最終回 進む先
「………じゃあ、行ってくるよ。」
そうだ、これは僕じゃなきゃいけないんだ。
「彩羅、絶対見つけてくるから。」
そう言って僕は服装もそのままに家を飛び出したのだった。
何も考えてないわけじゃない。心当たりはあった。いや、心当たりと言うか染羅のいそうな場所。きっとあそこにいるだろうなんてそんな願望にも近しいようなものだが行くほか僕には残されていない。
そうして僕は走った。きっと染羅がいるであろうあの場所まで。染羅が居なくなってようやく僕は気がついたんだ。大馬鹿野郎だよ、僕は。なんだよ僕は染羅と手を繋いでいたいんじゃないか。
どれほどの時間走ったか。それほど時間は経っていないはずだ。しかし空は嫌に曇っていた。
「はぁ、はぁ………ついた………。」
きっと染羅はここにいる。そうだ、お前はいつもここに居たよな。かくれんぼの時はいつもここだった。
「染羅、やっぱりここか。」
暗く閉鎖されたその空間の中にやはり彼女は居た。
「なんで………なんで雉矢なの!」
「………僕じゃなきゃいけないだろう。この役割は………帰ろう、染羅。」
「もう………構わないでよ。私も………限界だった。あの時から………。私よりも………彩羅のほうが好きなんでしょう?」
その声はすでに震えていた。
「いやそんなことはないさ。染羅が言ったんだろう?これは序列じゃないって。どこに居てほしいか、どうしていてほしいかの問題だって。僕は染羅にどうしていてほしいのか、それに気がついただけだよ。」
もうここでありのままを話そう。
「僕はあのとき、明確に走り出そうとする彩羅を思い浮かべてその手を取ったのを思い描いた。どこか………別のところへ行くんじゃないかって心配でさ。でも………今こうして話してて気がついた、僕は染羅の手を取らなきゃいけないんだって。染羅と手を繋いでたいんだって。」
「………本当?」
まぁ、怖いだろうな。家出の原因はきっと僕にあるんだ。そんなやつからの言葉なんてなかなか信用なんてできやしないのが普通だ。でも、僕も信じてもらうしか無い。
「本当だよ。僕は染羅の手を取らなきゃならなかったんだ。染羅の気持ちに気づいてあげなきゃならなかったんだ。今………それに気がついたよ。本当に遅くなってごめん。」
「そんな事………言われても、わかんないよ………本当のことなんて。」
「………じゃあ、あのときの約束を信じてくれよ。僕達3人の約束じゃない。僕と染羅だけの約束を。」
そうだ。僕たちは一緒なんだ。そう、あの日に約束したんだ。
「3人の約束じゃなくていいの………?」
「僕は別の約束って捉えてるから。だから染羅、おいで。」
そう言って僕は手を差し出した。ようやく染羅は立ち上がろうとする。しかし顔を隠そうとそっぽを向いてしまう。理由は分かってる。泣いているんだ。
「泣き顔は………見せないって決めてるのに………そもそもこんな涙………見せられないよ。」
「染羅………はい。」
「?」
僕は染羅を抱きしめる。染羅の顔が見えないように深く深く、ぎゅっと抱きしめる。いつだったかこの公園で染羅を抱きしめたのは。
「これなら僕は染羅の顔は見えない。いいよ泣いたって。大丈夫だよ。」
そうして染羅は静かに泣き出した。でもそれも限界だったのだろう。久々に聞いた、染羅の感情的なその声を僕は包むことしかできないでいた。
それでも良かったのだと僕は思っている。
それから、時間は過ぎてゆく。
「落ち着いたか?」
「………うん。ねぇ、雉矢?」
「どうした?」
「さっきの好きって本当だよね?」
「本当だよ。僕は染羅のことが好きだ………まぁ続きを言ってもいいなら言うけど………?」
「………いいよ。」
「染羅、僕と一緒に居てくれ。ずっと、側に居てくれ。」
「むー………こんなときに恥ずかしがらないで?」
「いや………それはそうなんだけど………なんて言うか、ずっと一緒に居てほしいんだ………いくつになっても。」
「それはもう、約束してるでしょう?」
からかったような口調で染羅は僕に言ってくる。
「あ、あぁ………えぇっと………付き合ってください。」
人生初の告白だった。全くこんなグダグダでいいのかよ………。
「もう、耳まで真っ赤だよ?」
「うるさいな………染羅もだよ。」
本当に、僕たちらしいと言えばらしいな。
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「彩羅、ただいま。見つけたよ。」
「染羅!」
僕には目もくれず染羅のもとへ一直線だった。ちゃんと妹の事を思ってるじゃないか。
「ごめんなさい………迷惑かけて………。」
「本当に………もうどこにも行かないでよね………私達は3人で一緒なんだから。」
「あぁ、僕達は3人で一緒なんだ。だから、おかえり。染羅。」
「おかえり。」
僕と彩羅は染羅にそう告げた。
「………ただいま。」
これでまた、3人一緒だ。でも今までとは違うものになるだろう。さてと………まぁ………彩羅は受け入れてくれることを知っているが………どうなるだろうか。
まぁ、僕は僕らしく成長したんじゃないだろうかな。
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いつも通りの週末だ。僕は一華の家で今日も勉強している。でも………そろそろ伝えなきゃいけないだろう。
「あのさ………一華。ずっと言えなかったこと。あのときの続き、言ってもいいかな?」
「うーん………最後の条件。絶対に、高校受かって。」
「………うん。」
きっと、一華はわかってるんだ。だから、僕も今は勉強に集中しなきゃいけない。そういう事なのだろう。
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その日、いつもと同じように虹姫は私の部屋にいた。私ももう、覚悟を決めなきゃいけないだろうな。
これを、話さなきゃな。
「ねぇ、虹姫。言いたいこと………言わなくちゃいけないことがある。」
「どうしたの?急に改まって?」
「いや………嫌われるかもしれないって思ってずっと言えなかったけど………言わなきゃならないから。私の………家族のことなんだけどね………。」
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その日、俺は廊下を歩く時鳥の姿を目にした。やっぱり苦手意識が残っているかもしれない。
「時鳥………。」
「何?」
聞こえてしまったらしいな………。
「いや………雉矢の事はもう諦めたのか?」
「流石に、彼女がいるんじゃね。どうしようもないよ。私にもいい人いないかな………?」
それを聞いて俺は少し考え、冗談でこう言う。
「………俺とか?」
「うーん………ぎりぎり無し。」
「無しなんかい。」
なんだろう、このくだらない会話は。
「「あはは(ふふふ)。」」
なんだろうかこの感じは………悪くはないかもな。
−−−−−3ヶ月後
「いやー………分かってるけど焼いちゃうな。」
「しょうがないだろ?僕は染羅にここに居てほしいんだから。」
おにぃと染羅ちゃんは今、手を繋いで登校している。それを羨ましそうに彩羅ちゃんは見ているがそれだけだった。特になにかしたりなどは無い。
「いやーやっぱり小鳥遊くん達もお熱いですね。」
「お前らには言われたくないよ。」
あの2人がおにぃが言ってた虹姫先輩と小鳥先輩だろう。聞いたとおり仲がものすごく良さそうだ。
「おう、3人ともおはよう。」
「おはよう…ございます。」
「あぁ、おはよ。」
「おやおや………光華、顔赤いぞ?」
「う、うるさいな!やっぱり恥ずかしいんだよ!」
あの2人が、一華先輩と光華くん………。
「お、皆おはよ。」
「おはよう。」
「あぁ、おはよう。」
あれが………夢七先輩と日向先輩………日向先輩本当に美人………。
と、言うかおにぃの周りってなんでこんなに春が到来してるんだか………私にもそのご利益があったっていいはずなのにな。
そんなことを思いながら私は、その校門をくぐる。あぁ、高校生活か………。
「どうした?緊張してるの?」
「逆におにぃは最初緊張しなかったの?」
「あぁ………してた。まぁ、なれるまでの辛抱だよ。」
「うーん………そうだけど………まぁ、先行ってて。」
「あいよ。」
そりゃあ、緊張するって………まぁ、きっと大丈夫だろうけど。
不意に誰かにぶつかられる。
「あ、ご、ごめんなさい。」
「いや、私も立ち止まっちゃってたし。大丈夫?」
「はい………そちらこそ、大丈夫ですか?」
そんな律儀な言葉遣いじゃなくてもいいのにな………なんて思いながら相手の方を振り返る。
「は、はい………。」
柄にもなく敬語を使ってしまったが………どうやら、私にも春風が吹いたようだ。
と言うことで半年間ほどお付き合いいただきありがとうございました。個人的に書きたいものはかけたのでそこまで心残りはありません。まぁ羽音に関する伏線については………続編を出そうか出すまいか未だ迷っている最中です。まぁ………感想次第です。取り敢えず雉矢と彩羅、染羅のお話はここで終わりとさせていただきます。
ありがとうございました。




