすごく怖い思いをしました。
でも、誰にも相談できません。
お姫様は、一日でも一秒でも速くこの場所から逃げ出したかったのです。
ですが、三人は「まだいたい」と言うだけでした。
昔お世話になった人のそばにいたいという気持ちは、お姫様にもわかりました。昔お姫様のお世話をよくしてくれたソラフレットという人に一年ほど前再会したときは、お姫様もしばらくソラフレットのそばを離れなかったのですから。
でも、ガンジの推理の後、コルディは自白しました。
エヴィにも正直にコルディは自分の犯したことを話しました。
ガンジも、コルディを許しました。
もちろん、エヴィもコルディを許しました。
あの事件は終わったのです。
それでも・・・
お姫様は、自分がこの孤児院に来たこと・・・いえ、それ以前に、エトロフ・ガンジ・ヨシュアの三人と牢を脱出したこと自体を後悔していました。
今からでもお城に戻ろうか。
そう考えるほどでした。
そもそも、お姫様は脱出したいとは思っていました。でも、いままでに実行した脱出は可愛いものです。城の敷地内にある森の木を伝って少しだけ侍女たちを困らせ、気分がすんだら部屋に戻る。もしくは、侍女に見つかったら、おとなしく帰る。
でも今回は、違うのです。強行突破をしたのです。
色々な人が止める中、お姫様はヨシュアの手をとってしまったのです。
「なんであんなことをしちゃったんだろう・・・」
お姫様は小さく呟きました。
今頃、城の人たちは大騒ぎでしょう。王妃も頭をカンカンにしているに違いありません。城下町の人たちにも、多大な迷惑をかけているはずです。なんてったって、一国を時期治めるだろう人物が、城から消えたのですから。
「どうした」
ヨシュアがお姫様の座っているソファの向かいのソファに座りました。ヨシュアの後ろをぴったりとくっついて歩いていたエヴィは、紅茶を二つ、お姫様とヨシュアの二人の間にある小さなテーブルに置きました。そのエヴィの後ろにくっついて歩いていたジョーンが、クッキーがたくさん入ったお皿をテーブルの真ん中に置きました。満面の笑みを二人は浮かべ、玄関へと走っていきました。
「・・・私、ここにいていいのかな」
部屋をお姫様の部屋に移動してから、お姫様の口から出た言葉です。
お姫様は、そんなことを言うつもりはありませんでした。
三人の楽しい時間を奪いたくないという思いから、心の中にしまっておこうと考えていたのです。
「?」
ヨシュアは不思議そうに首を傾げました。紅茶を少し飲んでから、
「・・・どうしてそんなことを思うんだ?」
とお姫様に言いました。
お姫様もいまさら「なんでもないの! 冗談よ、じょ・う・だ・ん」なんて、言えません。しょうがないので、全部言うことにしました。
「私、お城を脱走しちゃったでしょう?」
「・・・ああ」
「お城のお姫様なのに・・・脱出なんて、しちゃだめだった、って、今更ながら、思うのよ」
ヨシュアは静かに紅茶を飲んでいましたが、お姫様がそう言った瞬間、バっと立ち上がって、
「本当、今更だな」
と言って、去っていってしまいました。
お姫様はしばらくボーっとしていましたが、それから、こう思いました。
正直に言ったのに。
正直に言ったのに、どうしてそんな怒った声なのよ。
どうしてそんな怖い顔なのよ。
・・・ああ、そうか。
ヨシュアは、私のことが嫌いなんだ。
過去をぐちぐち後悔する人は、嫌いなんだ・・・。
でも、しょうがないじゃない。
私は、一国の姫君なんだから―――。
お姫様は自分がどんどん黒くなっているのを心の奥ではわかっていました。
・・・でも、わからないのです。
ヨシュアが席をたってしばらくたったとき、ドアがコンコンとなりました。
お姫様は無理して明るい顔をして、明るい声で、「はーい。どうぞ」と答えました。
入ってきたのはエトロフでした。いつもののんきな顔ではなく、真剣な眼差しでお姫様の目をまっすぐ見つめています。お姫様は思わず顔を少しそらせてしまいました。
「ヨシュアとなにかおありですか?」
突然の問いに、ビクっとお姫様は震えました。
「・・・な・・・・・・」
「?」
お姫様は少し深呼吸をしてから、明るく言いました。
「なにもないよ?エトロフってば、心配性なんだから・・・」
しゃべっている途中、お姫様は自分の頬を伝って何かが零れ落ちたのを感じました。
「・・・・・・あれ?」
お姫様は自分の両側の頬を伝って流れ落ちるものが、わかりませんでした。
でも、それは、止まることなく、どんどん、どんどん、次から次へと流れていきました。
「・・・あ・・・悪いことを聞いたようですね。すいません・・・」
エトロフの動揺した姿を見て、やっとお姫様はわかりました。自分の両側を流れているのは、『涙』なのです。
・・・パタン。
エトロフは静かに部屋を出て行きました。
お姫様は、こうつぶやきました。
「・・・ごめんねぇ・・・。みんなに迷惑かけちゃって、ごめんねぇ・・・。私が・・・私が弱虫だから・・・私がもっと強ければ、みんなにそんな顔させないのにねぇ・・・ッッ」
うっく・・・ひっく・・・と、だんだん涙は増え、声まで出てしまいました。
子供たちに心配をかけてしまうのに。
こんな弱虫の証、早く止めたいのに。
でも、涙は増えるばかり。
次から次へとお姫様の紅い瞳から零れ落ちていきます。
「うぅ・・・うああぁぁぁん・・・!!!」
ついには大声で泣いてしまいました。
「いるかぁ? ヒメサンよぉ」
ドアの向こうから声がしました。
「ちょっ・・・ちょっと待ってて!」
お姫様は慌てて顔を洗い、涙が止まったのを確認してからドアを開けました。
「ガンジ! いらっしゃい」
「・・・邪魔するぜ」
部屋の中にガンジを招きいれ、小さめの木のテーブルにティーカップをふたつとポットをひとつ置きました。それと、クッキーも忘れずに。
「レモンティしかないの。ごめんね? このクッキーは、ジョーンたちが用意してくれたやつなんだけど、コルディさんとジョーンの手作りクッキーで―――」
「・・・」
お姫様は楽しく話していたつもりなのに、真剣な顔つきをしているガンジを見て、びくついてしまいました。
それから、お姫様の瞳には涙がゆっくりと浮かび上がっていきます。
「・・・っやぁっぱダメだなぁ、オレ」
ふいにガンジがため息をつきました。
「・・・?」
お姫様は目の涙をこすりながら首をかしげました。
「オレさぁ? こんなキタネェ卑怯な能力なもんだから、信頼できるヤツぁヨシュアとエトロフだけなんだよ。でもさぁ、あの二人ってスゲーじゃん? だからさ・・・オレ、時々情けなくなるんだよな」
ガンジのこんな情けない姿を見るのが初めてだったお姫様はただ黙って聞いていることしかできませんでした。
ガンジの能力は『素敵』とはいえません。
『盗み』ですからね。だって、宝箱の鍵なども開けるんですもの。
「・・・わたしは・・・」
お姫様は小さく言いました。まるで、独り言なんではないかと思う程小さく、ですが。
「でさぁ・・・。オレ、何ができんのかなって。ヒメサンが加わってから、改めて考えてみたんだよ。でもさ、ヒメサン、基本なんでもできんじゃん? 掃除はドヘタだけど、料理は一応できるし。木登りとかウメェから食料調達なんかもできんだろ?」
「・・・うん・・・でも、」
「オレぁ掃除も料理もエトロフにまかせっきりでサ。木登りはできっけどヨシュアは烏だから、木の上にもヒョイと行っちまう。・・・くっそっっ・・・」
ガンジは何か見えない大きな壁にぶち当たっている。
お姫様はそのように思いました。
「・・・そんでさ・・・最近、ヒメサン沈んでるから、せめて励ましだけでも~なんて思って、ここきたけど、やっぱり泣かせちまってさぁ・・・ほんと・・・すまねぇ・・・」
お姫様はその言葉に驚きました
(・・・え?!)
すれ違い、お楽しみいただけたでしょうか?
お姫様・ヨシュア・ガンジ・エトロフ・・・四人の想いがすれ違って・・・。
誤解
その二文字が四人の間を駆け巡ります。
では、次話、お楽しみに^^