第12話 好きじゃない
「はぁ、尽くバレてくな………。」
放課後、いつもの帰り道。結局あの後僕たちは幼馴染であることを白状した。流石に、取り合われていることについては触れなかったが………このままではクラスにバレるのも時間の問題である。
「もうバレちゃってもいいんじゃない?」
鳥塚さんがそう言うと彩羅も「そうだよ、もういいじゃん。」と便乗した。
「それが駄目な理由、何で彩羅は分かってないんだ?」
「へ?」
「はぁ………女子勢に質問攻めにされてとっさについた嘘のことを覚えてないのか?間違いなく僕は選択を迫られる。そうしてなかなか返事をしない僕に対してしびれを切らし『最低』のレッテルを貼るだろう。そんなの面倒くさいんだよ。」
「あぁ、そんなこともあったよね。」
駄目だ、彩羅は結構ちゃんと覚えてなかったらしい。
「でもそれさ、雉矢が早く返事くれたらいいだけじゃない?」
「あぁ、まぁそうなんだけどさ、僕もまだどっちのことが好きなのかはっきりして無いし………多分今の気持ちは好きとはまた違うから。」
「そうなの?」
「多分。僕はどっちかじゃなく今はこのままで居たいんだ。だからこれは違うだろう………?僕はまだ彩羅のことも染羅のことも好き―――――。」
「やっぱりそういう関係だったんですね。」
聞き覚えのある声だな。つい最近聞いた気がする。そうだな、だいたい昼休憩くらいかな。名前までしっかりと覚えているぞ。
「………烏丸さん、聞き耳は良くないよ。」
さて、どうしたものか。僕はかなり焦っている。もう誤魔化すのは流石に不可能だろう。諦めというのは肝心なんだな。
「いやぁ帰り道がたまたまおんなじってわけじゃないんですけどね、見かけたからついて行ってみたらやっぱりそんな関係じゃないですか。」
はぁ、わざわざつけてきたということか。なんともご苦労なことである。しかし、とんでもなく迷惑である。
「えっと………小鳥遊くん、この人は誰?」
そうだ、鳥塚さんは確か初対面だったな。
「烏丸 一華さん。クラスに白鷺 夢七って居たでしょう?あいつの幼馴染で、僕も今日知り合った。」
「そうなんだ。」
「さてと、それで烏丸さん。どうしてつけてきたの?」
「えっと………実際は小鳥遊さんにお話があったんだけどね。あの、例の1件で。そんで話しかけようと思ったらどうだい、鷹野さんたちと一緒にいるじゃないか。そりゃあこっちだけって居言うのは不公平でしょう?」
「あぁ………だいたい分かった。」
はぁ………今日はため息が多い日だな。
「えっと………彩羅、染羅、鳥塚さん。先帰ってて。すぐ追いかけるつもりだから。」
「えー。」
「………分かった。」
あーこれはアレだな。今日は染羅、家に来るな。なんか分かった。そうして、3人には先に行ってもらい、僕と烏丸さんはお昼の話の続きを初めた。
「じゃあ本題に入ります。」
「はい。お昼の僕の提案になにか質問でも?」
「質問と言うか………まぁ質問なんですけど。振り向かせるって言ってたじゃないですか?具体的に何したらいいですかね?」
「それは烏丸さんのほうが知ってるんじゃないのかい?僕はあいつの好みや好きな仕草なんてミリ単位も知らないぞ?と言うか、知っててみろ。それは怖いだろう。」
「まぁそうですね。でもこう………なんか言ってたとか無いですか?」
「しらないけどなぁ………それこそ今日の烏丸さんの言ってた話を聞くまでは何も知らなかった。」
「そうですか………。」
「さっきも言ったが、これに関しては烏丸さんのほうが知ってるだろう?それ元にアタックしていけばいいんじゃないか?」
「それが、そうも行かないんです。実は………お昼の話ちょっと続きがあって。あのタイプなんですけど直訳すると………虹姫………朱雀 虹姫が好きってことなんだよね………。」
「あぁ………なるほどな。なんか納得した。」
と言うか僕の予想かなり外れてたな。恥ずかしい限りだ。なるほど、好きな人がいるかどうか聞かれただけであんなに顔真っ赤になるんだ、幼馴染に聞かれていいような話じゃないんだしあんな反応になってもおかしくはないか。なんかそう考えると不憫だな。知らない間にサーチされてんだもんな。
「と、言うか、朱雀さんってうちのクラスだけど知り合いなの?」
「幼馴染です。」
な、なるほど。なかなかに面倒だなこれは。本当に………どうして僕は今年度に入ってここまで運がないのか。なんか去年悪いことしたかな?いや、何も思いつかない。
「なるほど、なかなか………修羅場になってもおかしくはないな。」
大丈夫なのだろうか?僕は大丈夫な気はしてないが。
「まぁそうだよね………でも私は負けたくないからさ、だから手伝ってほしい。夢七を振り向かせたいから。」
正直、かなり難しい。この問題は僕みたいな恋愛ド素人が首を突っ込めるような問題じゃない。しかし………面倒ごとには足を突っ込みたくはないがお昼にあんなことを言ってしまったため断ることもできない。と、言うかこの状況で断れるほどの者じゃない。
「まぁ………過度な期待はよしてくれよ?」
「じゃあ、期待はしてる。」
「………了解。それで、具体的に僕って何したらいいの?」
「小鳥遊さんはできるだけ夢七の目線を私に向けてください。そっから先は私がやるんで。」
「なるほど、了解。とはいえ僕も不器用だからたまに突拍子もないことするかもしれないけど許してくれよ?」
「うーん、ある程度は。ただ、私が好きって言ってたことさえ言わないでいてくれれば。想いは自分で伝えたいんで。」
やはり、想いというのは自分から伝えてこそと、そういうわけだろう。僕も中途半端じゃ駄目だよな。
「了解。話はこれでオッケイ?」
「はい、大丈夫です。早速明日から実践ということで。」
「おう、了解。」
そうして、その場は解散となった。僕は3人を追いかけたが既に帰っていた。彩羅と染羅待っててくれそうだと思っていたんだけどな。久々の一人の帰り道は、なんだかとても寂しいような気がした。
そうして自室のベッドで1人、また考える。やはり、僕はこの関係性が一番落ち着いているのだ。ずっとこのままで………というわけにも行かない。僕はいずれ決断を迫られる。彩羅か染羅か。そんな事どうでもいいから、純粋だった頃みたいに3人で話していたい。今はそこに鳥塚さんもいるのか。そうだ、僕は彩羅と染羅と、友達で居たいんだ。この僕の気持ちは伝えたほうがいいのかな?きっと伝えるべきなのだろう。そうしたらどうなるだろうか?失望されるだろうか?崩れ去っていくだろうか?どちらにせよ僕は、それが怖くてしょうがない。とんでもなく自己中のクソ野郎だ。こんなどうしようもないやつでいいのだろうか?分かってるさ。良いわけがない。僕はどちらにせよ変わらなければならない。
「もっと………ちゃんとしなきゃな。」
僕は………変化の時を迎えている。
「変わらなきゃ。」
そう呟いた。その時、何の脈絡もなくインターホンが鳴った。ある程度誰が来たかについては察している。僕は階段を降りて、玄関へと向かう。その足取りは少し嬉しそうであった。扉を開けるとそこには、少ししょんぼりした顔の染羅が立っていた。その染羅から言葉が放たれる。意外なものであった。
「雉矢は………私のこと………嫌い?」
「いや、何で?」
「最近、ずっと避けられてるような気がして………正直寂しくてしょうがない。だからさ………嫌いなのかなって。嫌いじゃない………好きでもないの?」
彼女は僕に訴えかけているようであった。
「僕は………まだ………好きじゃない………。」
また………これだ。
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