第19話 幼馴染
ある日のお昼休憩。今は午後の後半戦に向けてエネルギーの充填中だ。隣には鳥塚さん。私達の他に誰も居ない屋上。勝手に青春を感じている今日この頃。
「さてと、ごちそうさま。ちょっと、先行ってていい?」
「うん。」
そうして、私より先に鳥塚さんは行ってしまった。謎の喪失感に襲われつつも私は目の前のお弁当を平らげた。鳥塚さんと少し間を置き私も教室に戻る。いや、戻ろうとした。途中であってしまった。思わず「あっ………。」と声が漏れた。目の前に居たのは夢七だった。他の人もいる中で数秒立ち止まった。目が合っている。
「よ、よう、虹姫。」
「…。」
私は言葉に詰まっていた。最近、夢七と話してて若干思っていることがある。妙にぎこちない言葉使い、瞬間的に赤く染まっていく頬、ことばを選んでいるかのような会話の間。なんとなく察している。違うな、確信を得ている。夢七は私のことが好きなのだろう。どことなく、私はそのことに対して嫌悪のような感情を抱いていた。別に、夢七という人物が嫌いなわけではない。ただ、どうしてか嫌なのだ。幼馴染とそういう関係になるのが。これまでは何もなかった。それなのに、しどろもどろに話されてもこちらが困る。
「何でそんなに緊張してるの?」
早くこの状況から脱したい私。こうやって更に距離が離れて行くことは分かってる。
「そ、そんなに緊張してるように見えるか?」
「見える。っていうか、わかる。その事知ってるでしょう?」
「あ、あぁ。」
「そんな無駄に言葉選ばなくていいからさ、前みたいに話そうよ?」
私は素直にそう言った。
「………もう、俺らはもとには戻れそうにはないよ。」
私はそれなりに察しが利く。その言葉は選ばれた言葉ではなかった。何か取り返しのつかないことになったのだろう。恐らくは、一華と。
「そっか………一華には謝った?」
「………謝れるような状況じゃなかった。」
そんな話をしていた。噂をすればなんとやら。ちょうど教室に差し掛かったあたりだった。一華だ。向こうも予想外だったようで「あ………。」とつぶやきしばらく固まっていた。なぜ私達のクラスに?そのあたりは見当がつかないが、そんな場合ではない。このピリついた空気、私は嫌いだ。少なからず好きな人は居ないだろう。
「一華………。」
夢七がそう話しかけた。しかし返答はない。その無言の後、一華は自分のクラスに駆け込んだ。何を思ったのか夢七もそれを追いかける。1人にさせてあげられればよかったが………声は届かなかった。いや、出なかった。おそらくだが、夢七は謝りにいった。私は、基本どちらの意見も尊重したい。だからなのか………それでもなのか、声が出なかった。ただ、立っていた。
体は、勝手に動いた。私は何も考えず教室へと戻った。教室内に居たのは小鳥遊くんだ。と、言うことは一華は小鳥遊くんと喋っていたのだろうか?最近よくこの人を見かける。色んな人の話に出てくる。この人は一体どんな人なのだろうか?
「あの、小鳥遊くん。」
思い切って声をかける。
「朱雀さんか、どうしたの?」
「さっきまで一華と話ししてた?」
「あぁ………愚痴?」
「なるほど、なんとなく察した。」
そうして私は自分の席に着く。小鳥遊くんの席とはまぁまぁ離れている。遠くから小鳥遊くんの姿をみる。どうしてもあの日の2人の姿が頭をよぎる。付き合ってる………のかな。多分付き合ってるのだろうが、そんな親密な関係にこんな短時間で成れるものなのだろうか?そういえば、昨日も見かけた。その時は彩羅さんの方も居たな。やっぱり、何か繋がりがあるのだろう。まぁ、あまり介入は避けておこう。
そうして、午後の授業。そのまま走り去るようにこなした。いつもの単純な作業であるから、退屈ではあった。しかしながらサボるなんてできないので受ける他ない。放課後まではあっという間だった。私は、今日も鳥塚さんと帰る………つもりだったのだが、出くわしてしまった。
「まぁ、いいんじゃない?」
鳥塚さんはそう言っていた。
「こっち側も特には問題ない。」
小鳥遊くんがそういう。私も………問題という問題はないのだが………ちょっとがっかりしている自分が居た。ここに自分がいることに関しては少し違和感ではある。しかし、断る意味もない。小鳥遊くん、鳥塚さん、そして鷹野姉妹。かくして私はこのメンツと一緒に帰ることになった。
しかし、やはりあの3人、やけに親しい。出会って数日というわけではないと言うか………スキンシップが過剰というか………こっちが恥ずかしくなってくる。明らかに、距離が近いなんてもんじゃない。染羅さんはまだわかる。彩羅さんに関しては全くわからない。どうして腕組みできるのだろうか?と、言うか………どことなく彩羅さんと染羅さんがいがみ合っているようにも見える。おそらく、本当にいがみ合っているのだろう。つまり?取り合ってる?
「あぁ、もしかして気付いた?」
隣から、私にしか聞こえないような声で鳥塚さんがささやく。ちょっと近すぎる………。
「な、何がです?」
急なことで敬語になってしまった………ちょっと恥ずかしい………。
「小鳥遊くんと鷹野さん達、幼馴染なんだって。それで、鷹野姉妹只今アタック中。」
この構図で幸せな人というのは、存在するのだろうか?なんと言うか、いつ修羅場になっても………。
「でも、染羅さんと小鳥遊くんが抱き合ってるところ見たことが………。」
「多分、それなりにあるんじゃないかな?私も彩羅ちゃんと小鳥遊くんが抱き合ってるの見たことあるし。」
「た、小鳥遊くんって………案外女たらし………。」
「そう見えるよね。でも、本人なりに悩んでる部分もあるんじゃないかな?」
そうなのだろうか?私自慢の観察眼を持ってしてもそうは見えないが………。それにしたって、まさかあの3人が幼馴染………。うーん…確かに2人に小鳥遊くんが振り回されてるようにも見える。
「ま、まぁ私にはそこまで関係無いことですけど。」
しかし、幼馴染に恋愛感情を抱くとなると………ちょっと一概に他人事とも言い切れないような気がする。
「どうしたの?真剣な顔して?」
再び、鳥塚さんのささやき声。
「い、いや、特には。悩み事あったらいいなよ?私が乗ってあげるからさ?」
「う、うん。じゃあ、後でいいかな…?」
「うん。」
そうして、小鳥遊くんたちと別れた後、私はことの顛末を話しながら帰路を辿った。すべて聞き終えた鳥塚さんが口を開く。
「うーん………そんなことがあったのか………まず何から手を付けたらいいの?」
「そうだね、やっぱり一華が心配。」
「烏丸さんか………そこに関しては、今小鳥遊くんが相談に乗ってたね。これは、3人交えたほうがいいんじゃないかな?」
「やっぱり、小鳥遊くんですか………。」
「気が乗らなかったりする?」
「まだ、ちょっとよくわからないから。それに………。」
「………小鳥遊くんなら、朱雀さんのこと多分何も思ってないよ。」
「え?」
「大体なんか思ってたら、一緒に帰るの許可しないし嫌な顔だってしたりするだろうさ。でも、そんな事なかったでしょう?」
「う、うん。」
「だから、大丈夫。それに、直接が嫌なんだったら私が仲介に回るし。」
「ありがと………。」
「それじゃ、まずは烏丸さんね。」
「そ、そうなんだけどちょっと一つ思い出したことがあって………役に立つかわからないけど………何なら厄介事になるかもだけど………。うちの弟さ光華って言うんだけど、最近一華とあったらしいんだよね。」
「それがどうかしたの?」
「光華さ、一華のことが好きみたいなんだよね。」




