第22話 僕にとって貴女は光り輝く華
ゴールデンウィーク。嫌になる。何もかも、無駄に過ぎていく時間が。キッチリとけじめも付けられずにだらだらと過ごすこの時は僕にとって不愉快極まりないものだ。行動を起こさないといけないのはわかってる。いつまでも守られるだけじゃいけない。僕だって男だ…だから、そろそろ行かなければならないんじゃないだろうか。
「光華、どしたの?そんなに切羽詰まった顔して。誰かさんに告白する勇気でも出た?」
「う、うるさい!」
僕には苦手なものが3つある。1つ、人にからかわれる事。2つ、妙に勘がいい人。3つ、好きな人。この内2つを兼ね備えている僕の姉は本当に苦手だ。僕のことをからかいつつ基本姉の予想はあっている。
「やっぱり、図星だね。まぁ頑張りなよ?」
「あぁ!うるさい!」
そう言って僕は姉を怒鳴りつけた。それでも軽く笑われどこかへ行ってしまった。何もかもが思い通りにならない。もどかしい。全部手のひらで転がされているような感覚で本当にもう………。だから苦手なのだ。行き場のないこのなんとも言えぬ感情をいつまでも提げるわけにも行かない。切り替えというのは大事だ。気にせず行こう。そうして僕は目的の人のもとへと出掛けた。先に言うと僕は今、正常な判断ができていない。
あの人の家の目の前まで来た。先程言ったとおり、僕は正常な判断ができていない。それ即ち今この場にいる僕は丸腰ということを意味する。妙案?思いついたらとっくの昔にやっている。何もない、つまりノープランと言うこと。正面から行くつもりだ。ここ最近僕はかなり一華さんと話してきた。気持ちにも寄り添ったつもりだ。このタイミングで…行くほかあるまい。意を決しチャイムを鳴らす。暫くして扉が開く。そこには、ここ最近よく見てきた顔があった。もう、諦めているのだと解る元気のない目があった。
「良かったの?せっかくのゴールデンウィークも家に来て。ここに居るのは燃えカスだよ…?」
部屋へと通され開口一番彼女が放ったのはそれだった。
「燃えカスなんかじゃないよ…一華さんは頑張っているじゃん。」
「そうだね…そうだといいんだけどね。」
どうにも、立ち直れていない。その事は外観からも見て取れる。その後、気まずい沈黙。何分経ったか、僕が喋りだす。
「…一華さんは、僕にとって光です。」
急に自分でもわけのわからないことを喋りだした。考えなど勿論まとまっていない。そんな中でも勝手な語り部は止まらない。
「小さい時からです…2つ離れた年、臆病な性格、4人の中でも圧倒的に弱かった僕を気にかけてくれていたのは一華さんです。小学生になっても僕の面倒を見てくれていたりした。そのことが身にしみて感謝できるようになったのは………一華さんと離れてからです。僕は…僕は………一華さんのことが―――――。」
「ストップ。」
僕の言葉は、いつも聞き慣れたその声で静止させられた。
「解ってはいたよ。光華は解りやすいから。でも、今は駄目。多分光華の欲しがっている答えは私からは出ないからね。」
やっぱり…そうだよな。僕が早すぎたんだ。解ってはいた。こうなることなんて。今、僕はあからさまにショックを受けている。どんなに鈍感な人が見てもわかるだろう。
「だからさ、その続きはまた今度聞かせて?」
「はい…?」
言っている意味がわからなかった。続き………。
「光華は今日、私を元気づけるためにここに来た。それだけ。今日は、それだけ。いいね?」
「は、はい。」
僕は、そう諭された。どういう意味なのだろうか。勝手に解釈してもいいのなら、「いつか振り向かせてみな。」と言うことなのだろうか。今のところ、そういう事にしておこう。
「ありがとね、なんか元気出てきたよ。」
その声に、瞳に、偽りの無いことは僕にはわかっている。ずっと見てきたから。
「元気、出てきたなら良かった。」
「それで、このあとどうするの?」
「このあと………?」
そう、今日僕はノープランでここにいる。この先のことは何も考えてなかった。と、言うか頭が回らなかった。玉砕されるか付き合うかの2択しか頭になかった。いや、考えつくことができる人は居るのだろうか?
「やっぱり決めてないんだ。告白して玉砕されるか付き合うかの2択しか頭になかったって感じかな。」
なぜわかったのだろう…手のひらの上で転がされているようなこの気持ち。どこかデジャブを感じながら少し顔を隠す。何もかも見通されているようで恥ずかしい
「あ、図星なんだ。」
今朝、似たようなことを経験した。僕には苦手なものが3つある。3つ全て兼ね備えたこの人の前では僕は無力なのだ。ただ、恥ずかしがって顔を隠すくらいしかできない。
「いいよ?もうしばらくはうちに居ても。私は気にしないから。」
「気にするのは僕の方だよ………もう、格好つけようと思ったのに………これじゃ、いつもと同じじゃん………。」
「いつもどおりでもいいんじゃない?そんな急がなくてもいいよ。私も、ゆっくり前に進むからさ、光華もゆっくり前に進んでよ。」
どこか、自分に言い聞かせているところもあるのだろう。その目は前よりも、決意を決めたような目をしていた。後戻りはできない。良くも悪くも僕たちは前に進んでしまったのだから。進むしかないのだから。
「僕も、一華さんについていくよ。頑張って。」
「頑張らなくてもついてこれるでしょ?あと、一華でいい。昔はそうだった。また近づいてきたんだから、ここで距離なんて取らないでよ?」
「うん………一華…。」
久々のその呼び方は、僕の顔を赤く染める要因になった。
「もう、本当に恥ずかしがり屋なんだから。やっぱり今のままでもいいかも。そっちのほうが、なんか安心かも。」
「見下してます………?」
ジトッと彼女の方をみる。するとバレたか、みたいな表情をされた。どうにも、彼女は自分と同じ目線の相手がほしいらしい。きっと、僕じゃあわからない葛藤があったのだ。結果、僕のこの行動が彼女にどう影響するのかはまだわからない。きっといつか、一華を振り向かせてみせる。そう、心に決めた。僕なりのけじめはこれでつけたつもりだ。いや、正確にはつけ始めた。ちゃんと僕の今までにけりをつけることができるのはまだまだ先だろうがそれでもいい。つっかえていたものが少し和らいだ。そんな感じだ。
「まぁ、待ってる。多分ずっと。今じゃないのはごめんね?」
「待っててください。そうして、絶対後悔だけはさせません。」
「言ってくれるね。失恋した乙女を救ってくれよ?」
「…なんかそう言われると、恥ずかしい………。でも、わかってます。」
奇妙だ。この関係性は本当に奇妙だ。恋人には程遠い。友達にしては近すぎる。親友にしては格好つけたくなり、幼馴染にしては頼られたくなる。どうにも、今まで聞いたことがない。僕は、一華のことが好きだ。どうしようもないくらいに。自分でも、自分はおかしいと自覚できるくらいに。僕は、頑張らなきゃいけないみたいだ。でも、全く苦しくはない。
その後、僕はしばらく一華の家に居た。特になにかするわけでもなく考え事をするでもなく、ただ一華と座っていた。向き合ってではなく背中合わせみたいに。そうして、沈黙が流れていくのを感じていた。目線だけを動かしてあたりを見回し何をするでもなく少し目を瞑る。なにも聞こえない静かな部屋。ただ、2人の落ち着いた息遣いが聞こえる。一華の…匂いがした。意識して鼓動は早くなる。やっぱり、惚れ込んでしまったようだ。




