第1話 こんな再開ってないでしょう?
ある、春の日のことだ。高校2年に上がった僕は、戦慄していた。僕は、ただ平穏な生活を送る高校生で居たかった。いつもの生活をしたかった。しかし、その安寧も今日で崩れ去るかもしれない。
いや、表現としては流石に大げさだった。
僕がここまで焦るのには理由がある。今日、双子の転校生がこの高校にやってくるらしい。それがまぁ………女子。転校生と言うだけであれば僕はここまでこの話に食いつかなかったであろう。しかし、双子、それも女子となれば少し話は変わってくる。
僕には双子の幼馴染がいた。名前は、彩羅と染羅。まぁ………たしかに可愛かったさ。それこそ大人しければ。なんと言うか、彩羅に関して言えば………アグレッシブなんだよな。とても積極的と言うか………。染羅の方は………悪く言えば執着的。
たまに彩羅のブレーキにもなってくれていたが………。とにかく両方とも僕に対する好意から来る行動というのは分かっていた。だが、生憎僕は幼馴染ということもあってか、そこまで好意という好意は存在していなく………正直怖かった。
いや、ちゃんと友達としては好きだった。そこだけは勘違いしないでいただきたい。そんなことがあった幼少期、結局その双子は小学校低学年のとき引っ越していってしまったのだが………母から聞いた話によるとどうやら近々その子達が帰ってくるらしい。
この学校もうちの近所………そしてこのタイミングでの転校生。正直、僕は恐怖していた。
しかし、恐怖したところで時が止まってくれるわけはない。その時は訪れた。扉が開かれる。まず、いつもどおりに先生が入ってくる。朝のホームルームは順調に進んでいく。
こういう時に限って時間というものは早く進んでいくものなのだ。そうして聞き流していた話が終わり、いよいよ他のクラスメートからしたら本題のものへと話が移り変わる。
「じゃあ知ってると思うけど転校生の紹介の方に入ります。入ってきて。」
そうしてその2人の姿が顕になる。あぁ、杞憂に終わってほしかったところだがそうは行かなかったようだ。見覚えのある2人の顔。奴らだ、鷹が来た。
「2人とも自己紹介お願いします。」
「はい、姉の鷹野 彩羅《たかの さら》です。」
「鷹野 染羅《たかの そら》です。」
予想通り鷹野じゃないか………いや解っていたさ。このくらい。もうここは鷹の野原だ。決して小鳥が遊べるような環境ではない。全く持って名前としての相性は最悪だ。僕の名前は小鳥遊 雉矢《たかなし きじや》なのだから。
まぁ名前だけで全てが決まってしまうわけじゃない。流石に僕のことを忘れていてくれることを願うか………。
「じゃあ2人の席は窓際の奥のほうね。」
その席って僕の後ろじゃあないか?
「小鳥遊くん色々教えてあげて。」
小鳥遊………その言葉を聞いた途端2人が少し反応しているように見えた。この先生基本優しいんだけどな………今日だけは恨む。
「………はい。」
流石に声を荒らげるわけにも行かないので平然を装う。少し反応が遅れたことに関しては突っ込まないでくれ。
先生の「席について」の声で2人ともが僕の後ろに座った。そうして彩羅の方から声が聞こえた。
「雉矢、みっけ。」
悪寒がしたのは言うまでもあるまい。こういう時、染羅はストッパーになってくれていたのだが………。
「雉矢、もう逃さない………。」
………僕が凍りついたのは言うまでもあるまい。
彩羅のからかったようなトーンとは対象的に、低めのトーンでかなり………病んでらっしゃる?正直今、命の危機すら感じている。この後この2人に監禁でもされるんじゃないかとも思う。取り敢えず………挨拶でもしよう………。
「彩羅、染羅………久しぶり。」
「あ、やっぱり覚えてるんだ。」
「覚えてないわけがない、お前たちからされたこと多分絶対忘れないと思う。」
「少しからかってただけじゃん?少なくとも私は。」
「よくもまぁキスまでしといてそんなこと言えるよ。あんな強引なシチュエーションあってたまるか………。」
おかげで押し倒されてのキスが僕のファーストキスになった。小学生にしてあんなことができる人はなかなかいないだろう。それがたとえドラマなどの影響であったとしても。………いや、影響を受けやすい時期であるならありえるのか?生憎僕はそういった分野のことはわからない。
「あぁ、そんなこともあったね。でもさ、しょうがないと思うよ?あんときの雉矢マジ可愛かったから。」
そうやって、自分を正当化していくのだ。可愛かったからその顔がもう一度見たいって………正当化じゃない。もはや開き直ってるな。
「………そうかい。」
もはや呆れた。その領域だ。
「………彩羅、授業始まるよ?」
その一声を上げたのは染羅だった。ブレーキにはなってくれたらしいが………とてつもなく冷ややかな声だった………これブレーキじゃないな。多分嫉妬だ。染羅の方に至ってはここまで変わっているとは………。時間とは恐ろしいものである。
「チッ………もっと話してたかったのに。」
何か、ピリついている気がする。これは修羅場待ったなしのような気もするが………まぁ授業始まるし大丈夫だろう。そこまではちゃんと解ってくれてるはず。
一時間目、現代文。毎度思うことだが、現代文というのは一体どういうものを目的としているのだろうか?作者の考え?そんなの表面しかわからないじゃないか。書いてあることからしかわからない。そこの裏にあるものなんてわかるわけない。僕はエスパーでもないんだから。
以上のことを踏まえ、僕そういったものが嫌いなのだ。何からでも学びを得れると思うな、と一言だけ言いたいがそんなことをする勇気は僕には備わってない。
無論、一概に嫌いだからやらないというわけではない。思考能力の成長という面で言えばいいのかもしれない。それのもそれで思うところはあるのだが、皆が同じ思考ってそれどうなの?と言うところである。
「雉矢、授業つまんないんだけど。」
後ろから小さくそんな声が聞こえた。彩羅の声だ。彩羅も染羅も声はにているがなんとなくわかるものなんだな、と感心しつつ彩羅のその言葉に対する返答を考える。しばらく間をおいたがやはりこの言葉しか出なかった。
「僕は先生じゃないぞ。」
逆にこれ以外何という答えがあるのだろうか?
「そんなこと知ってるよ。」
一瞬頭が回らなかった。
「じゃあ尚の事どうしろと?」
「やっぱりさ、授業内容がわかんないからだと思うんだよね。だから雉矢、教えてよ?」
「教えるって………黒板写すだけだが?」
全く持って当然だ。数学や英語などの問題を解いているときならまだしもこのような、ただ書き写すだけの授業をどう教えろと?
「………バレたか。」
やっぱり彩羅は馬鹿なんだろう。
「全く、授業に集中しろ?」
そう、諭すと「はーい。」という声が帰ってきた。本当に何なんだか。こういう時は染羅の方を見習ってほしいものだ。
「雉矢、わかんないところがあるんだけど。」
これは………あれだね。染羅の声だ。うーん、早いな。裏切るのがチョット早いな。
「あぁ………どこ?」
一応そう聞いた。
「作者の考え。」
これはこれで一番帰ってきてほしくない質問だったな。
「僕がそんなもの答えられるわけがないじゃないか。」
「じゃあ雉矢ならどう考える?」
「え?僕?」
厄介だな………僕ならどう考えるか。僕ならこの教科書に載っている物語で何を伝えたいか。文面から読み取れることじゃなく、僕がどういった時にこの言葉をチョイスするか。例えば、風刺として。
「僕ならこれは風刺なんじゃないかなって。」
「どこらへんが?」
「え、えーと………他人のことばかり見て自分の置かれている状況に気づかずに逃避してるところとか?」
「なるほど………やっぱり雉矢、頭いいね。」
「あ、ありがとう。」
いきなり褒めるじゃん………。
「また、わかんないとこあったら教えてね?」
困り気味の顔でそんなことをお願いされた。いや、おねだりというべきか………。
「!…分かった。」
不覚にも僕は最後ドキッとしていた。何故?まぁ、自分に正直になろう。染羅が可愛かった。先程僕の背筋を凍りつかせた人物とは思えないほどに可愛かった。
まさか………堅実なアプローチではないのか?妄想はここまでにしておいて、ちゃんと考えろ。多分そういう作戦か、単にわからなかっただけなのか。この二択だろう。これ以上はわからない。1度、考えるのはやめて僕のことに集中しよう。
『彩羅、今回は私の勝ちだね。』
『っ………。』
僕の後ろでこんなやり取りがあったことは、このときの僕はまだ知らない。