第10話 仲直り
雨は上がり、脇腹の痛みは既に引いていた。私は今、自分の家の前に立っている。何も、考えれない。私は取り返しのつかないようなことを言ってしまった。今、自分の置かれている状況からどうして小鳥遊くんに告白したかまで。それも暴言口調で。痛みによる錯乱であったが、それでいても喧嘩まで発展してしまった。最後、私は納得させられたが、明日から私は小鳥遊くんにどういう顔をしたらいいかわからない。私はこういうことがあった時リカバリーできるような器用な人間じゃないから。そんな人が確か周りにいたっけかな?名前は朱雀 虹姫だったっけ?生憎あの人は八方美人極まりすぎて浮いてしまってる。私も、正直あの人は苦手だが今回ばかりは教えを乞いたいものである。
「何考えてんだろう、私。」
そう一蹴して私は自分の家の扉を開けた。
「ただいま。」
今日もその声に対する返事はない。私1人だけの空間。私は天井からぶら下がった縄を見ていた。もう3年ずっとこの状態で垂れ下がっている。その下にある椅子ももう長いことこのままだ。部屋全体。あの日から一切変わっていない。まるで強盗にでも入られたように散らかった部屋。
「はぁ………いい加減掃除しようかな。」
そうして、私は部屋の電気をつけた。薄暗かった景色が鮮明になる。まず私が手を付けたのは、目の前にある邪魔くさい縄だった。今までこいつが私のことを『死にたい』という感情に縛り付けてきた。当然の順番だ。そうして椅子も元あったところに戻し、引き出しの中、床のシミなんかも掃除した。
「何でアイツの散らかした後を私が掃除してんだよ。ふざけんな。」
そんな愚痴をこぼしつつも、内心ホッとしていた。どうやら、私の中にあった何か悪いものが今日の喧嘩で取れたようだ。私のことを友達と呼んでくれた。心配してくれる人がいた。その人のことを裏切れるかと聞かれたら、どうも私はそんな事できるほど腐っていなかったらしい。
冷静になって、軽くなった頭で考えてみれば今日の出来事は私にとって救いではなかっただろうか?頼れる人ができた。依存じゃなくても良かったのだ。私にはしばらくそんな人必要にないかな。
「小鳥遊くんへの告白、取り消さなきゃ。」
友達でいてくれると、小鳥遊くんも言っていた。私は、このままの関係で十分幸せだ。小鳥遊くんがいて、それを取り合う鷹野さんたちがいて………なんだ、それだけでも十分楽しいじゃん。私は、友達の立場から見守っておこう。
「にしても小鳥遊くんも幸せだよな。あんな可愛い姉妹から告白されて………羨ましいかもしれない。さてと、明日は仲直りから初めなきゃな。」
私は変わることができた。小鳥遊くんの言葉のおかげだ。あそこまで全力になってくれたのは何でだろうか?正直だいたい分かっている。友達だから、だろうな。そりゃあ死んでほしくないよな。声かけられた後、その声かけてきた人が死んだら、そりゃあショックだよね。しかも、小鳥遊くん私のことどちらかと言うと振ってるし。
「まぁ、総じて感謝しか無いかな。そこらあたりも明日伝えないとな。よし。課題やって風呂入って寝るか。」
そうして、私は、いつもどおりの時間帯に目が覚めた。いつもより身体が軽い。こんな目覚めはいつ以来だろうか?ともかく、とてもスッキリしている。準備も終わり、玄関の前に立った。
「さてと、そろそろ行こうかな。行ってきます。」
そうして、そうして………私は朝一番、最悪の出会いを遂げてしまった。
「おはよう、小鳥ちゃん。」
その声には聞き覚えがあった。何度か話したことがある。何故だ?私が昨日望んだからか?
「お、おはよう。朱雀さん………。」
「前も言ったでしょう?虹姫でいいって。」
その言葉に私は少し苦笑いを返すことしかできなかった。朱雀 虹姫。改めて紹介し直そう。確かに良い人だ。みんなに対して。どんなことも肯定する。正直、うざったい。自分の意見ではなく相手の意見を尊重する、というのとはまた違っていて、誰の意見にでも乗っかると言うか………苦手な人だ。誰の意見にでも乗っかるためみんなからも疎まれている。それを本人が知っているかわからないが、多分気がついていないだろう。だから尚の事距離を置かれ、クラス………正確には女子の中のヒエラルキーじゃ浮いているのだ。
「ねぇ、一緒に学校行こうよ?」
「え、あ、う、うん。」
あからさまに、嫌な態度を取るのもアレだろう………。まぁこんなことをしているから、あちら側はより距離を詰めてきているのだろう。うーん………辛い。しかし、容姿こそいいんだから黙っていればいいのに。因みにこのこともハブられたりする原因になっている。
「ねぇ、小鳥ちゃんって今悩んでることとかある?」
いきなりすぎる………。現座進行形であるなんて言えないし………いや、あるな。小鳥遊くんのこと………。
「昨日………小鳥遊くんと喧嘩しちゃってさ。私のほうに非があるし、どういう顔したらいいかなって………仲直りの仕方っていうのかな?」
「仲直りか………普通にごめんなさいって言ったら?」
なぜ?何故こんなにあっさりとした回答が返ってくるの?もう少し………いやまぁ確かに正論なんだけどさ?そんな………興味無いですか?
「普通にごめんなさいか………まぁそうだね。」
まぁそうだよね。
「そう、小鳥遊くん。最近いつもいるけどさ、どうしたの?」
「………色々あったの。」
「私に言わないの?」
「言えない。ただ友達なだけだし、いいじゃん。」
少し突き放すような言い方をしてしまったかもしれない。しかし、本当に言えたようなことじゃない。
「へぇ………言ってくれないんだ。」
少し声のトーンが下がっている?なんだか今日の朱雀さんはおかしいような………ダル絡み?今までそんな事してこなかったはずだけど、どうしたのか?
「まぁ、いいよ。やっぱ先行く。それじゃ。」
そう言って本当に先に行ってしまった。
「………どうしたんんだろう。」
そうしていつもの時間。そろそろ、小鳥遊くんたちと合流してもいい頃だ。
「おはよ、鳥塚さん。」
聞き馴染みのある声だった。昨日私のことを叱咤してくれた人。
「おはよう、小鳥遊くん。」
彩羅ちゃん、染羅ちゃんもいる。しかし、取り敢えずまずは謝らなければ。
「えっと、昨日はごめんなさい………心配かけました………。」
「僕も、ごめんなさい。ちょっと、気持ち考えきれてなかったかもしれない。」
「そりゃわかんないって、小鳥遊くんは私じゃないんだから。それで、前告白したじゃん。」
「あぁ、そうだったな。」
「取り消しで、いいですか?」
「友達のままってことだよな?」
「うん。私はそれで幸せだから。」
「依存………しなくても大丈夫なんだな?」
「もう大丈夫。友達がいるから」
「そっか。じゃ、これからもよろしく。」
「うん。」
そうして、私の1件は終わりを迎えた。迷惑をかけた分申し訳ないと思っている。しかし、このような結果に落ち着いて本当に良かった。私は、幸せだよ。
「て、言うか雉矢、告白されてたの!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「言われてない、そういうのはちゃんと言ってよね?」
小鳥遊くんは今日も彩羅ちゃん、染羅ちゃんの争奪戦に巻き込まれてて大変そうだな。でも、幸せそうで何よりだよ。
「ふふ。」
私は、少し笑っていた。
「何笑ってんの?ちょっとこの2人止めてよ?ヤバいって、登校中だって?ちょっと、もう彩羅、染羅離して。離してって!!」
その声が印象的な朝だった。
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