第2話 こういう場合助け舟を出すべきなのだろうか?
彼女たちの再来は、僕を震撼させた。おおよそ最近までありえないと思っていたことが目の前で起きているのだから当たり前だ。そんな彼女たちは僕の後ろの席にいる。
午前の授業は終わりちょうど女子群から質問攻めタイムに入っているところだった。面倒くさいだろうな。特に染羅の方はこういうの苦手じゃなかったかな。大丈夫なのだろうか。心配くらいはする。行動はどうあれ、僕のことを気にかけてくれている人達のことなのだから。
「つまり2人はこっちの方に帰ってきたんだ。」
「そういうこと。」
あぁ食らってるな。返しは彩羅が行っているようだ。まぁそれなら染羅の負担面は大丈夫なのではないだろうか。
「向こうで好きな人とかいなかったの?」
「向こうで?いるわけ無いじゃん。」
彩羅の方はすっかり溶け込んでいるようで何よりだ。やっぱりコミュ力は健在だったようだ。
「じゃあこっちにいるの?」
「え、何で?」
「だってもう決めてるみたいな口調だったからさ。」
気が付かなくてもいいところに気がつく。なるほど、勘がいいというのは時に災いを招くということか。と、言うか気が付かないほうがおかしいか。さて、彩羅。下手したら僕にも被害が出るからちゃんと流してくれよ?
「あぁ………まぁいないことはないよ。」
「えぇ、めっちゃ乙女。」
えぇ、めっちゃ焦った。心臓に悪いからやめてほしい。この質問攻めかなり危ないな。
「染羅ちゃんの方はいるの?」
あぁ………危ない。僕はこれから自分の身に降りかかることが怖くてたまらない。大丈夫なのだろうか?
「私は………いないかな、そういう人。」
おぉ………いつもの如く冷静に対処。しかしながらここまで冷淡に言われたらチョット寂しいような。
「前は居たんだけどね。引っ越しちゃってから会えて無い。私の手を引いて外に連れて行ってくれたんだ。それがきっかけで彩羅との仲も良くなってさなってさ、3人でよく遊んだんだよね。そこからずっと好きなんだけどもう会えそうにはないな。会えたらお礼言いたいんだけどな。」
そう言えば、過去に彩羅と遊んでて外に行こうってなった時に「ほら、染羅も!」って言って手を引いて連れ出したことあったな。ということは何だい?本人にしか伝わらないけど露骨なアプローチかい?それとも僕以外にそんな人が居たのかい?
「あぁ、染羅もその人なんだ。」
あ、露骨に乗っかった。これは僕確定なようだ。ただボロが出ないように祈ろう。きっと僕ということがバレたら、周りからの視線は酷いものになる、僻むものだったり早く決めろと即決を促す者だったり………ともかく僕はそう言うのは嫌だ。
かと言って彩羅や染羅と離れるのも………何処か寂しいな………。なんでだろう。
「へー、2人ともおんなじ人好きだったんだ。なんて名前の人なの?」
「あぁとぉ………それね?」
「それは………。」
やばい。これはかなりやばい。この質問だけは出てきてほしくなかった。しかし出てきてしまうよな?忘れたっていうのはおかしいだろう?どうするんだ?
「えっとぉ。」
「………。」
彩羅は完全に言葉に詰まっている。染羅も黙り込んでいるが………これは助け舟を出したほうがいいのか?僕に関わることだしな。とは言えどうすればいいんだろう。まぁ適当に話をそらすくらいならできるかもしれない。やってみようか。
「何話してるの?」
「恋バナ。小鳥遊も興味あるの?」
「意外かもしれないが興味あったりする。」
実際のところはそういった話にそこまで興味はない。ただ、これからに関わる話だ。参加しないわけには行かない。
「へぇ意外。今2人の小さいときの話聞いてたんだ。」
「ほえー、幼馴染との恋愛?」
僕は2人に向かってそう問いかける。無論答えは知っているのだが少しでも話題を反らせることができればと、そういう考えだ。
「うん。」
「彩羅さんは何でその人のこと好きになったの?」
「え、あぁ………恥ずかしいな。えっとね、小さい時に流行ってたドラマがあってね、そこでヒロインとそのヒロインが好きな人とがキスするシーンがあったの。それで影響されて私も………その幼馴染にキスして………で、その幼馴染の反応が可愛くてさ。ずっと見てたいなって思うようになってて気付いたら好きだった。」
まぁ知ってた。
「なかなかアグレッシブなんだね。染羅さんの方は、何でその人のことが好きになったの?」
「私は、もともとその時に彩羅との疎遠感を感じてて、よくその人と彩羅が遊んでてさ。でも私は言い出す勇気とかなかったから黙って見てた。それでさ、ある時に彩羅がその人と一緒に外に行こうとしてたの。それも私は見てたんだけどそれに気がついたその人が『一緒に行こう』って手を引いてくれてさ。それで3人で遊ぶことが多くなってさ。そのこともあって………正直まだ好きなんだよね。」
ここでのアタックってどうなのかなとも思うが………平常心、平常心。
「マジの乙女じゃん。」
「そうそう、それで染羅さ引っ越した後大泣きだったんだから。」
「それにつられて彩羅も泣いてた。」
なんだ2人ともガチの乙女だったんだ………ガチの乙女じゃなきゃここまで執着なんてできないか。そりゃあそうだわ。
「そんなに好きだったんだ。」
不意にその言葉を放った。これこそが僕のプレイミスだったのかもしれない。確かにこの言葉分かってる側からしたら頭に『僕のこと』とつく。告白を促してるようなものだ。
「あ、当たり前じゃん!」
彩羅が過剰反応を示す。顔が少し赤い。恥らっている。何故本人に好きと伝える分には良くて第三者がいると恥らってしまうのか。確かに告白シーンを見られるのは堪える。多分それと同じとこなのだろう。
「どうしたの彩羅ちゃん?」
さてと、状況が悪化したぞ。どうしようか。あぁ足を突っ込むんじゃなかったなと思いつつもちゃんと解決策は考えている。このまま俺が地雷を踏んだことにするのがいいのか?いや、後々面倒くさい。却下。
「そ、そのくらい好きだったんだよ。当たり前じゃん!」
ゴリ押しに出た。まぁ最善策なような無理があるような、といったところだが。まぁ乗っかるか。
「顔すげー真っ赤じゃん。」
なんと言うか、これは僕が彩羅のことを追い詰めてないか?
「う、うるさいな!」
なんだ、案外可愛いじゃん。と言うかなるほど恥ずかしがってる姿って可愛いわ。約10年越しに彩羅の執着の原因が分かった。そりゃあいじりたくなって当然だわな。
「彩羅ちゃん、可愛い。」
横から追い打ちを仕掛けてくる女子群。なんとか本題は果たせた。おまけに彩羅の心情の理解も深まった。結果としては良かったのだろう。まぁ本人が結構なダメージを追っていることを除けばだが。
「あぁもういい!ネタにすればいいさ!絶対にその人と幸せになってやる!」
………さっきもこんなことを考えていたな、本人にしか伝わらないちゃんとした告白………と言うかもはやプロポーズやめろ?僕今フリーズしてるんだからな?
「言っちゃったよ、この人………。」
女子群の一人からそんな声。唖然となるのは当たり前と、そういうことらしい。
「いや、彩羅には渡さないから。」
黙って見ていた染羅がようやく口を開けた。予想通り内容は張り合う気まんまんであったが………まぁ昔の光景が戻ってきたと考えれば、そんなに深刻なものでもない。
「いいや、染羅には渡さないね!」
「と言うかじゃあ尚の事名前とか居場所は?」
それだけには気がついて欲しくはなかった。しかしまぁよく覚えてたよ。さて僕も何言っていいかわかんないぞ?
「あぁとぉ………言っていいのかな?」
駄目だよ。と、その意味を込めて首をほんの少し横に振る。女子群は2人の方を向いていたため僕の行動には気が付かなかった。
さて、それはそれとして僕はもう一つ懸念していることがある。アプローチにあたって周りから知られていたほうが都合がいいという発想に至り名前を言ってしまうのではないか、というところだ。ともかく、ことあるごとに周りから何だのかんだの言われたくないのでな。大丈夫だよな。
「駄目でしょう?ほら、名前は言わないようにって約束してたし。」
染羅の嘘だ。やっぱりこういうときの染羅とはとんでもなく頭が切れる。
「あぁ………そういや恥ずかしがりだったしね。幼馴染の私達くらいとしか遊んでなかったっけ?」
事実改変はあったものの乗り切れそうだ。
「今も家があった場所とか覚えてるからちょっと今度行ってみようかな?」
それは困る。いや何もやましいものはないのだが………困る。
「私も行くよ?」
あぁやっぱり。まぁ準備はしておくか。急に来るからな。
「それにしてもその幼馴染も罪な人だね。そんなにいい人ならあってみたいかも。勿論取るわけじゃないけどさ、興味ある。」
まぁ普通そんな人が本当にいるのであれば実際似合ってみたいという気持ちはわかる。ただ、僕なんだよな………。
「でも凄い人見知りだからね。会ってはくれないんじゃないかな?」
「へぇ。一回見てみたかったな。」
そうして僕たちはなんとか危機を回避することに成功した。しかし、僕の災難がこれで終わったというわけではない。と、言うのも僕はあの2人に呼び出されてしまったのだ。5時間目の授業の時、後ろから手紙が回ってきた。放課後、この教室でとのことである。何が起こるか予想はしているが、予想外のことを起こすのがこの2人。少し心配なところでもある。