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第3話 擬態する小鳥

 特に待ちわびてもいない放課後。待ってなくてもやってくるものだ。いつもは楽しみな放課後。だが今日に限ってはできればやってきてほしくなかった。あの2人に呼び出しを食らった僕は言われた通り教室に残っていた。


 一体何用なんだか。あまり面倒なことじゃないといいのだが。とは言え、彼女らに関わってきたが大抵僕は被害を被っている。


 なかなかにトラウマ級のことをするのだからこのように表現せざるを得ない。さて、どうなることやら。


 それにしても遅いな。10分近く待っている。どこに行ったんだろうか?こんな手紙寄越してきておいて待たせる気か?いやでもあれだな………女子の群勢に押されて流されて行ってたから当然かもしれない。


 全くもう、文句でも言ってやろうか。改まって『小鳥遊くんへ』なんて書いてる癖してさ………内容もなんかマイルドだし『放課後教室で待っていてください』とか言う………普段の彼女らからしたらあんまり考えられないような………これってあの2人が書いたやつだよな?後ろから回ってきたし、それに仮に他の人から回ってきていた場合あの2人ってそのまま放置するのか?


 しそうにはないけど………。そう考えていると扉の方から気配を感じた。ようやく来たのか?その人影は1人だけ。どちらか片方というわけでもない。身長もあの2人より少し高い。


「本当に待っててくれたんだ。」


全く予想していなかった人物だ。名前は鳥塚 小鳥(とりつか ことり)。特に面識はないはずだ。話したこともないどころか僕は全くと言っていいほど彼女のことを把握してない。


「鳥塚さん?」


シンプルに驚いていた。まぁあの2人が来ると思っていたからな。正直動揺している。それと少し期待はずれなような気もしている。残念というわけではないはずだが、見当違いと言うか………。


「誰だと思ってた?」


「全く見当もつかなかった。」


まぁ実際嘘なのだが、あの2人と僕は初対面ということになっているため致し方なしというやつだ。


「あぁ、まぁそうだよね。本題入ってもいい?」


「あぁ、どうぞ。」


これは、まさかなのだがちゃんとした告白なのでは?そうなってくると初めてだな。仮にそうだったとして告白されるというのはどんな気分なんだろうか?純粋に知りたい。


「えっと………好きです………。」


………驚きだ。大してドキッともしない。何なら今朝の染羅の振る舞いだったり、昼の彩羅の恥ずかしがってる姿のほうがまだドキドキしていた。これはどういうことだ?僕があの2人のことを好きだとでも言うのか?そんなことがあるのか?あってたまるか。じゃあこの感覚は何だ?


「鳥塚さんは僕のどういうところが好きなの?ほら、僕たちそんなに面識があるわけでもないじゃん。でも鳥塚さんは僕のことを好きと言った。それは何で?」


「冷めること言うね。それは………そんなの理由、なんてどうだっていいじゃん!好きなんだから。」


「僕はそれがよくわかんない。理由はあるはずだと思ってる。少なくとも僕が知ってる人は理由があって人を好きになってる。鳥塚さんは理由なんて無いの?それとも自分でもわかんないの?」


「え、好きだから好きじゃ駄目なの?」


「生憎、不確定なものは苦手なんでね。自分でもわからないの?何で僕のことが好きなのか。僕が思うにだけど、それってまだ僕たちの関係性が弱いからじゃないの?」


「友達からってこと?」


「そう、まずお互いのこと知ろうよ。流石に僕もよく知らない人と付き合うのは怖いからさ。何が好みかもわかんない状態で付き合って失敗して………そんな嫌じゃん。だから、まず友達からで。合わないようであればそのままでいいわけだからさ。」


今述べたことは全部僕の持論だ。全部正直な気持ちである。これでどう返ってくるかだが。


「なかなか慎重なんだね。」


「そうやって決めたほうがいいからさ。」


「なるほど、じゃあ友達になってもいいですか?」


「あぁ、いいよ。お互い知ることからだからね。」


しかし謎だ。本当に何もなしに人のことを好きになるものなのだろうか?少しどもっていたような気もするが、真相はわからない。本人に聞く………いや、あの調子ならば答えてはくれないだろう。取り敢えず手紙の件は落着か。


「じゃ、帰ろっか。」


「う、うん。」


そうして、僕と鳥塚さんは生徒玄関へと向かった。しかし、まだ僕の仕事は終わってないらしい。迎えてくれたのは彩羅と染羅だった。待ち伏せとは卑怯な。というか………よくあの群勢から逃れられたものだ。


「あ…小鳥遊くん。遅かったね。」


ぎこちなく彩羅がそう言った。恐らくは、僕と彩羅、染羅で帰るつもりだったらしい。しかし、僕の横にいるイレギュラーな存在に対して動揺しているようだった。


 と言うか、困ったことができた。この状況、本当にどうしよう。鳥塚さんにはなんと伝えよう。彩羅と染羅にはなんと言おう。これ、僕はかなりピンチな状況なのではないだろうか?弁明すべきか?それとも本当のことを言ってもいいのではないか?いや、どっちも駄目だ。


「その人は?」


染羅がそのように聞いてきた。今朝のような冷淡さはないが、表情から不安が伺える。


「友達。ほら手紙回ってきたろ?その人。」


「はぁ。友達か………。」


「逆に鷹野さんたちは?小鳥遊くんのこと待ってるみたいなふうに言ってたけど。」


相も変わらず勘のいい人が多いようで。だからそれは困るんだが。うーん………転校生!


「そう、学校案内してって言われてたんだったな。」


「そうそう。それで遅かったから。」


「じゃあなんか迷惑なことしちゃったね。ごめん。」


「あぁ、全然大丈夫だから。」


なんとか躱せたな。良かった。


「校内の案内、私もいていい?」


鳥塚さんがそう聞いてきた。これ関してはこの2人の問題なのだが。僕は正直いてくれてもいい。そのほうが身の安全が確保されるから………。


「うんいいよ。染羅は?」


「私も大丈夫。」


「だってさ。いいよ。」


そうして、約束なんてしていない校内の案内が始まった。突然のハプニングのため仕方ない。でも彩羅も染羅も実際この学校のことは、よくわかっていないだろうからこれはこれで良かったのではないだろうか?まぁ何もないわけではないが………。


 それは案内の最中、階段に差し掛かったときの出来事だった。僕は、1階から紹介していたのだが2階へ行こうとしていたときのこと。


「ねぇねぇ次どこ?」


そう言って駆け出したのは言うまでもなく彩羅だった。階段の途中でこちらを振り返ってる。全く危ないことをするものだ。


「危ないぞ。」


僕がそう声をかけた。「分かってる」と声は聞こえたがその次の瞬間。ちょうど彩羅が踊り場に足をかけた時、だから危ないと言ったのに、彩羅は足を滑らせた。


 とっさに身体が動く。本能なんだろうな。受け止める体制を取る。そうして僕は降ってくる彩羅を受け止めたのだった。正直堪えた。


 と言うかどれだけ軽かろうが相手は同い年の健康的な女子。それが落ちてくるのだ。ダメージがない方がおかしい。その上、僕は痩せ型だ。ダメージはその分加算される。


 なんとか倒れはしなかった。僕は彩羅を抱き上げたような体制になっている。ここまで近いのは何年ぶりだろうか?


「だから危ないって言ったのに。本当、元気がありすぎる。」


「それが私の取り柄だからね。まぁ危なっかしいかもだけど、その時は守ってね?」


後半、僕にしか、聞こえないように耳元で囁かれたその台詞。吐息混じりの声は僕の心臓をはねさせるには十分な破壊力だった。しばらく僕が動きを止めてしまうほどには。


 不意打ちは本当にずるい。慣れているはずだった。でも成長した彩羅はどことなく大人っぽくもあり………なるほど、僕は今心を奪われているのだ。


「そろそろ、おろして?」


彩羅のその声で、僕は我を取り戻した。


「あぁ、ごめん。」


僕としたことが、これで今日何度目だろう?この姉妹にドキドキしてしまったのは。また僕はこの2人のペースに飲み込めれてしまうらしい。しかし、いつか決断する日は来るだろう。遅かれ早かれ、きっといつか。


『はい、これでおあいこ。今朝の分帳消しね。』


『………む………先手取ったと思ったのに。』


そんな会話が僕の知らないところで起こっていた。無論その声は鳥塚さんにも聞こえていない。まだ僕がこれを知るのはもう少し先になるだろう。それにしても、このドキドキ感………嫌いじゃない。

鳥塚さんのモデルはイルカチドリです。石に擬態する鳥です。

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