第17話 私にとって、あなたが一番の華
あの後のことだが、特に何もなかった。まぁ何もなかったかなかったかで聞かれたら………あったのだが、何もなかったことにしてくれ。流石にこの年で一緒にお風呂はまずいだろ、とだけ言っておくことにする。それ以外は想像に任せるとして、休日を挟んだはずなのになぜか僕は少し疲れている。一番は母さんの誤解を解くことだったろうな。多分未だに解けてないだろうが。さてそんな中迎えた月曜日。昨日も見た顔ぶれの2人とともに通学路を辿っていた。そうして、いつものように鳥塚さんと合流したのだが………この2人はどういう組み合わせなのだろうか?鳥塚さんの隣には朱雀さんが居た。
「おはよう。珍しい組み合わせだね?」
僕がそう声をかけた。そうすると鳥塚さんは「そうだね。」と言って少し間を置き、悪戯に笑ってこういった。
「土曜日拾った。」
「ひ、拾ろわれてないです!たまたま一緒になっただけです!」
何故か必死になってそう訴えかける朱雀さん。
「鳥塚さん、この土日でなんかあった?」
「あぁ………あったよ。」
「待ってそれ以上言わないで!ほら早く行こう!」
「はいはい。わかりました。じゃあごめん。先ちょっと行くね?」
「う、うん。」
鳥塚さん、なんか性格変わったな。なんと言うかはっちゃけた感じになった。しかし謎だ。一体どういう経緯があったのだろうか?まぁ機会があれば聞いてみようか。そしてもう一つ、朱雀さんで思い出したことがある。烏丸さん問題があったな………。最近1日の内容がとても濃いんだよな。少しくらい休ませてくれてもいいんじゃないだろうか?
「はぁ………。」
「どうしたの?雉矢。」
「なんか元気無いね。」
心配はありがたいが、この2人が集まったとてどうにもできそうな問題でもないので「月曜日かって思ってさ」と適当に返事をしておいた。
学校に着いて授業をこなし、お昼休み。教室に2人の声。僕は烏丸さんと話し合いをしていた。先週の散々な結果を振り返っていたのだ。何が起こっていたかを簡単に説明すると、僕がどうやって注意を烏丸さんに向けたらいいのかわからなかったので結局何もできず進捗を得あることができなかったのである。
「はぁ、今週こそちゃんとやってくださいね?」
「それなんだけどさ、これ僕関わる必要性ってあるの?」
「あります。大アリです。小鳥遊さんは夢七と仲いいじゃないですか?」
「そう、そこなんだよ。前も言ったと思うが烏丸さんのほうが仲いいだろ?僕が無理やり烏丸さんのことを話題に振るよりも、烏丸さん自身が自分のことをアピールすればいいのにって思って。」
「それは………無理です。夢七は、私を幼馴染としか見てないから………私自身がアピールしたってなんの意味もないです。」
「じゃあ、それ僕がしても尚の事意味無いんじゃないか?」
「そ…そうですね………て、いうかなんですかさっきから。まるで私に諦めろって言ってるみたいじゃないですか?」
「まぁ、実際今のプランには少し問題があるんじゃないかと思ってる。と、言うか今のじゃあ無理に決まってる。」
「何でそんな事わかるんですか?」
だんだんと烏丸さんが感情的になっているのが分かった。
「夢七は、朱雀さんのことが好きだからだ。」
「そ、そんな事知ってますよ………だから………。」
「僕が言いたいのは朱雀さんの真似事をして振り返っていた振り向いてくれますか?って言う話だ。朱雀さん本人のことが好きな相手にそんなことをしても意味なんて無いだろう。」
「それは………そうですけど。じゃあなんですか?その打開策はあるんですか?」
「ない。」
残念ながらそんな者は無い。そんな考えをひねり出せるような頭じゃないからな。
「じゃあ………振られろっていうんですか………?」
「そうとも言ってない。何もないなら、0から考えようってそういう話だよ。」
「そ、そう言われても………なにもわかんないですよ。」
「僕だってわかんない。わかんない時はどうすればいいか知ってるか?」
「………どういうことですか?」
「先人に学ぶに限る。そこから思うに、いつもよりちょっと過激なことをしてみたりとかいいんじゃないか?」
一瞬沈黙が走る。そうして少し顔を赤らめた烏丸さんが口を開いた。
「………なに考えてるんですか?馬鹿ですか?」
ちゃんとした暴言が飛んでくる。まぁこれに関しては100僕悪い気がする。
「悪い、僕の伝え方が悪かった。いつもよりちょっと近い距離感。そこから攻めていくのとかはどうなんだ?ってこと。」
「た、例えば?」
「例えば………例えば、いつも隣に並んで歩くくらいなら、思い切って手をつないでみる、みたいな。」
「なるほど………なんとなくわかりました………実践してみます。勇気が出たら………。」
そうして、その日の話し合いは終了した。その日の放課後のことは僕はわからない。完全にここから先は烏丸さんの勇気次第だ。僕から後一言言えることがあるとすれば『頑張れ』その一言だけである。
4月半ばの月曜日。その放課後のことである。私は幼馴染の夢七とともに下校していた。表面は平然としていたが内面はバクバクであった。私は夢七のことが好きだ。小さなときからずっと。でもそんな夢七には好きな人がいる。本当は今すぐにでも好きだと伝えたい。でも怖い。
「一華、今日ちょっと元気なさそうだな?なんかあったか?」
「い、いや。なんでも無いよ。」
今日、友達に言われたこと。いつもより少し過激なこと。例えば、今みたいに並んで歩いているのだとしたら、手をつないでみる………考えただけでも………熱い。
「顔赤いぞ?熱でもあるんじゃないか?」
そう言って顔を近づける夢七。あれほど大きかった身長の差がどんどんと縮まっていく。
「だ、大丈夫だから。」
「そうか………きつそうだったら言えよ?おぶってやるから。」
その言葉に更に心臓は跳ねる。いっそ、ここでおぶってもらおうか?でも、死ぬほど恥ずかしい。でも………このチャンス、逃したくない。
「ゴメン、やっぱり………おぶって。」
私は、本能に従いその言葉を発した。
「了解。」
そう言うと夢七は腰を下ろした。私はその上に乗っかる。
「捕まっとけよ?」
「………うん。」
夢七の体温を感じる。色々あたってる。夢七の首周り、背中、腕………あぁ男子なんだな………私とは全然違う。私の胸、お腹、足………夢七にはどんなふうに伝わってるんだろうな。でも………やっぱり幼馴染なんだろうな。じゃないと………こんな事しないよね。はぁ、正直に言うと憎い。朱雀 虹姫がとんでもなく憎い。まさか幼馴染に対してここまでの嫌悪を抱くなんて思ってなかった。
「ねぇ………夢七。」
「どうした?」
「虹姫のことってどう思ってる?」
「あ、あぁ………友達だよ。」
「そっか………じゃあ、私のことはどう思ってる?」
「それは………つまりどういう意味で?」
「………友達としてじゃなく………恋愛対象として好き?」
私は、夢七の耳元で囁いた。返事なんて分かってる。でも、何故か期待している。求めてしまっている。
「一華は………一華は幼馴染だよ………。」
「………だと思った。幼馴染じゃなきゃこんな事できないもんね。大丈夫特に意味はないから。」
私はその日、その嘘をついた。なるべく明るく、できるだけいつもどおりに、平然を装って嘘をついた。夢七を騙すため、自分を落ち着かせるため。
「夢七もう大丈夫ありがとう。」
「お、おう。じゃあまた。」
「うん。また。」
見え透いた嘘だ。私は今、泣いてるじゃないか。
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