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加茂波奏人短編集  作者: しず
3/3

用務員

夏ですから。

 その小学校には用務員がいない。

ただの一人も、学校周辺の清掃を行う人物はいない。

数年前は居たらしいが、契約満了とかで辞めた。

 なぜ新しい用務員を雇わないのか?

雇う必要が無いからだ。


 花壇に雑草は生えていない。

コンクリートに落ち葉はない。

グラウンド近くの水飲み場もトイレも、ホコリが溜まっているのを見たことがない。


 前日にどれだけ散らかしても、次の朝には全部なくなっている。


 定点カメラとか、録音機とかを置いておくと、前の日そのままになっている。

男子トイレの小便器の、壁の出っ張りのところにお菓子を置いておくと、次の日に袋だけがゴミ箱に捨ててある。


 不思議だが、特に害はないから、学校側は放っておいた。

生徒たちはそれを面白がって、時々誰もいない花壇のそばとか校門の前とかで挨拶する。

返事はないが、次の日に同じ場所を見ると、なぜかそこだけ一際綺麗に掃除されている。


 その現象の見られた年の6年生が、いつからか見えない用務員のことを畠山さん(前の用務員)と呼び始めた。

同時に、畠山さんは用務員を辞めたのではなく、事故で亡くなってしまったから居なくなった、彼はそのことに気づかず、今も幽霊として学校内を清掃しているのではないか。

そういう根も葉もない噂が立つようになった。


 そんな畠山さん。

学校の中でも、ある一箇所だけはなぜか掃除しない。


 今は使われていない、錆だらけの焼却炉。

これの周り1m位は、なぜか一切変化がない。

お菓子をおいてみても、そのまま次の日もお菓子はある。

 だからこの学校には、唯一校内清掃の他に焼却炉係があった。


 ある時、卒業間際の6年生が思いついた。

焼却炉から外を、カメラで撮ってみよう。


 ある一人の生徒が、その兄に頼み込んで定点カメラを設置してもらい、家から監視できるようにした。

仲の良い数人の同級生を呼び込んで、ノートパソコンのちいさな画面を夜通し見つめた。


 ほどなくして、何か黒い人形のものが、玉砂利の上を音もなく歩いてきた。

それは焼却炉の前を行ったり来たりして、しきりにしゃがみ込むと何かを口に運んでいる。

 画質が悪く、判別できなかったが、音で落ち葉を食べているのだとわかった。


 少年たちは恐怖に怯え、好奇心に目を見開いた。


 黒い影は画面右に消えたと思ったら、今度は左から現れる。

どうやら一体だけではないようだと、誰かが口にした。


 だんだん、数が多くなってきた。

焼却炉の掃除されていない領域から向こうは、ほとんど黒い塊になっている。


 すると、カメラの手前側、つまり映る映像の反対側から物音がした。

そこは焼却炉と、その背後にフェンス、学校の敷地を超えて茂みがある。

その茂みから音がしたのだ。

 やがて金網を登る音、何か重量のある物体が玉砂利を踏む音が順に聞こえた。


 鼠の鳴き声も聞き漏らすまいと耳を澄ましていた少年たちは、唐突の怒鳴り声に耳を塞ぐ。


 カメラの位置が悪く、声の主は映っていない。

ただ、その声質は畠山のそれに違いないと、場の誰もが息を呑んだ。


 畠山が大声で叫びながら、焼却炉に近づこうとする黒い塊を牽制している。

おおよそ人間というものがあんなに長時間、声を荒げる事が可能なのかと、子供をもって思わせる狂気だった。

その異常な状況は夜中の2時まで続いた。


 黒い塊が帰っていき、畠山は何か吐き捨てるように罵声を浴びせる。

少年たちは定点カメラの存在が気づかれないようにと、心からの祈りを飛ばした。


 結果、何事もなく翌日。


 眠い目をこすりながら登校した少年たちは、全校集会に集められた。

なんでも、学校の用務員に関する噂について話があるとのことだ。

怒ると怖いことで有名な体育教師が壇上に上がり、話を進める。


 ――――この学校に用務員が居ないことで、前の用務員さんに迷惑がかかるような噂があるという話を聞きました。

内容は伏せますが、心当たりのある子なら分かるでしょう。

 なので今日は、これ以上噂が広まらないよう、前の用務員さんを呼んできました。


 そう言って、舞台袖から出てきたのは紛うことなき畠山だった。

昨夜の狂騒を微塵も感じさせない朗らかな表情で挨拶をする畠山に、少年たちはやはりあれは畠山とは別のなにかだったのではないかと内心した。


 ――――それに何より、私がこうして無事なのですから、根も葉もない噂であることは明白であります。

私はまだ、ここの用務員にはなっていません。

どうも、加茂です。

ホラーといえば夏。

夏といえばホラー。

今回はそんな感じの話です。

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