第20話 滞
何もかもが停滞している。もう、4月も終盤だと言うのに何一つ解決しちゃいない。まぁ、まだ4月と言うべきか………ともかくもう少し長引きそうである。僕にだって悩み事があるっていうのに。まぁ、自分でやるって決めたんだからしょうがない。一旦整理しようじゃないか。まず、烏丸さん。未だ落ち込んでいるようだ。本人はなるべく元気なように振る舞っているようだが、無理をしているのがよくわかる。そうして、鳥塚さんと朱雀さん。現在、協力して烏丸さんを元気づけようとしているが………まぁ結果は先程のとおりだ。続いて彩羅と染羅。いつも通りに僕を振り回している。脳天気な奴らだよ。まぁらしいといえばらしいが………最近は全く時間を避けてないような気がする。ここも時期に問題になるな………いかんせん他が厄介すぎる。しかしここまで関わってしまった身。最後までやらねばけじめがつかない。さて、大体把握し直した。
「よし………学校行こ。」
そうして僕は、ベッドから起き上がった。その後は特に何事も………なかったら良かったのだがやはりと言うべきか、当たり前と言うべきか何も解決していない以上、問題というものはつきまとってくるものである。
「小鳥遊さん………。」
いつもの聞き慣れた声だ。今日も彼女は僕のところに相談をしにきていた。最近はもっぱら愚痴のほうが多いような気がする。と、言うかいつも似たようなことばかりだった。これから自分はどうしたらいいのかとか、どうやってこの気持ちを紛らわせばいいのかとかそんなことばかりだ。しかし、今回場アリはどうも違うようであった。
「どうした?今日も愚痴か?」
「まぁ、そんなところなんですけどね。なんか最近思い始めたんです。私って、いる意味あるのかなって。」
「は?」
「だって、私は誰からも求められてないじゃないですか?じゃあ、居なくても同じなんじゃないかなって。」
「はぁ………お前の中で、好きっていうのは自己顕示欲を満たしてくれる人のことなのか?それだけの存在なのか?僕は前君が言っていたことを覚えてるぞ?」
ドキドキするけど、一緒に居て落ち着ける。それが、彼女が前に言っていた「好き」についてである。
「………そう………ですね。なんでだろうな。どこかで間違えたのかな………?」
「多分、間違っては居ない。きっと、失恋なんてそんなものなんだよ。それに、烏丸さんがここにいる意味はきっとある。きっと、誰かが求めてるはずだよ。」
特に根拠はないが。そんなことを口走った。場合によっては酷いと捉えられるかもしれない。ただ、少しでも前を向いてほしい。その一心だった。
「そう………ですか。そうならいいんですけどね。ありがとうございます。じゃあ、今日はこれで。」
「………間違っても、死のうなんて思うなよ?」
「流石に怖いから嫌だよ。」
「そうなら、いいんだけど………。」
失恋っていうのはここまで人を落ち込ませるようなものなのか。どうも………心配でならない。
次の日も、その次の日も………僕は烏丸さんの愚痴に付き合った。鳥塚さん、朱雀さんとも情報共有をしつつそれなりにできることはやった。しかし………自体は一向に良くなる気配はなく。当たり前だろう。当の本人たちがお互いを避けているのだから根本な解決になるわけがない。かと言って、今の状態のまま向き合わせたところで何も起こらないだろう。きっと、何も話せないまま終わる。そうして一週間が経過した。今日も今日とて僕は烏丸さんの愚痴を聞いていた。内容には変化なし。こんなにも引きずっていると、こちらとしても「早いところ忘れろ」だの「また次を探せ」だの言いたくなる。実際、アドバイス自体はこれが一番適切だろう。しかし、本人が実行しなければそのアドバイスも意味がない。
「………分かってるんだよ。いつもおんなじ事言ってるっていうのは。………でもさ、吐き出しきれないんだよ。どうやっても心の中に何かつっかえてるような感じでさ………無理なことっていうのは分かってる。でもさ、どうしたらいいのか………教えてよ………。」
「………一番いい方法は忘れることだよ。」
「………分かってる。分かってるけど………できないよ。」
「やっぱり。でも、どうにかしたいんじゃないの?他にも、色々あるけどさ。一番楽なのは逃げること。最善なのは向き合うこと………。」
「………向き合えるんであれば向き合いたい。逃げれるんであれば逃げたいし忘れられるのであれば………忘れたい。」
「まぁ、そうだよな………。できないから困ってるんだよな。でも、僕も話しに乗るくらいしかできない。最後、行動するのは全部烏丸さんだから………。こんな事しか言えなくてごめん………。」
「そうだよね。最後に決めるのは私だもんね。なんていうか………そろそろ、動かなきゃな。」
「あぁ。できる限りな。」
そうして、その日の話し合いは終了した。何か得られたのかはわからない。いつもと同じなのかもしれない。それでも何もないよりかは良かったのだはないだろうか?僕は何も出来ない。彼女の行動を制限する権利なんて持ち合わせてない。しかし、言葉をかけることはできる。その中で、僕は最善を尽くしたのではないだろうか?案外こういうのは自己満足だったりするから一概には言えない。しかし、僕の中ではなかなかに良い答えを導き出せたと思っている。あとは、彼女次第だ。これで僕の日常は戻るのか、全てが元通りなのか?おそらくもとには戻らない。良くも悪くもみんな前に進んでしまったからだ。
「じゃあ、僕は?」
教室での独り言。その声は他の誰かに届くでもなく静かな教室に滞留するでもなく僕自身に届いた。僕はどうなのだろう?答えは出たのか?いや、出てない。前に進んだのか?いや、どこにも進んでない。強いて言えば僕は逃げた。烏丸さんはこんな奴が相談相手で本当に良かったのか。良くも悪くも前に進ませた………そう捉えておくことにする。本当に………どうしようもない奴だ。僕なりの答えを見つけることができるのはまだまだ先のようだ。僕が答えを見つけることのできる日は本当にくるのだろうか?
「少なくとも来そうには無いよな………。」
今度は、僕のその声を聞き取る者がいた。
「雉矢?どうしたの?」
いつもの聞き覚えのある声だった。
「彩羅か。いや………ちょっと考え事。」
「考え事か………私が相談乗ってあげようか?」
「いや………1人じゃないと意味ない気がするからいいや。」
「へぇ………まだ悩んでんの?私か、染羅か。」
「………うん。」
「きっといつか、嫌でも選ばなきゃいけない日が来る。その時、雉矢は何が何でも答えを出さなきゃいけない。その時まで何も考えず………とまでは流石に駄目だけどあんまり深く考え込まないでよ?私達が悩みの種みたいじゃん?」
「あ、あぁ。悪かった。あんまり考え込まないようにする………。」
「やっぱり雉矢は優しいからね。そういうと思ってた。」
「え?」
「わかんなくて結構。わかっちゃったら言葉の意味がなくなっちゃうからね。でもやっぱり優しすぎるんだよね………もう少し自分に正直でいいと思うけど?」
「十分過ぎるくらいには正直だと思っていたんだけど………。」
「まぁ………気付かないほうが良かったりするのかもね。」
「どうゆうこと?」
「だから、わかんなくていいって。」
「そ、そうか………。」
自分にもっと正直に、というのが伝えたかったのだろうか?彩羅はたまにわからないときがある。でも、元気付けてくれてる事は分かる。優しいことは分かる。少なくとも、僕よりも。




