第27話 白と黒と虹色と
段々と気温も上がってきた。もうすぐ夏到来といったところだろうか?
そんな中でも僕は相変わらずいつもの2人一緒に居た。正確にはそこにプラス1人居るのだが。
「で、なんで夢七も居るんだ?」
「いちゃ駄目なのかよ?」
「駄目ってことはないけどさ………この状況でよく気まずくないな。」
僕の両側には彩羅と染羅の2人がいる。普通気まずいと思うはずなのだが………。まぁ、らしいといえばらしい。
「すぐ離れるからちょっと相談乗ってくれよ…?」
「恋愛系統ならNGだぞ?」
「………なんでわかるんだよ?」
「わかるに決まってんだろ。」
裏で烏丸さんやら朱雀さんの話を聞いたなんて………多分まだ言わないほうがいいだろう。
しかしまぁこの話。なんとなく面倒なことになる予感がしている。
「なんで当てられたかわかんないけど、話くらい聞いてくれよ…?」
「どうせ、朱雀さんに告るにはどうしたらいいか?とかそんなことだろ?」
「なんでそんなところまでわかるんだよ!」
「お前が分かり易すぎるのがいけない。」
あくまで夢七のせいである。現に、行動からしてかなりわかり易かった。
「そんなにか?」
「うーん………お前には愚直の言葉がよく似合うよ。」
「馬鹿にしてないか?」
「小馬鹿にしてるんだ。」
いつものノリで適当に返し、そうして続ける。
「で、ここからは真面目な話。朱雀さんとお前は多分だけど付き合えないよ。」
そう言うとやっぱりあからさまにムッとした顔になった。
「なんでそんなことが言えるんだよ…?」
「いいや、ただの勘だよ。友達くらいの距離感が丁度いいって………わかってるんじゃないか?」
そこまで問いかけると夢七は黙り込んだ。やっぱりある程度わかっていたようだ。でもわかっているからと言って止められはしないだろう。
あと1つ。決定打がなければ止まらない。
「わかってるけどよ………どうしようもないんだよ。やっぱり虹姫のことが好きなんだよ。」
「そこまで言うなら、友達として最上級の贈り言葉をかけてやるよ。玉砕されて来い。そんでもって幼馴染揃って仲良くやってろ。」
「………聞いたんだな。」
「烏丸さんからちょっとな。」
「そうか………そういうことか。」
きっと何か合点の行くところがあったのだろう。そうしてしばらくの間そのままの沈黙状態が続いた。
「まぁ………ちゃんとケジメはつけるか。」
ようやく判断が付いたようである。今まで何も動きがなかったこの事態はようやく動こうとしている。
「あぁ、もとには戻んないかもだけどきっといい方向に進むよ。」
そうして僕は、夢七の背中を押したのだった。
「なんの話?」
彩羅の声。見てみると染羅も不思議そうな顔をしている。
そう言えば、彩羅と染羅には今回のことを詳しく話してなかったような気がする。
「まぁあれだ………ざっくり言うと疎遠になった幼馴染たちの仲直りみたいなもんだよ。」
「………雉矢、それあんまり説明になってない。」
染羅にそんなツッコミを入れられるも僕は気にせず返す。
「ちょっと色々あったんだよ。」
ちょっと色々ありすぎたといったほうがいいような気もするが………まぁ、これでいいのだろう。多分これでこの件は一件落着となるだろうな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
放課後。俺は、友達からの最上級の励ましを受けその人のもとへと向かう。誰も居ない、正確には俺とその人の2人きり。
ここまで来てうだうだとしていられもしないので本題を切り出す。
「虹姫………俺やっぱり虹姫のことが好きだ。」
その人にその言葉を投げかけた。表情は一向に変わらない。やっぱり最初から知られてたのだろう。そうして、その返事は俺へと届く。
「知ってたよ。最初から。」
そのまま、彼女は語りだした。
「今回の件、最初から私は全部知ってた。夢七が私のこと好きなのも、一華が夢七のこと好きなのも。」
そんなことまで知られていたとは………やっぱり叶わないとつくづく思う。
「でも、その時の私はいい人で居たかった。誰からも嫌われたくなかった。いい人で居続けた。まぁ、その結果クラスの大半から嫌われてるんだから笑っちゃうよね。」
自嘲気味に笑って彼女は続ける。
「最近、ようやく気がついた。私は私のままでいいって。ある人が教えてくれた。その人の前だと私は………今まで通りにいていいんだってそう思える。」
あぁ………他に好きな人ができたと………そういうことなのだろう。
「それで………この前、一華と話し合いをしたんだ。仲直りして、また4人で一緒に居ようって。だからさ、私は夢七を振る。」
その言葉まで、淡々と告げられた。しかし、いつぶりだろう。虹姫のその目は、どこか懐かしいあのときの瞳だった。
「あぁ………俺ってやっぱり振られるのな。」
「やっぱり?わかってたの?」
「雉矢から聞いたんだよ。色々とな。」
「………小鳥遊君か………なんだかんだ私も影響されてるのかな………?」
「まぁ、あいつはなんとなく不思議なところはあるからな。何を考えてるのかはわからん。」
「夢七もか………私もわかんないんだよね。小鳥遊君って。」
雉矢は………いったい俺に何をさせたかったんだろうか?本人に聞いてみなくちゃわからないだろうが………わざわざ聞くほどのことでもないな。
「さてと………これでとりあえず………仲直りなのかな?」
「まだに決まってるでしょ?一華はどうするの?」
呆れた声で虹姫に言われた。そう言えばそうだ。
「………謝るのもなんかおかしいけど、とりあえず謝っておく。」
「そうか、まぁ夢七らしいか。だってさ一華、どうする?」
あぁ………昼休憩に約束を取り付けたからたしかに時間はあったな………と、言うかここまで読まれてたのか。
「まぁ謝るっていうのであれば許す。」
「………ありがとう。」
ぎこちなく、返事をした。これで、俺たちはまた4人一緒ってことだ。もっとも、この場に光華は居ないが。それでも………一緒なのだ。
「まぁ、これでようやく私もスッキリしたよ。じゃあ私は人待たせてるから、先行くね。」
そう言って虹姫は先に行ってしまった。残されたのは俺と一華の2人だけ。どことなく気まずい雰囲気だ。
「確かに………許すとは言った。」
静寂を破ったのは一華の方だった。そのまま彼女ば続ける。
「許すとは言ったけど………これだけは直接言わせて。」
そう言って俺に歩み寄ってくる一華。確実に狭まる距離。そうして、彼女は俺の2、3歩前に立つとその言葉を発する。
「馬鹿野郎!」
その言葉は拳とともに飛んできた。でも、痛くはない。当たり前だが本気じゃないみたいだ。
「痛いよ。馬鹿。」
変な話、このとき俺たち2人は何故か笑っていた。そうしてなんとなく清々しい気持ちでもあった。
「痛くないだろ、馬鹿。」
「………あぁ…ごめんな。」
「許すから、帰ろっか?」
「あぁ…帰ろう。」
そうして俺達は、いつかと同じような帰り道を楽しんだ。何にも縛られていない、懐かしい感覚。
まぁ、振られたのが堪えてないという訳ではないが、それでも俺はこの関係性のほうが楽しいのではないかと感じてしまう。
「やっぱり………何も変わらないほうが良かったんだな。」
「正確にはちょっと違う。皆ちょっとづつ前に進んでるんだよ。その中で、もう1度こうしてあるける日が来た。それが正しいんじゃないかな。」
「なんというか………成長したな。」
「私だって成長するよ。ゆっくりだけどね。でも確実に進んでる。それでいて、後悔はないからこれでいいんじゃないかなって。」
「もう、俺のことは好きじゃないの?」
「あぁ………ちょっと色々あって。」
「え?」
他に好きな人ができたということだろうか?
「まぁ強いて言うのであれば、光華も成長したって話だよ。」
「………マジ!?」
どうも………皆成長しているんだなと、そう感じる1日であった。




